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最終目標(真)
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「騎士道って……ああ、そういうことなのね。勇敢であり、強く、正しく……正義こそが理念。悪に立ち向かい、女性や子供、弱者に優しく……そして何より、誠実であること……ライナス君は、本物の騎士を目指しているのね。道理で、正直で真っ直ぐなはずね……」
メルが、ようやく納得できたように笑顔を浮かべた。
「本当、ライ君は、理想的な騎士像かも……って、ちょっと待って! ライ君、今、忠誠を誓っている主君はいないの?」
ミクが慌ててそう尋ねた。
もしそうならば、自分と冒険に出るなどもってのほかだ。
「いや、幸か不幸か、僕なんかを配下として認めてくれる人はいないんだ……僕も、誰かの下につこうと思うこともなかった。でも……」
「待って! ……まさかとは思うけど、私たちは伯爵家を追い出された身だから、私たちに忠誠を誓う、なんてことを言われても困るからね!」
ミクがそう言ってライナスを制止した。
「……いや、残念ながら、僕はそこまで思い上がっていない。騎士として誰かの配下に任命してもらうことがどれだけ大変で、けれど、どれだけ名誉な事かは分かっているつもりだから」
「……そう、よね。うん、それならよかった……」
ミクは心底ほっとしたようにそう呟いた。
「……だから、僕ができるとしたら、せいぜい、自己満足の、騎士の真似事だ。自分の信念を貫いて、正しいと思った事のために剣を振るうことを厭わない。そうなれたらいいとは思っているよ。それで大事に思う人を守れたら、僕にとってとても名誉な事だ。まあ、そのためには、もっともっと強くならないといけないけどね」
「……ライ君、姉さんが言うように、本当に真っ直ぐなのね……よかった……」
「……どう? ますますライナス君のこと、好きになった?」
メルが、目を潤ませる妹をからかうようにそう言った。
「……好きとか、そういう次元じゃなくて……単純に、尊敬できる、って思った」
からかわれたことに反論せず、素直にそう返した妹に、姉は少しだけ驚き、そしてまた微笑んだ。
「うん、そうね……だったら、やっぱり私が言うように、ミクのことお任せできそうね……ライナス君、私からもお願い。ミクと一緒に冒険に出て、守ってあげて」
メルの言葉に、ライナスは一度、ミクを見た。
彼女は、固唾をのんで、真剣にライナスの返答を待っていた。
「はい、僕で良ければ」
躊躇せず発した彼の答えに、二人共が満面の笑みになった。
そしてこの日は、今後の計画を少し話し合った後、もう遅いから、ということで、一度解散することになった。
翌日の朝。
まずはライナスの装備を調えるために、彼女達の知り合いという、鍛冶職のカラエフを尋ねることにしていた。
同行するのはミク一人。
日中は、メルはほとんど寝ているという話だった。
二人だけで出歩くのは、仕事を探してハンターギルドに向かったとき以来、二度目だ。
前日に本音を打ち明け合った事もあり、前回よりもさらに打ち解けていた。
ただ、彼女はまだ、話していないことがいくつかあるということだった。
その一つが、ライナスと一緒に冒険に出ることを決心した、一番大きな決め手。それは、メルの推薦だという。
「姉さんは、本当に私がハンターになることを反対していたの。でも、私が意地になって、一人で旅に出るのは止めたかった。そんなときにライ君が来てくれた……姉さんの言う『タイミング』もあったけど、私としても、姉さんが言うんだから間違いない、と思ったの。まあ、その……わたしも、ライ君なら一緒にいて楽しそうだな、とは思ったけど」
少し頬を赤らめ、そんなふうに言葉にしてくれる美少女に、ライナスも鼓動が高鳴るのを感じた。
「あと、もう一つ。本当の最終目標は……少なくとも、姉さんは私たちに話したこととは違う目標を持っていて、それを隠している……」
「本当の最終目標?」
「そう……確かに昨日話した『あのアイテム』を入手することは、表向きの最終目標とはしているけど……たぶん……ううん、間違いなく、それは姉さんの本音じゃないの」
まだ朝早い時間、ミクはあえて町外れを遠回りするように歩いていた。会話を誰かに聞かれたくないからだ。
周囲は草原で、少なくとも半径100メールには誰も居ない。
それでもさらに警戒して、『神器』の名前は出さない。
そして真剣な表情で、絶対、他の人には漏らさないように念を押した上で、彼女は呟いた。
