死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第八章

海の悪魔

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「なるほどな。もし襲撃があるんだったらなんとしてでも止めないといけないわけだが……」

「いったいどうすればいいって言うのよ。そもそも遠くからやって来る船団なんて止めようがないじゃない……」

話を聞き終わった先輩、ベリウスとカティはそろいもそろって苦い顔をする。スケールが大きすぎるしテレポートで逃げる相手をどうやって追い詰めればよいのか見当もつかないのだ。

そもそももう現れないかもしれない。そうなれば止めることは不可能に近い。

「10レベルの冒険者の方が生きていれば天候を制御して船団を寄せ付けないなんてことも可能だったかもしれませんが」

「呪いで真っ先に倒されてしまったですね。全く、準備の良さだけは褒めてやるです」

カイネが冗談ぽくそんなことを言うのに不覚にも微笑みつつ、マデリエネは現在の状況を確認する。

「ともかく頼みの綱は既に切られてしまっているわ。聞いた話じゃ高レベルと呼べる冒険者は、ここにいる私たちと九レベルの冒険者が二人、八レベルの冒険者が三人だったはずよ」

「大都市を攻めるつもりでしょうから、おそらくここから近くの海岸を狙って来るでしょう。テロフィ近くのイゼオル海岸とハーメルム湿地のウェレン海岸のどちらか、もしかしたら両方から来るかもしれませんね」

「他の冒険者に……会うべき……だ……」

「そうして手分けをするですね」

そうして先走る後輩に、先輩のモレノが待ったをかける。

「夢の話が本当ならそれでいいと思うけど、ただの悪い夢の可能性もある。そもそもどうやって高レベルの冒険者たちを説得するつもりだい? 彼らも忙しいだろうからただ信じるのは難しいと思うよ」

「その問題は確かに残りますわね。カイネさんには特別な力があることは、神官の私も身を以って体験しているのでわかりますが、他の人にしてみれば夢で見たというのは少し弱いかもしれませんわ」

神を信奉するリュドミーラもモレノに賛同する。

「どうにかして証拠を集める必要がありそうだな。俺は信じてるが、他の人には絶対と言い切れるくらいじゃないと動いてもらえないかもしれないからな」

そう言うザルムの言葉を皮切りに、アロイスは危険が迫っているという証拠を提示する方法をあれこれと考え始めた。

直接船を観測するのでは遅すぎるとなれば、もう魔法に頼るしかない。

とはいえ魔導書に載っている魔法では対処できそうもなかった。やろうとしていることの規模が大きすぎるのだ。

そうなればあとはもう奥の手しか残されてはいない。彼は仲間にそのことを伝えると、儀式のための部屋を手配することにした。

幸いこれは良くない噂のおかげで宿が空いていたので簡単。それから証拠を用意するためにアロイスは、ファーストライトでの話合いを閑散してからすぐに一人部屋に籠って儀式を始めた。

もちろん、古代魔法の儀式である。

今回のようなことは海の統治者とされている悪魔、ヴェパールの力を借りるのがよさそうだった。海上、海中すべてのことを司っているとされているため、彼に頼めば幽霊船団の手がかりを掴めるかもしれないと踏んだのだ。

まずは場所を儀礼的に清めて、日常の場所から儀式の場として区別、つまり聖別した後、悪魔から身を守るための魔法円を宿の床に描く。

これは意識と無意識を画する大事な境界線を意味している。

儀式中にここから向こうへと踏み出せば無意識の波に呑まれて自我を失うことになるのだ。

そうしてすべての準備が終わったらいよいよ悪魔の召喚が始まる。もっと厳密に言えば喚起だ。

アロイスが円の中で呪文を唱えて、その最後に悪魔の名前を呼ぶ。それからしばらくして周りの空気が振動し始めたかと思うと、人魚の姿をした悪魔が円の外に忽然と現れた。

悪魔から感じる威圧感はかなりのもの。常人であればその力に呑まれて誘惑され、円の外に踏み出してしまうが、アロイスを崩すのはそう簡単ではない。

彼は悪魔を完全に見下すような態度を取って、自分を主人として崇めるように言い伝える。すると悪魔は意外にも、それを簡単に呑むと言ってきた。円の外に出てきたらという条件をつけて。

いつものように円の外におびき出そうとする悪魔のささやきに、アロイスはうんざりする。

だが強大な力を制御するためにはこの相手を従えなくてはならない。手こずらせてくる悪魔の存在に張合いもあって、アロイスは面白いとでも言いたげに笑みを浮かべるのだった。
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