死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第六章

不和のトリガー

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そうしてすぐに出発しても五日もかかる距離だ。依頼の内容が内容だけに急ぐ彼らだったが、空を飛ぶこともできなければ、地面を泳ぐことなどもっと無理だ。

徒歩で急ぐのにも限界があり、しっかり見張りを立てて眠り、一応早めの四日以内にラウレンツの集落に着いた。

着いたはいいのだが、雰囲気が沈んでいて、よく見れば全員が黒い服を着ていることに気付く。

どうやら葬式の立て続けで集落全体が喪に服しているようだ。冒険者だとわかると嬉しそうにする者や、厄介者のような視線を向けてくる者もいたが、まずは部族の長、マーレウス ラウレンツのところへ行って話を聞いた。

部族長の住まいは豪勢かと思いきや、少しばかり他の民家よりも大きいくらいで、これといって目立つ様相ではなかった。

温厚派で平和主義の部族だけあって、ただふんぞり返っているような長ではないのだろう。穏やかな雰囲気でゆったりとした服を着た彼はストレンジを快く迎え入れるとさっそく今回の依頼の背景を話し始めた。

この彼、マーレウスが言うには、アルマンドの部族からの暗殺者によって、依頼を出した段階で既に四人もの戦士が殺されており、つい二日前には五人目の犠牲者が出たそうだ。

単純な実力行使から毒物を扱った犯行、さらには遠距離からの狙撃など様々な手口で魔の手が伸びて来るので阻止しようにもできなかったそうなのだ。

村を守ってきた数少ない戦士が倒されていることで集落全体が沈んだ雰囲気になってしまって、マーレウスも心を痛めている様子だ。それを見てマデリエネが残念そうに聞く。

「暗殺者を差し向けてくるなんて、どうしてそこまでの部族争いに発展してしまったの?」

するとマーレウスはため息をついた。

「知っている者もいるかもしれないが簡単に話しておこう」

それから続いた話を聞く限りは、この地域の歴史が絡んでいるらしかった。

元々このあたりの地域には三つの部族があって、このラウレンツにアルマンド、そしてシプリアンという部族がひしめき合っていた。

シプリアンは野心が強く、度々ラウレンツとアルマンドに攻め込んできたため、攻め込まれた二部族は同盟を組み、シプリアンを退け滅ぼしたそうだ。

シプリアンの部族の生き残りは武力をより持っていたアルマンドに移住を進めたことでさらに部族の武力差はとてつもなく大きなものとなった。

ラウレンツはこれに危機を感じ、様々な物資を半年毎にアルマンドに献上することで平和を維持しようと試みた。

今まではそれで上手くいっていたのだが、シプリアンが滅ぼされてからは争い事が起きなくなったためにアルマンドへの物資の献上を取りやめることにしたらしいのだ。

ところがそれがアルマンドの反感を買い、このように暗殺者を送り込んで部族戦争を引き起こそうとしているという流れだ。

「武力で守ってもらう必要がなくなったから物資の献上をやめたことでこうなったのね」

「平和が一番だってのにどうしてこうなっちまうんだろうな」

「ラウレンツの物資がそれほど魅力的だということでしょうね。平和主義の国になるだけあって、確か資源には恵まれていましたよね?」

「ああ。特にラウル川から獲れる水産資源はアルマンドには無いものだからな」

「それならもう一度物資を献上してでも平和を維持するです」

「そうしたいのはやまやまですが、おそらくは難しいでしょうね。亡くなった戦士の遺族の方が納得するとは思えませんし、アルマンドから見ても、戦力がそがれているラウレンツに今攻め込めば、資源をすべて自分たちの部族の物にできますから」

「状況が変わって土地や労働力を簡単に手に入れることができるのなら戦争を仕掛けてくるわよね。あちらさんがそうしない理由なんて、期待もできない道徳心くらいしかないもの」

「確かに困ったことになってるな。それで俺たちは具体的に何をすればいいんだ?」

ザルムが問いかけると、マーレウスは覚悟の表情で告げた。

「この部族の危機を終結させてくれ。手段は……手段は問わない」

「よそ者の私たちに部族の命運を託すほどの危機だと認識なさっているということですね」

「戦うしかなくても……ワタシは戦争なんてしたくないです。まずは話し合いをするです」

「……そうね。避けられる可能性が低くても、やれるだけやるべきよね」

「その通りだな。マーレウスさん、まずは話し合いの場を設けるということで異論はないか?」

「ああ。悔しいが君たちに頼るしか道はないんだ。よろしく頼むよ……」

そう言うマーレウスの心痛満ちた表情は、冒険者たちの脳裏に焼き付いていた。
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