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第58話 義務
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ウィン……本名アイゼンハイムと、『ユナ復活のための契約』を結んだ俺は、まずその対価として、彼の最高の結婚相手であるクラーラ捜索の旅を開始した。
そのために、ウィンに対して何度も『究極縁結能力者』を使用した。
しかしそこで見えるクラーラは、非常に異質な世界に存在した。
最初は異国かと思ったが、それにしてもまるっきり文明が異なっていた。
例えば、馬車の類は存在せず、乗り物は全てそれを引く動物無しで、いわば乗り物自身の力で動いていた。
また、金属でできた、空を飛ぶ巨大な人工物さえ存在し、想像を絶する火力でクラーラ達に攻撃してくることもあった。
自動的に動く精密人形が、正確無比かつ強力な飛び道具を用いて彼女たちに襲いかかってくる様子も見て取れた。
彼女は、仲間と共に何かと戦っている。
巨大な権力と、それに忠実に従う『キカイ』と呼ばれる戦闘兵器だ。
クラーラは、ユナと同じ魔導剣士だ。
ただ、その性質はユナとは若干異なり、ある程度攻撃魔法も使用するが、それよりもいわゆる『ジャマー』と呼ばれる魔法が特に有用とされているようだった。
彼女がその能力を使えば、自動人形達は混乱し、挙動が乱れる。
また、逆に彼女の探知魔法は、相当広範囲にわたって『キカイ』の存在を探知できる。
しかし、それらを使ってもなお、『キカイ』の力は圧倒的だ。
『キカイ』は魔法は使用しないようだ。
しかし、『カガク』と呼ばれる魔法以上の強大な力は、気を抜けば一瞬で仲間もろともクラーラを焼き尽くすだけの能力を備えている。
なぜそんなところにクラーラはいるのか。
また、一体何のために戦っているのか。
そこまでは詳細に知ることができなかった。
また、そんな彼女に会いに行くため、どれだけの準備が必要なのか、現時点では終わりが見えていない。
仮に、その世界にこちらから出向いて、運良く会えたとして、今度はこっちの世界に帰って来られるかどうかの保証もない。
分からない事だらけだ。
しかし、探索の旅をやめる訳にはいかない。
そういう契約をしてしまったし、また、彼はその契約に従って、ユナを無事に復活させてくれたのだ。
幸か不幸か、契約対象は俺だけだったので、アクト、ミウ、ユアン、ミリア、ジル先生はそれに縛られることはない。
実質問題として、ここに至るまでの半年の間も、貴族の娘であるミウと、その婚約者のユアンは何度も実家に帰らざるを得なかったし、ジル先生にしても婚約者が居る身で、かつ有能な医師でもあるから、途中で抜けてサウスバブルに戻ることもしばしばあった。
ただ、アクトはほぼ全面的に協力してくれた。
王家に所縁が有り、かつ、いつの間にかソフィア王女に惚れられてしまった彼が、俺達が行動しやすいように手を尽くしてくれた事は非常に助けになった。
それに、どういうわけかミリアも俺に……というか、ユナを助けるというために協力してくれたし、また、彼女の師匠であるジフラールも、ミリアのためにもなる事だから、と、彼女の帯同を許可してくれた。
砂漠の砂をかき分けて隠し神殿の扉を見つけ、その中に入って『門』を見つけたこともあった。
その封印を解くために、森林の奥深くの『天女の墓所』と呼ばれる建造物で、オオムカデの群れに襲われながら鍵を取得したこともあった。
そこから『転送』させられた先が、いくつもの『門』の集合体である古代遺跡の中枢であることを知ったときには、アクトから歴史的な大発見だと知らされた。
しかし、それすら前準備で、単にこの『門』を使用すれば、この世界のあらゆる地域に瞬時に移動できるという事に過ぎないと知ったとき、もうすぐクラーラに会えると思っていたウィンは酷く落胆した様子だった。
何しろ、彼女はおそらく異世界に存在しており、そこに行くためにはさらに条件を満たす必要があるようで、この古代遺跡の中枢は、それにかかる時間が短縮できるに過ぎないものだったからだ。
これらは、『運命の糸』の導きではあったが、この後どれだけしなければいけないことがあるのかは、糸は教えてくれないのだ。
そうこうしているうちに半年経ってしまった。
ウィンもまた、ユナを助ける為に全力を尽くさなければならない、という契約に縛られていた。そして、『究極完全回復魔法』の再使用が可能になっていた。
そこで先にユナを助けようということになって、みんなが再集結、アクトは一旦城に預けていた『解呪の白杖』を持ち出した。
