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第1章 幼少期~暗闇と救済編~
04 屋敷探検と弟
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ティファニアは体調が良くなると、屋敷探検をするようになった。
貴族の家はとても大きい上に、ティファニアの体力がなく直ぐ疲れてしまうため、探検7日目にも関わらずまだ半分ほどしか回れていない。
ティファニアは疲れても意地でも回ろうとしたことがあった。しかし、その次の日には熱を出し、2日安静にしないといけなくなった為、次の探検からはアリッサのストップがかかると直ぐに部屋に戻ることにした。ベッドの上で何もせずにいたのはティファニアに堪えたようだ。
「ふふん、ふふふ〜ん、ふんふん〜」
今日の屋敷探検が楽しみでティファニアは鼻歌交じりに鏡の前に立つ。
今日のドレスは薄いピンクで、スカートの先にふんだんにレースを使い、ふわふわとした印象を与える。
ティファニアはくるくると回って、スカートが横に広がるのを楽しんでいた。
そんな可愛らしい様子をアリッサは微笑ましげに見ている。
「お嬢様、嬉しそうですね」
「そうなの! きょうははおいしゃさまにそとにでていいっていわれたから、おにわにいく!」
「まあ、お庭ですか。では、一番近い薔薇園をご案内致しましょう」
「うん!」
いつも窓から見ているだけの外に出られることにティファニアは上機嫌だ。うきうきしながらアリッサの手を握り、スキップ混じりな足取りで扉から出る。
アリッサは右手にある暖かい温もりをぎゅっと軽く握り、薔薇園へと向かった。
(お嬢様と手を繋ぐのは私だけの特権ですわね!!)
他の使用人に羨ましがられるアリッサは隣を歩くティファニアを見て誇らしげに思う。
ティファニアは使用人の中でお嬢様のお部屋に行く権利争奪戦が行われていることなどつゆ知らない為、誇らしげなアリッサに首を傾げる。
「アリッサ、どうしたの?」
「いえ、お嬢様、なんでもありませんわ。ほら、着きましたよ!」
ティファニアがアリッサの指す方を見ると、美しい薔薇が目の前に広がっていた。
薔薇はウルタリア家の家紋であり、象徴だ。そのため、ウルタリア家の薔薇園は庭師の丹精を込められて作られている。独自に品種改良され、赤や白、ピンク、青など様々な色の薔薇にティファニアは瞳を輝かせる。
「わぁぁぁ! すごいすごい! いっぱいいろがある!!」
「ウルタリアの屋敷の薔薇はどこよりも種類が多いですからね。触らないようにお気を付けください。とげがありますからね」
「うん!!」
初めて見る薔薇にティファニアはきゃっきゃっとはしゃいで喜んだ。そして、アリッサの手を急かすように引く。
「みてみて! あっちにむらさきのばらがある!!」
向かった先は薄い紫の薔薇の生け垣だ。ティファニアはラティスの瞳と同じ色の薔薇にとても惹かれた。
ラティスの瞳はティファニアと同じで、綺麗なアメジストのような色だ。ティファニアはラティスとお揃いであり、いつも優しく向けてくれるその色が大好きなのだ。
「お父様にもっていったらよろこんでくれるかなぁ」
いつもあまり飾り気のない執務室に置ければいいなと思い、ぼそっと呟いた。
「旦那様にですか? お嬢様が何を持っていかれてもとてもお喜びになると思いますよ」
ティファニアの可愛い呟きを耳聡く聞いていたアリッサは、少しラティスに嫉妬しながら答える。ラティスは何をもっていっても喜ぶのは明白だろう。
ティファニアは一瞬聞かれてたのに驚いたが、ラティスが喜ぶと聞いて直ぐに表情を崩した。
「どれでもいいの?」
「はい。棘がありますから私が折りますが、お嬢様が選んでくださいませ」
「うん!!」
元気よく返事を返すと、ティファニアはどれにしようかと紫の薔薇を一つ一つじっくり見た。
少し色が違ったり、大きさが違ったりするため、ティファニアはうーんと悩む。
(やっぱり、お父様の瞳と同じ色のがいい!)
