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第55話 アイゼンシュタート大寺院
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俺達は、『究極完全回復魔法』を求めて、アイゼンシュタートの大寺院を目指した。
王都セントラル・バナンから馬車で五日、結構な長旅となった。
それでも、ユアン、ミウ、ジル先生、アクト、そしてミリアも、誰一人文句一つ言わず、ただユナの回復を願って、俺の旅に付き合ってくれた。
大寺院では、最初は普通の観光客としての待遇だったが、ソフィア王女の紹介状を受付男性に見せた途端、彼は慌てふためき、俺達は何人もの神官達に付き添われ、幾重にも連なる門や黄金で装飾された廊下を案内され、多くの絵画が飾られた貴賓室へと通された。
個人的にはあまり特別対応されるのは好きではないが、事情が事情だ、使えるコネや権力を使わせてもらうことに抵抗はなかった。
しばらく待たされた後、神官長を名乗る、五十歳ぐらいの男性がやってきた。
少しお腹が出ているが、威厳があり、精悍な顔つき。
神官服も豪華な紋様が刺繍されているが、決して華美すぎない、高級感のあるものだった。
彼は人払いをして、決して他言はしないので、この聖地を訪れたご用件をお話しください、と丁寧に尋ねてきた。
どうしようかと思ったが、アクトは、信頼して大丈夫だろうと、事のあらましを完結に、しかし要点は的確に押さえて話をした。
神官長は、時々目を大きく開いて、アクトの話を真剣に聞いてくれた。
特に、呪怨の黒杖、解呪の白杖のあたりの話には、食い入るように聞き入っていた。
そして最後まで話を聞き終わった後、深く頷いたものの、俺がアイゼンハイムに会わせて欲しい旨を伝えると、彼は戸惑いの表情を見せた。
そして、
「アイゼンハイム様は旅に出てしまわれた。今、どこで何をしておられるのやら……」
と、困ったような表情を浮かべた。
しかしすぐに、ある若者が、その所在を知っている可能性があると告げた。
「彼を呼んでくるので、しばらくお待ちください」
と言い残し、彼は退室した。
ただ、その様子がどうも芝居がかって見えたのだが……。
するとアクトが、
「……あの神官長、嘘をついている」
と、俺達に小声で知らせてくれた。
彼の左手の人差し指には、『真偽判定の指輪』が装着されている。
これはユナのものでも、ソフィア王女のものでもない。
王族の血を引く彼に、正式に貸与されたものだ。
これはソフィア王女を無事復活に導いた活躍が認められての事でもあったが……。
ちなみに、ユナが持っていた物は、元々はファナ姫が持っていた物が、現王妃、そしてソフィア王女を経て、ユナに渡ったのだという。
ソフィア王女は別に自分の物を持っているので、要するに一つ余った物がユナの手にあるということらしい。
そしてそれは、今も石となった彼女の指に装着されたままだった。
アクトは、神官長が嘘をついていることは見抜いたが、それが何なのかがはっきりとはわからない。
一番疑わしいのは、『アイゼンハイムの居場所を知らない』という部分だったらしいが、仮に知っていたとしても、問い詰めたら答えてくれるというものでもないだろう。
そしてしばらく待つと、神官長は約束通り、一人の若い神官を連れてきた。
彼の名はウィン、歳は二十歳なのだという。
金髪で、青い眼をしている。
細身で華奢な体つきだが、目はギラギラとしており、三白眼で、ちょっと怖い。
「……へえ、この人達が、王女様の紹介状を持ってきた人たちですか……なんか想像と違って、あんまり威厳とか、迫力がないですね」
少しにやけながら、そんな事を言ってくる。
ちょっとカチンとくるセリフだったが、神官長が彼をたしなめた。
「はいはい、分かってますよ……それで、さっき神官長様に聞いたけど、あんた達、凄い冒険してたらしいね。うらやましいよ、全く」
なんか、上から目線の男だ。
これは教育が行き届いていないのではないか……と思ったが、神官長は、
「言葉使いに気を付けるように」
と注意するぐらいで、あまりきつく叱ることがない。
「……気を付けろ、あの若者、ひょっとしたら大貴族の子息か、あるいは、王家の血を濃く引く、身分の高い者かもしれない」
アクトが、俺達だけに聞こえるようにそう言った。
「……では、神官長様、ここは僕達だけにしてもらえませんか?」
下っ端の神官のはずであるウィンが、雲の上の人であるはずの神官長を人払いする。
本当に、よほど身分が高い者なのか……。
そして神官長がいなくなった後、彼は俺達の方を見て、ニヤリと笑った。