---------
「そして今日、やっと、本当にやっと、君を助け出すことができた……でも、そのために、それほど大したことではないと思っていた、『ウィンを最高の結婚相手に会わせる』っていう、とてつもなく困難な契約に縛られることになったんだ」
「……ごめん、ほんとうにごめんなさい……私が一瞬、気を抜いたところであんな攻撃を受けたばっかりに、タクに……みんなにそんな大きな負担、かけちゃって……」
「い、いや、全然そんな風に思っていないから。そもそも、俺を助けようとしてユナはやられたんじゃないか。どっちかって言えば俺のせいだし、それに、この冒険は大変ではあったけど、危険はそれほどでもなく、それと誰かと戦う訳じゃなくて、楽しくもあったんだ」
ユナが泣きそうになりながら謝ることに対して、俺は慌ててそう応えた。
ちょっと、大冒険したことを、大げさに語りすぎたのかもしれない。けっして彼女を責めるつもりはなかったのだ。
「みんな、本当に喜んでいただろう? みんなと共通の目的をもって旅ができて、心から良かったと思ってる。ただ、これからは俺とウィンの契約の問題だ。俺は彼を導く義務があるし、その能力もある。他のみんなはそうじゃない。だから、最悪、俺とウィンの二人だけでも旅を続けなきゃならないし、ひょっとしたら異世界に行って、帰って来られないかもしれない……」
「……二人だけってどういうこと? 私は連れて行ってもらえないの?」
そのユナの問いに、俺は目を見開いた。
「……ひょっとして、一緒に来てくれるのか?」
「もちろん、だって私のために、そんな契約をしてくれたんでしょう? それに私は結婚相談所の助手よ。今までだってそうだったでしょう? 依頼者のために、私だって一緒に旅をする義務があるわ……もちろん、私が邪魔でなければ、だけど……」
最後、少し不安そうにそう話す彼女に対して、俺は少し涙ぐんでしまった。
「邪魔なもんか……一緒に来てくれるならこれほど頼りになる相棒はいないよ」
「……ありがと……あれ、何でだろ? また涙、出て来ちゃった……」
そう言って、彼女は少しだけ泣いた。
その後、しばらくして、彼女は思い出したように言葉を出した。
「そうだ、肝心な事、聞いてなかった」
「うん? 何を?」
「ウィンと、クラーラは、一体どういう関係だったの?」
そのために、ウィンに対して何度も『究極縁結能力者』を使用した。
しかしそこで見えるクラーラは、非常に異質な世界に存在した。
最初は異国かと思ったが、それにしてもまるっきり文明が異なっていた。
例えば、馬車の類は存在せず、乗り物は全てそれを引く動物無しで、いわば乗り物自身の力で動いていた。
また、金属でできた、空を飛ぶ巨大な人工物さえ存在し、想像を絶する火力でクラーラ達に攻撃してくることもあった。
自動的に動く精密人形が、正確無比かつ強力な飛び道具を用いて彼女たちに襲いかかってくる様子も見て取れた。
彼女は、仲間と共に何かと戦っている。
巨大な権力と、それに忠実に従う『キカイ』と呼ばれる戦闘兵器だ。
クラーラは、ユナと同じ魔導剣士だ。
ただ、その性質はユナとは若干異なり、ある程度攻撃魔法も使用するが、それよりもいわゆる『ジャマー』と呼ばれる魔法が特に有用とされているようだった。
彼女がその能力を使えば、自動人形達は混乱し、挙動が乱れる。
また、逆に彼女の探知魔法は、相当広範囲にわたって『キカイ』の存在を探知できる。
しかし、それらを使ってもなお、『キカイ』の力は圧倒的だ。
『キカイ』は魔法は使用しないようだ。
しかし、『カガク』と呼ばれる魔法以上の強大な力は、気を抜けば一瞬で仲間もろともクラーラを焼き尽くすだけの能力を備えている。
なぜそんなところにクラーラはいるのか。
また、一体何のために戦っているのか。
そこまでは詳細に知ることができなかった。
また、そんな彼女に会いに行くため、どれだけの準備が必要なのか、現時点では終わりが見えていない。
仮に、その世界にこちらから出向いて、運良く会えたとして、今度はこっちの世界に帰って来られるかどうかの保証もない。
分からない事だらけだ。
しかし、探索の旅をやめる訳にはいかない。
そういう契約をしてしまったし、また、彼はその契約に従って、ユナを無事に復活させてくれたのだ。
幸か不幸か、契約対象は俺だけだったので、アクト、ミウ、ユアン、ミリア、ジル先生はそれに縛られることはない。
