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第一章 リスナー
欲しかった未来
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見つけたのは、偶然だった。
忘れもしないその名前と顔がそこにはあった。
仕事の休憩中に「有夢」としてTwitterを巡回しているとおすすめのユーザーにて、「天城梨々花」のアカウントを見つけてしまった。芋づる式に「斎藤 晴美」「山下夏鈴」も見つかった。
晴美とかりんのTwitterは鍵がかかっていて見ることができなかったが、りりかのアカウントは解放されていた。
すでに私の高校生の記憶は思い出に移行している。傷を撫でても、もう痛まない。思い出しても泣かない。時間と無夢によって治った。
けれど、私を抉った事実は変わらないし、奥深くには私の不幸を鳴らす彼女らがいる。りりかには不幸でいて欲しい、というのが私の本心だ。
りりかは有名私立大学に通ってた。
りりかが高校時代に推薦で行きたがっていた大学に無事入学することができたようだった。プロフィールには〈テニサーとボランティアサークルに所属しています。将来はアナウンサー志望。今年のミスコンに出ます!〉と書かれている。
写真はりりかの顔ばかりが映っていた。おいしそうなケーキと私。綺麗な海と私。新しく買ったバッグと私。花畑にいる私。高校生からその気はあったものの、大学生になってずいぶんと自己顕示欲が爆発しているようだ。
〈隣の女の子は、今、話題の短編映画、「南に来てッ」てに出演する、アーミ役の凛子ちゃん!!実は、私たちおともだち何です!!〉
〈今日は、特別にミラノレストランにご招待されました!!このドレスはお気に入り!〉
〈お風呂上りー。やっぱりコーヒー牛乳に限るよね〉
〈今、サッカーが熱い!!メガホン持って、応援してきました!!〉
見なくていいのに、りりかのSNSを見てしまう。りりかは不幸であるべきなのに、燦燦と輝いていた。
りりかは不登校の子供たちに勉強を教えるボランティアもしていた。子供の顔にりりかの顔を寄せ、ピースをしている写真が、未来の宝物という文と共にツイッターとインスタグラムに投稿されていた。ふざけんな。いじめた当本人が何言ってんだ。いじめたことなど忘れてしまったのか。
画面をスクロールし、りりかの投稿をずっと遡ってみと、無夢という文字がそこにあった。
生放送に何万円もスパチャを売っているスクリーンショットがツイートされていた。
〈さすがに課金しすぎた笑。 ♯無夢リス ♯無夢生放送〉
血液が逆流し、耳奥で鼓動が大きく響いている。消えてしまったと思っていた私の心はなぜだが動いている。
私は普通の幸せを手に入れることを完全にあきらめきれていなかったのかもしれない。
私の歩みたかった人生をりりかが生きている。はらわたが煮えくり返っている。嫉妬している。羨ましいと思っている。りりかと入れ替わりたいとさえ思っている。
迫りくる感情を押し殺し、スマホの電源を落とした。腹から息を吐き切り、いつものあゆの笑顔を貼り付けて立ち上がった。
キャバクラはお金と人と時間が密接に絡まりあっているのに、それでいてペラペラに薄い。
私が男の人に笑いかければ数時間で札束が積み上がってゆく。しっかりと接客はこなしながらも、魂はどこかに飛んでいた。
まるで、私の前に薄いすりガラスが挟まっていて、全ての景色がジオラマのようであった。あの一万円札も、お客さんも、嘘に見える。
周りがやけに騒がしい。まるで地球滅亡から救ったヒーローのように取り囲まれている。
立場やお金や容姿にしがみつく人々を見て私は思った。
私が、私であることが良くないのではないかと。
手元にあるものを捨てるだけ全部捨て、優紀ゆあだと、有夢だと認識できない何者でもない人間になることで無夢になれるのではないのかと。
私の中に溜まっている欲を捨てるのだ。かわいくなりたいとか、美味しいご飯がたべたいとか、評価されたいとか、愛されたいとか、人よい人生を送りたいとか、それらを全てゼロに戻すのだ。
生きるのと死んでいる境界線に自ら歩む。
私には無夢がいる。
私の中の物を空っぽにすると同時に、私は目の前の状況を全て受け入れなければならない。訳もなく怒鳴る客、お金を投げ飛ばす人間、唾を吐きかける人間、こそこそと悪口をいう人間、マウントを取る人間、おっぱいを触ろうとする人間。
皆、寂しそうだと思う。なにかに捕らわれる人間。
大卒の平均年収がすぐさま零れ落ちてゆく。
生きることは、寂しいこと。