そうやってティファニアが選んだのは小さめだが、鮮やかな紫の薔薇だ。一目見て、ラティスの瞳と同じ色だと思い、即決した。
ティファニアはアリッサに頼み、その一輪をはさみで切ってもらうことになった。アリッサは庭師を呼ぶからとティファニアの元から離れる。他の場所に行かないで下さい、と言っていたが、ラティスにお土産ができたことで満足げなティファニアにはあまり届いていない。
アリッサが去ったので、あたりを見回す。すると、ピンク色の薔薇が咲き乱れる生け垣の向こうに小さな背中が見えた。何だろうと思い、ティファニアは少し駆けながらそちらへ向かう。小さな背中は、よたよたと奥にある木のほうへ向かっているようだった。
「ねぇ、どこいくの?」
ティファニアが少し離れた場所から声をかけると、子供のそばにいた乳母らしき女性がひっと声を上げる。
「ティファニアお嬢様!? どうしてこちらに?」
「あっちにいたら、みえたの。なんでこどもがいるのかなって」
おそらく自分の異母弟であることは前世の知識で見当がついているティファニアだが、誰にも兄弟がいると聞いたことがなかったので純粋に疑問を持ったかのように首を傾げる。
乳母は困ったような顔をし、ティファニアの前までやってきた。
「アリッサはどうされましたか?」
「アリッサはにわしをよびにいったの。わたしはそれまでまってるの」
ティファニアは話を逸らされたので、改めて聞いてみる。
「ねえ、そのこ、だあれ?」
「それは…、その、ティファニアお嬢様の弟のティリア様ですわ」
苦い顔をしながらも乳母は教えてくれた。
ティファニアはやっぱりそうだったのかと目を輝かせる。
(あの子が攻略対象の一人なんだ! ゲームのティファニアとは仲良くなかったみたいだけど、わたしは仲良くなりたいなぁ!)
ティファニアは弟に駆け寄り、手を出す。4歳のティファニアはティリアとは1歳半離れているが、体格はあまり変わらなく、目線はほとんど同じだ。
「こんにちは! わたしはあなたのおねえさまだよ!」
急に来た私にびっくりしたのか、大きな紫の瞳をパチクリさせている。
「あなたのなまえはなあに?」
「ティリア、です」
「ティリアね。わたしはティファニアよ。おねえさまってよんでちょうだい!」
「おねえ、さま?」
ティリアは突然現れた姉と名乗るティファニアに首を傾げる。
「そうよ! いっしょにあそびましょう!」
ティファニアは首を傾げるティリアの手を取り、一緒に遊ぼうと引く。
そこに、ヒステリックな声がした。
「なにをしているの!!!」
ティファニアが声をしたほうへ振り向くと、髪を高く結い、赤いドレスを着た女性がたっていた。女性は息を乱して、ティファニアの方へ寄ってくると、ティファニアの手を払い、ティリアを守るように抱く。
「わたくしのティリアに触らないでちょうだい!! あの女の血は次はティリアを奪っていく気なの!?」
ティファニアは驚きに目を見開いた。
叩かれた手が痛みでジンジンとし、拒絶されたことにティファニアは反射的に心を閉ざす。目の前の女性が何か喚いているが、それを何も聞こえないように耳を素通りさせる。乳母が慌てて女性を落ち着かせているが、ティファニアは他人事のようにぼんやりとそれを眺めた。
「お嬢様!」
聞きなれた声が響き、ティファニアは声の主の方へゆっくりと顔を向ける。そこには慌てた表情のアリッサがおり、ティファニアの方へ駆け寄ってきていた。
「お嬢様、大丈夫でしたか?」
ティファニアは無表情にこくりと頷く。
虚ろな目をしたティファニアを見て、アリッサは怒りを覚える。目の前のティファニアの義理の母親であるはずのアドリエンヌがずっとティファニアを罵倒しているからだ。髪を乱しながら叫ぶその様をアリッサは醜いと思う。そして、早くこの場から去ろうとアドリエンヌの方を向く。
「アドリエンヌ様、お嬢様は疲れていらっしゃいますので、挨拶を省略させていただきます。では、失礼いたします」