実質問題として、ここに至るまでの半年の間も、貴族の娘であるミウと、その婚約者のユアンは何度も実家に帰らざるを得なかったし、ジル先生にしても婚約者が居る身で、かつ有能な医師でもあるから、途中で抜けてサウスバブルに戻ることもしばしばあった。
ただ、アクトはほぼ全面的に協力してくれた。
王家に所縁が有り、かつ、いつの間にかソフィア王女に惚れられてしまった彼が、俺達が行動しやすいように手を尽くしてくれた事は非常に助けになった。
それに、どういうわけかミリアも俺に……というか、ユナを助けるというために協力してくれたし、また、彼女の師匠であるジフラールも、ミリアのためにもなる事だから、と、彼女の帯同を許可してくれた。
砂漠の砂をかき分けて隠し神殿の扉を見つけ、その中に入って『門』を見つけたこともあった。
その封印を解くために、森林の奥深くの『天女の墓所』と呼ばれる建造物で、オオムカデの群れに襲われながら鍵を取得したこともあった。
そこから『転送』させられた先が、いくつもの『門』の集合体である古代遺跡の中枢であることを知ったときには、アクトから歴史的な大発見だと知らされた。
しかし、それすら前準備で、単にこの『門』を使用すれば、この世界のあらゆる地域に瞬時に移動できるという事に過ぎないと知ったとき、もうすぐクラーラに会えると思っていたウィンは酷く落胆した様子だった。
何しろ、彼女はおそらく異世界に存在しており、そこに行くためにはさらに条件を満たす必要があるようで、この古代遺跡の中枢は、それにかかる時間が短縮できるに過ぎないものだったからだ。
これらは、『運命の糸』の導きではあったが、この後どれだけしなければいけないことがあるのかは、糸は教えてくれないのだ。
そうこうしているうちに半年経ってしまった。
ウィンもまた、ユナを助ける為に全力を尽くさなければならない、という契約に縛られていた。そして、『究極完全回復魔法』の再使用が可能になっていた。
そこで先にユナを助けようということになって、みんなが再集結、アクトは一旦城に預けていた『解呪の白杖』を持ち出した。
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「そして今日、やっと、本当にやっと、君を助け出すことができた……でも、そのために、それほど大したことではないと思っていた、『ウィンを最高の結婚相手に会わせる』っていう、とてつもなく困難な契約に縛られることになったんだ」
「……ごめん、ほんとうにごめんなさい……私が一瞬、気を抜いたところであんな攻撃を受けたばっかりに、タクに……みんなにそんな大きな負担、かけちゃって……」
「い、いや、全然そんな風に思っていないから。そもそも、俺を助けようとしてユナはやられたんじゃないか。どっちかって言えば俺のせいだし、それに、この冒険は大変ではあったけど、危険はそれほどでもなく、それと誰かと戦う訳じゃなくて、楽しくもあったんだ」
ユナが泣きそうになりながら謝ることに対して、俺は慌ててそう応えた。
ちょっと、大冒険したことを、大げさに語りすぎたのかもしれない。けっして彼女を責めるつもりはなかったのだ。
「みんな、本当に喜んでいただろう? みんなと共通の目的をもって旅ができて、心から良かったと思ってる。ただ、これからは俺とウィンの契約の問題だ。俺は彼を導く義務があるし、その能力もある。他のみんなはそうじゃない。だから、最悪、俺とウィンの二人だけでも旅を続けなきゃならないし、ひょっとしたら異世界に行って、帰って来られないかもしれない……」
「……二人だけってどういうこと? 私は連れて行ってもらえないの?」
そのユナの問いに、俺は目を見開いた。
「……ひょっとして、一緒に来てくれるのか?」
「もちろん、だって私のために、そんな契約をしてくれたんでしょう? それに私は結婚相談所の助手よ。今までだってそうだったでしょう? 依頼者のために、私だって一緒に旅をする義務があるわ……もちろん、私が邪魔でなければ、だけど……」
最後、少し不安そうにそう話す彼女に対して、俺は少し涙ぐんでしまった。
「邪魔なもんか……一緒に来てくれるならこれほど頼りになる相棒はいないよ」
「……ありがと……あれ、何でだろ? また涙、出て来ちゃった……」
そう言って、彼女は少しだけ泣いた。
その後、しばらくして、彼女は思い出したように言葉を出した。
「そうだ、肝心な事、聞いてなかった」
「うん? 何を?」
「ウィンと、クラーラは、一体どういう関係だったの?」
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