目の前に繰り出されるシャンパンタワーとコールの中で私はぽつりとつぶやいた。
忘れもしないその名前と顔がそこにはあった。
仕事の休憩中に「有夢」としてTwitterを巡回しているとおすすめのユーザーにて、「天城梨々花」のアカウントを見つけてしまった。芋づる式に「斎藤 晴美」「山下夏鈴」も見つかった。
晴美とかりんのTwitterは鍵がかかっていて見ることができなかったが、りりかのアカウントは解放されていた。
すでに私の高校生の記憶は思い出に移行している。傷を撫でても、もう痛まない。思い出しても泣かない。時間と無夢によって治った。
けれど、私を抉った事実は変わらないし、奥深くには私の不幸を鳴らす彼女らがいる。りりかには不幸でいて欲しい、というのが私の本心だ。
りりかは有名私立大学に通ってた。
りりかが高校時代に推薦で行きたがっていた大学に無事入学することができたようだった。プロフィールには〈テニサーとボランティアサークルに所属しています。将来はアナウンサー志望。今年のミスコンに出ます!〉と書かれている。
写真はりりかの顔ばかりが映っていた。おいしそうなケーキと私。綺麗な海と私。新しく買ったバッグと私。花畑にいる私。高校生からその気はあったものの、大学生になってずいぶんと自己顕示欲が爆発しているようだ。
〈隣の女の子は、今、話題の短編映画、「南に来てッ」てに出演する、アーミ役の凛子ちゃん!!実は、私たちおともだち何です!!〉
〈今日は、特別にミラノレストランにご招待されました!!このドレスはお気に入り!〉
〈お風呂上りー。やっぱりコーヒー牛乳に限るよね〉
〈今、サッカーが熱い!!メガホン持って、応援してきました!!〉
見なくていいのに、りりかのSNSを見てしまう。りりかは不幸であるべきなのに、燦燦と輝いていた。
りりかは不登校の子供たちに勉強を教えるボランティアもしていた。子供の顔にりりかの顔を寄せ、ピースをしている写真が、未来の宝物という文と共にツイッターとインスタグラムに投稿されていた。ふざけんな。いじめた当本人が何言ってんだ。いじめたことなど忘れてしまったのか。
画面をスクロールし、りりかの投稿をずっと遡ってみと、無夢という文字がそこにあった。
生放送に何万円もスパチャを売っているスクリーンショットがツイートされていた。
〈さすがに課金しすぎた笑。 ♯無夢リス ♯無夢生放送〉
血液が逆流し、耳奥で鼓動が大きく響いている。消えてしまったと思っていた私の心はなぜだが動いている。
私は普通の幸せを手に入れることを完全にあきらめきれていなかったのかもしれない。
私の歩みたかった人生をりりかが生きている。はらわたが煮えくり返っている。嫉妬している。羨ましいと思っている。りりかと入れ替わりたいとさえ思っている。
迫りくる感情を押し殺し、スマホの電源を落とした。腹から息を吐き切り、いつものあゆの笑顔を貼り付けて立ち上がった。
キャバクラはお金と人と時間が密接に絡まりあっているのに、それでいてペラペラに薄い。
私が男の人に笑いかければ数時間で札束が積み上がってゆく。しっかりと接客はこなしながらも、魂はどこかに飛んでいた。
まるで、私の前に薄いすりガラスが挟まっていて、全ての景色がジオラマのようであった。あの一万円札も、お客さんも、嘘に見える。
周りがやけに騒がしい。まるで地球滅亡から救ったヒーローのように取り囲まれている。
立場やお金や容姿にしがみつく人々を見て私は思った。
私が、私であることが良くないのではないかと。
手元にあるものを捨てるだけ全部捨て、優紀ゆあだと、有夢だと認識できない何者でもない人間になることで無夢になれるのではないのかと。
私の中に溜まっている欲を捨てるのだ。かわいくなりたいとか、美味しいご飯がたべたいとか、評価されたいとか、愛されたいとか、人よい人生を送りたいとか、それらを全てゼロに戻すのだ。
生きるのと死んでいる境界線に自ら歩む。
私には無夢がいる。
私の中の物を空っぽにすると同時に、私は目の前の状況を全て受け入れなければならない。訳もなく怒鳴る客、お金を投げ飛ばす人間、唾を吐きかける人間、こそこそと悪口をいう人間、マウントを取る人間、おっぱいを触ろうとする人間。
皆、寂しそうだと思う。なにかに捕らわれる人間。
大卒の平均年収がすぐさま零れ落ちてゆく。
生きることは、寂しいこと。
目の前に繰り出されるシャンパンタワーとコールの中で私はぽつりとつぶやいた。
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