アリッサは低い声でアドリエンヌに一方的に宣言すると、力のないティファニアを抱いてその場から去る。後ろから煩い喚き声が聞こえたが、アリッサは無視して足早にティファニアの部屋へ向かった。
貴族の家はとても大きい上に、ティファニアの体力がなく直ぐ疲れてしまうため、探検7日目にも関わらずまだ半分ほどしか回れていない。
ティファニアは疲れても意地でも回ろうとしたことがあった。しかし、その次の日には熱を出し、2日安静にしないといけなくなった為、次の探検からはアリッサのストップがかかると直ぐに部屋に戻ることにした。ベッドの上で何もせずにいたのはティファニアに堪えたようだ。
「ふふん、ふふふ〜ん、ふんふん〜」
今日の屋敷探検が楽しみでティファニアは鼻歌交じりに鏡の前に立つ。
今日のドレスは薄いピンクで、スカートの先にふんだんにレースを使い、ふわふわとした印象を与える。
ティファニアはくるくると回って、スカートが横に広がるのを楽しんでいた。
そんな可愛らしい様子をアリッサは微笑ましげに見ている。
「お嬢様、嬉しそうですね」
「そうなの! きょうははおいしゃさまにそとにでていいっていわれたから、おにわにいく!」
「まあ、お庭ですか。では、一番近い薔薇園をご案内致しましょう」
「うん!」
いつも窓から見ているだけの外に出られることにティファニアは上機嫌だ。うきうきしながらアリッサの手を握り、スキップ混じりな足取りで扉から出る。
アリッサは右手にある暖かい温もりをぎゅっと軽く握り、薔薇園へと向かった。
(お嬢様と手を繋ぐのは私だけの特権ですわね!!)
他の使用人に羨ましがられるアリッサは隣を歩くティファニアを見て誇らしげに思う。
ティファニアは使用人の中でお嬢様のお部屋に行く権利争奪戦が行われていることなどつゆ知らない為、誇らしげなアリッサに首を傾げる。
「アリッサ、どうしたの?」
「いえ、お嬢様、なんでもありませんわ。ほら、着きましたよ!」
ティファニアがアリッサの指す方を見ると、美しい薔薇が目の前に広がっていた。
薔薇はウルタリア家の家紋であり、象徴だ。そのため、ウルタリア家の薔薇園は庭師の丹精を込められて作られている。独自に品種改良され、赤や白、ピンク、青など様々な色の薔薇にティファニアは瞳を輝かせる。
「わぁぁぁ! すごいすごい! いっぱいいろがある!!」
「ウルタリアの屋敷の薔薇はどこよりも種類が多いですからね。触らないようにお気を付けください。とげがありますからね」
「うん!!」
初めて見る薔薇にティファニアはきゃっきゃっとはしゃいで喜んだ。そして、アリッサの手を急かすように引く。
「みてみて! あっちにむらさきのばらがある!!」
向かった先は薄い紫の薔薇の生け垣だ。ティファニアはラティスの瞳と同じ色の薔薇にとても惹かれた。
ラティスの瞳はティファニアと同じで、綺麗なアメジストのような色だ。ティファニアはラティスとお揃いであり、いつも優しく向けてくれるその色が大好きなのだ。
「お父様にもっていったらよろこんでくれるかなぁ」
いつもあまり飾り気のない執務室に置ければいいなと思い、ぼそっと呟いた。
「旦那様にですか? お嬢様が何を持っていかれてもとてもお喜びになると思いますよ」
ティファニアの可愛い呟きを耳聡く聞いていたアリッサは、少しラティスに嫉妬しながら答える。ラティスは何をもっていっても喜ぶのは明白だろう。
ティファニアは一瞬聞かれてたのに驚いたが、ラティスが喜ぶと聞いて直ぐに表情を崩した。
「どれでもいいの?」
「はい。棘がありますから私が折りますが、お嬢様が選んでくださいませ」
「うん!!」
元気よく返事を返すと、ティファニアはどれにしようかと紫の薔薇を一つ一つじっくり見た。
少し色が違ったり、大きさが違ったりするため、ティファニアはうーんと悩む。
(やっぱり、お父様の瞳と同じ色のがいい!)