「『あのアイテム』は、『あの敵』を倒すために絶対に必要なもの……姉さんは、元に戻ることを目標にしているんじゃない。『あの敵』を倒すことを最終目標にしているの……たとえ、刺し違えてでも!」
メルが、ようやく納得できたように笑顔を浮かべた。
「本当、ライ君は、理想的な騎士像かも……って、ちょっと待って! ライ君、今、忠誠を誓っている主君はいないの?」
ミクが慌ててそう尋ねた。
もしそうならば、自分と冒険に出るなどもってのほかだ。
「いや、幸か不幸か、僕なんかを配下として認めてくれる人はいないんだ……僕も、誰かの下につこうと思うこともなかった。でも……」
「待って! ……まさかとは思うけど、私たちは伯爵家を追い出された身だから、私たちに忠誠を誓う、なんてことを言われても困るからね!」
ミクがそう言ってライナスを制止した。
「……いや、残念ながら、僕はそこまで思い上がっていない。騎士として誰かの配下に任命してもらうことがどれだけ大変で、けれど、どれだけ名誉な事かは分かっているつもりだから」
「……そう、よね。うん、それならよかった……」
ミクは心底ほっとしたようにそう呟いた。
「……だから、僕ができるとしたら、せいぜい、自己満足の、騎士の真似事だ。自分の信念を貫いて、正しいと思った事のために剣を振るうことを厭わない。そうなれたらいいとは思っているよ。それで大事に思う人を守れたら、僕にとってとても名誉な事だ。まあ、そのためには、もっともっと強くならないといけないけどね」
「……ライ君、姉さんが言うように、本当に真っ直ぐなのね……よかった……」
「……どう? ますますライナス君のこと、好きになった?」
メルが、目を潤ませる妹をからかうようにそう言った。
「……好きとか、そういう次元じゃなくて……単純に、尊敬できる、って思った」
からかわれたことに反論せず、素直にそう返した妹に、姉は少しだけ驚き、そしてまた微笑んだ。
「うん、そうね……だったら、やっぱり私が言うように、ミクのことお任せできそうね……ライナス君、私からもお願い。ミクと一緒に冒険に出て、守ってあげて」
メルの言葉に、ライナスは一度、ミクを見た。
彼女は、固唾をのんで、真剣にライナスの返答を待っていた。
「はい、僕で良ければ」
躊躇せず発した彼の答えに、二人共が満面の笑みになった。
そしてこの日は、今後の計画を少し話し合った後、もう遅いから、ということで、一度解散することになった。
翌日の朝。
まずはライナスの装備を調えるために、彼女達の知り合いという、鍛冶職のカラエフを尋ねることにしていた。
同行するのはミク一人。
日中は、メルはほとんど寝ているという話だった。
二人だけで出歩くのは、仕事を探してハンターギルドに向かったとき以来、二度目だ。
前日に本音を打ち明け合った事もあり、前回よりもさらに打ち解けていた。
ただ、彼女はまだ、話していないことがいくつかあるということだった。
その一つが、ライナスと一緒に冒険に出ることを決心した、一番大きな決め手。それは、メルの推薦だという。
「姉さんは、本当に私がハンターになることを反対していたの。でも、私が意地になって、一人で旅に出るのは止めたかった。そんなときにライ君が来てくれた……姉さんの言う『タイミング』もあったけど、私としても、姉さんが言うんだから間違いない、と思ったの。まあ、その……わたしも、ライ君なら一緒にいて楽しそうだな、とは思ったけど」
少し頬を赤らめ、そんなふうに言葉にしてくれる美少女に、ライナスも鼓動が高鳴るのを感じた。
「あと、もう一つ。本当の最終目標は……少なくとも、姉さんは私たちに話したこととは違う目標を持っていて、それを隠している……」
「本当の最終目標?」
「そう……確かに昨日話した『あのアイテム』を入手することは、表向きの最終目標とはしているけど……たぶん……ううん、間違いなく、それは姉さんの本音じゃないの」
まだ朝早い時間、ミクはあえて町外れを遠回りするように歩いていた。会話を誰かに聞かれたくないからだ。
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それでもさらに警戒して、『神器』の名前は出さない。
そして真剣な表情で、絶対、他の人には漏らさないように念を押した上で、彼女は呟いた。
「『あのアイテム』は、『あの敵』を倒すために絶対に必要なもの……姉さんは、元に戻ることを目標にしているんじゃない。『あの敵』を倒すことを最終目標にしているの……たとえ、刺し違えてでも!」
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