「今、あなた達は、『どうしてこんな若造が大きな態度をしていられるんだろう』と思ったでしょう? 答は簡単。僕が、今、この寺院で、最も優秀な治癒能力者だからですよ」
得意げに、彼は話した。
王都セントラル・バナンから馬車で五日、結構な長旅となった。
それでも、ユアン、ミウ、ジル先生、アクト、そしてミリアも、誰一人文句一つ言わず、ただユナの回復を願って、俺の旅に付き合ってくれた。
大寺院では、最初は普通の観光客としての待遇だったが、ソフィア王女の紹介状を受付男性に見せた途端、彼は慌てふためき、俺達は何人もの神官達に付き添われ、幾重にも連なる門や黄金で装飾された廊下を案内され、多くの絵画が飾られた貴賓室へと通された。
個人的にはあまり特別対応されるのは好きではないが、事情が事情だ、使えるコネや権力を使わせてもらうことに抵抗はなかった。
しばらく待たされた後、神官長を名乗る、五十歳ぐらいの男性がやってきた。
少しお腹が出ているが、威厳があり、精悍な顔つき。
神官服も豪華な紋様が刺繍されているが、決して華美すぎない、高級感のあるものだった。
彼は人払いをして、決して他言はしないので、この聖地を訪れたご用件をお話しください、と丁寧に尋ねてきた。
どうしようかと思ったが、アクトは、信頼して大丈夫だろうと、事のあらましを完結に、しかし要点は的確に押さえて話をした。
神官長は、時々目を大きく開いて、アクトの話を真剣に聞いてくれた。
特に、呪怨の黒杖、解呪の白杖のあたりの話には、食い入るように聞き入っていた。
そして最後まで話を聞き終わった後、深く頷いたものの、俺がアイゼンハイムに会わせて欲しい旨を伝えると、彼は戸惑いの表情を見せた。
そして、
「アイゼンハイム様は旅に出てしまわれた。今、どこで何をしておられるのやら……」
と、困ったような表情を浮かべた。
しかしすぐに、ある若者が、その所在を知っている可能性があると告げた。
「彼を呼んでくるので、しばらくお待ちください」
と言い残し、彼は退室した。
ただ、その様子がどうも芝居がかって見えたのだが……。
するとアクトが、
「……あの神官長、嘘をついている」
と、俺達に小声で知らせてくれた。
彼の左手の人差し指には、『真偽判定の指輪』が装着されている。
これはユナのものでも、ソフィア王女のものでもない。
王族の血を引く彼に、正式に貸与されたものだ。
これはソフィア王女を無事復活に導いた活躍が認められての事でもあったが……。
ちなみに、ユナが持っていた物は、元々はファナ姫が持っていた物が、現王妃、そしてソフィア王女を経て、ユナに渡ったのだという。
ソフィア王女は別に自分の物を持っているので、要するに一つ余った物がユナの手にあるということらしい。
そしてそれは、今も石となった彼女の指に装着されたままだった。
アクトは、神官長が嘘をついていることは見抜いたが、それが何なのかがはっきりとはわからない。
一番疑わしいのは、『アイゼンハイムの居場所を知らない』という部分だったらしいが、仮に知っていたとしても、問い詰めたら答えてくれるというものでもないだろう。
そしてしばらく待つと、神官長は約束通り、一人の若い神官を連れてきた。
彼の名はウィン、歳は二十歳なのだという。
金髪で、青い眼をしている。
細身で華奢な体つきだが、目はギラギラとしており、三白眼で、ちょっと怖い。
「……へえ、この人達が、王女様の紹介状を持ってきた人たちですか……なんか想像と違って、あんまり威厳とか、迫力がないですね」
少しにやけながら、そんな事を言ってくる。
ちょっとカチンとくるセリフだったが、神官長が彼をたしなめた。
「はいはい、分かってますよ……それで、さっき神官長様に聞いたけど、あんた達、凄い冒険してたらしいね。うらやましいよ、全く」
なんか、上から目線の男だ。
これは教育が行き届いていないのではないか……と思ったが、神官長は、
「言葉使いに気を付けるように」
と注意するぐらいで、あまりきつく叱ることがない。
「……気を付けろ、あの若者、ひょっとしたら大貴族の子息か、あるいは、王家の血を濃く引く、身分の高い者かもしれない」
アクトが、俺達だけに聞こえるようにそう言った。
「……では、神官長様、ここは僕達だけにしてもらえませんか?」
下っ端の神官のはずであるウィンが、雲の上の人であるはずの神官長を人払いする。
本当に、よほど身分が高い者なのか……。
そして神官長がいなくなった後、彼は俺達の方を見て、ニヤリと笑った。
「今、あなた達は、『どうしてこんな若造が大きな態度をしていられるんだろう』と思ったでしょう? 答は簡単。僕が、今、この寺院で、最も優秀な治癒能力者だからですよ」
得意げに、彼は話した。
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