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9 超変身!

第32話

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 ずーんと沈みかけたとき、さあっと涼しい風が吹きぬけていった。
 分厚い雲が出てきて、日差しも弱まっているし、夏の予告編は終わったのかもしれない。

「ちょっと涼しくなりそうだね。あのまま暑いままだったら、屋外デートは厳しかったよなぁ」
「どこに連れていってくれるの?」

 わたしがたずねると、咲也くんはニカッと白い歯を見せた。

「開花パークだけど……いいかな?」
「わあっ! ひさしぶりかも。楽しみっ!」
「おれ、一度も行かないまま引っ越しちゃったんだ」
「わたしもそう何回も行ってないよ。近いから、かえって行かないんだよね」

 開花パークは、町の中心部からは外れたところにあって、広大な敷地のなかで、四季折々の花や木を楽しめるいこいの場所なんだ。
 観光客にも人気のスポットだけれど、わたしみたいな町の住人には「いつでも行ける場所」だから、逆に、そんなに行かなかったりする。
 足をのばすキッカケができてうれしいし、今はどうなってるのか見てみたい。

 とりあえずわたしたちは、駅前のバス乗り場まで行った。

「おっ、開花パーク行き、ちょうど来てるよ。急ごう!」

 止まっているバスに向かって、ふたりでかけだす。

「間にあったぁ!」

 乗りこむと、車内は空いていて、乗客はまばら。
 わたしたちは、うしろのほうの座席に並んで腰かけた。
 これを逃がしたら、あと三十分は待たなきゃいけなかったよ。
 はぁはぁと肩で息をして、呼吸をととのえていると、バスは発車した。

「あっ――」

 窓側に座ったわたしが、ふと外に目を向けると。
 女の子三人が、楽しげに大通りを歩いていて、そのなかに桃井さんがいることに気づいたんだ。
 バスはすぐに追い越しちゃったけど、桃井さん、あのあと友だちと合流したのかな?

「どうしたの?」

 咲也くんがたずねてきたから、わたしは口ごもりつつ、
「……桃井さんがいたよ」
 と答えた。

 桃井さんは咲也くんをデートに誘ったけど、みんなのまえで断られちゃって。
 気になっていたから、さっき笑顔だったのは、ちょっと安心する。

「あいつ陸上部でさ、今日は運動部ぜんぶが練習休みになったから、テンション高いんだよ。一千花センパイ、あいつになにか言われた?」
「軽~くけん制されたよ。咲也くん、助けにきてくれなかったね」

 ぷく~っと頬をふくらませるわたし。

「いや、魔眼が反応しなかったし、桃井がなにか言ったのは呪いと関係ないし……。えっと、ごめん」

 咲也くんは急に、あたふたした。
 反応がかわいらしくて、ちょっとからかってみたくなったり。

「咲也くんって、スッゴくモテるのね」

 ジト目で言うと、頬をかく咲也くん。

「そう……かなぁ?」
「そうだよ」

 わたしがぷいっと横を向くと、咲也くんはクスッとした。

「もしかして……一千花センパイ、ヤキモチやいてくれたの?」

 思わぬ反撃に、「えっ」と固まるわたし。
 ドギマギして、言葉が出てこない。

「スゲーうれしいんだけど」
「そ、そんなわけないでしょ」

 咲也くんをじろりとにらんで否定したけど、声がうわずってしまう。

「はいはい、そういうことにしときます」

 いたずらっぽい笑みを浮かべる咲也くん。
 もうっ! ホントにヤキモチなんて……やいてなかった……とは言えない。
 わたし、やっぱり咲也くんのこと……。


「おれにとって大切な人は、一千花センパイだけだから……」


 咲也くんの左手が、わたしの右手をつつみこむ。
 わたしはだまったまま、ぎゅっとにぎり返した。
 バスがゆれるたびに、わたしと咲也くんの肩がくっついたり、離れたりして。

 でも――。
 終点まで、手と手は、固く結ばれたままだったんだ。
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