そうやってティファニアが選んだのは小さめだが、鮮やかな紫の薔薇だ。一目見て、ラティスの瞳と同じ色だと思い、即決した。
ティファニアはアリッサに頼み、その一輪をはさみで切ってもらうことになった。アリッサは庭師を呼ぶからとティファニアの元から離れる。他の場所に行かないで下さい、と言っていたが、ラティスにお土産ができたことで満足げなティファニアにはあまり届いていない。
アリッサが去ったので、あたりを見回す。すると、ピンク色の薔薇が咲き乱れる生け垣の向こうに小さな背中が見えた。何だろうと思い、ティファニアは少し駆けながらそちらへ向かう。小さな背中は、よたよたと奥にある木のほうへ向かっているようだった。
「ねぇ、どこいくの?」
ティファニアが少し離れた場所から声をかけると、子供のそばにいた乳母らしき女性がひっと声を上げる。
「ティファニアお嬢様!? どうしてこちらに?」
「あっちにいたら、みえたの。なんでこどもがいるのかなって」
おそらく自分の異母弟であることは前世の知識で見当がついているティファニアだが、誰にも兄弟がいると聞いたことがなかったので純粋に疑問を持ったかのように首を傾げる。
乳母は困ったような顔をし、ティファニアの前までやってきた。
「アリッサはどうされましたか?」
「アリッサはにわしをよびにいったの。わたしはそれまでまってるの」
ティファニアは話を逸らされたので、改めて聞いてみる。
「ねえ、そのこ、だあれ?」
「それは…、その、ティファニアお嬢様の弟のティリア様ですわ」
苦い顔をしながらも乳母は教えてくれた。
ティファニアはやっぱりそうだったのかと目を輝かせる。
(あの子が攻略対象の一人なんだ! ゲームのティファニアとは仲良くなかったみたいだけど、わたしは仲良くなりたいなぁ!)
ティファニアは弟に駆け寄り、手を出す。4歳のティファニアはティリアとは1歳半離れているが、体格はあまり変わらなく、目線はほとんど同じだ。
「こんにちは! わたしはあなたのおねえさまだよ!」
急に来た私にびっくりしたのか、大きな紫の瞳をパチクリさせている。
「あなたのなまえはなあに?」
「ティリア、です」
「ティリアね。わたしはティファニアよ。おねえさまってよんでちょうだい!」
「おねえ、さま?」
ティリアは突然現れた姉と名乗るティファニアに首を傾げる。
「そうよ! いっしょにあそびましょう!」
ティファニアは首を傾げるティリアの手を取り、一緒に遊ぼうと引く。
そこに、ヒステリックな声がした。
「なにをしているの!!!」
ティファニアが声をしたほうへ振り向くと、髪を高く結い、赤いドレスを着た女性がたっていた。女性は息を乱して、ティファニアの方へ寄ってくると、ティファニアの手を払い、ティリアを守るように抱く。
「わたくしのティリアに触らないでちょうだい!! あの女の血は次はティリアを奪っていく気なの!?」
ティファニアは驚きに目を見開いた。
叩かれた手が痛みでジンジンとし、拒絶されたことにティファニアは反射的に心を閉ざす。目の前の女性が何か喚いているが、それを何も聞こえないように耳を素通りさせる。乳母が慌てて女性を落ち着かせているが、ティファニアは他人事のようにぼんやりとそれを眺めた。
「お嬢様!」
聞きなれた声が響き、ティファニアは声の主の方へゆっくりと顔を向ける。そこには慌てた表情のアリッサがおり、ティファニアの方へ駆け寄ってきていた。
「お嬢様、大丈夫でしたか?」
ティファニアは無表情にこくりと頷く。
虚ろな目をしたティファニアを見て、アリッサは怒りを覚える。目の前のティファニアの義理の母親であるはずのアドリエンヌがずっとティファニアを罵倒しているからだ。髪を乱しながら叫ぶその様をアリッサは醜いと思う。そして、早くこの場から去ろうとアドリエンヌの方を向く。
「アドリエンヌ様、お嬢様は疲れていらっしゃいますので、挨拶を省略させていただきます。では、失礼いたします」
アリッサは低い声でアドリエンヌに一方的に宣言すると、力のないティファニアを抱いてその場から去る。後ろから煩い喚き声が聞こえたが、アリッサは無視して足早にティファニアの部屋へ向かった。
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