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第34話 (閑話 その3) 審判の扉
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ハヤトとユア、アイナのパーティーがクラローズ地下迷宮の地下十二階を探索していたころ、同迷宮の最深部、五十五階を、四つ星ハンター一人、三つ星ハンター四人の、計五人パーティーが、険しい表情で進んでいた。
「くそ……まさか、強制転移の罠が仕掛けられているとはな……やっぱりリョウの奴を呼べなかったのが失敗だったんじゃねえのか?」
三ツ星の戦士グランが、誰に対してではなく、ただ独り言のようにそう文句を言った。
「いや……あいつは慎重過ぎる。今回も、もちろん誘ったが『リスクが高すぎる』と拒否したんだ。それに我々だけで対処できるって言ったのはゲイルだろう?」
冷静にそう返したのは、パーティーのリーダーである、魔導剣士のゴーファだ。
「おいおい、俺のせいだっていうのか? 今回のは事故だろうが。前衛のあんたらがあのオーガーウルフに押されっぱなしになって、退路確保のためにまだ調べちゃいねえ扉を開けちまったことが原因だろ? まあ、咄嗟に開けたのは俺だが……そうしないと全滅だっただろうが」
同じく三ツ星の盗賊であるゲイルが不満を述べる。
「そうだな……戦闘も索敵も罠の見抜きも、リョウがいれば楽だった。あいつがいたら持ちこらえられただろう。だが、四ツ星でもあんな臆病者を仲間にしてちゃ、がっぽり儲けることなんかできない。まあ、あいつとつるんでいるハヤトがいればもっと簡単に誘えたかもしれないが」
ゴーファが恨めしそうにそう語る。
「ハヤトか……あやつ、どういうわけか、最近低レベルの冒険者の育成なんかやっておるからのう……」
三ツ星の魔術師、サルファがつぶやく。
「ハッ、あいつは最近『パパ活』なんかに嵌まって、若い女の冒険者を連れていい気になってるだけだ。あんな腑抜け、仲間にしちゃ余計にヤバくなるってもんだ」
グランは以前、ハヤトと決闘(デュエル)をしたが、やはりパパ活で知り合ったミリアという少女に邪魔されて途中で中止になったことがある。
そのときは、デュエルの内容的に押されていたこともあり、それ以降ハヤトに一目置いていた。
しかし、女優になったミリアとは別に新しく二人の、新人の女性冒険者の『パパ』になり、共に行動をしていると聞いて呆れていた。
「まったく……あの人は何を考えているのやら……魔道剣士としての実力では、四ツ星のゴーファと遜色ないとも聞いていましたが、未だにランクを上げようとしていませんしね」
三ツ星ランクの僧侶、シダルもそうハヤトに批難めいた文句を言った。
「確かに、あいつの得意魔法である、敵の動きを止める『紫電』の魔法は非常に汎用性が高いが、それ以外の魔法のレベルや剣の腕では……いや、リョウにせよ、ハヤトにせよ、ここにいない連中の文句を言っても仕方ないだろう。なんとかこの状況を打開しないと……うん? なんだ、あの光は……扉? いや、まさか……」
途方に暮れながら、、未踏破の迷宮最深部を慎重に歩いていた一行だったが、前方に明るく輝く豪奢な扉を見つけて、その表情が強ばった。
「こいつぁ、まさか……伝説の『審判の扉』か?」
盗賊が目を見開いて驚く。
「開けた者を、天国か地獄かのどちらかへ導く、という言い伝えの? まさか、それがこの『クラローズ地下迷宮』の最深部に隠されておったというのか?」
魔術師も同様に驚嘆の表情だ。
「いや……『光り輝く扉』っていうだけでそれを判断することはできない。ゲイル、罠がかかっているかどうか見抜けるか?」
魔道剣士の言葉に、盗賊は首を横に振る。
「何か強力な魔力が込められていることは分かる。開くと発動する、ってこともな。カギもかかっちゃいねえようだが、それがかえって不気味だ。最終的に何が起こるかは分からねえ。そいつは、魔術師か僧侶の仕事じゃねえのか? ただ、俺が言えるのは、何か悪意があるようには感じられねえってことだ。なにせ、あからさまに、『何か起こるぞ』と主張しているようなもんだからな」
「……そうですね。罠、というには明らかに目立ちすぎます。まるで我々を試すような、そんな意図すら感じられます……この扉を開けるということは、込められた魔力量からして、破滅的な未来か、あるいは至高の宝物を得られる可能性もあります」
僧侶が、説法でも説くかのようにそう口にした。
「なるほどな……伝説の通りかどうかは分からないが、天国か地獄かの二択、って考えた方がよさそうということか。どのみち、強制転移に引っかかった時点で無事に帰られる見込みもないんだ。ここは俺が開けてみよう……みんな、下がっていてくれ……もっと、ずっと後ろにだ。魔法も準備しておいてくれ。万一、魔獣の群れが出現するようなことがあれば、俺ごと敵を撃ってくれ」
リーダーである魔道剣士のゴーファが、仲間達に指示を出す。
パーティー唯一の四ツ星ハンターに、自分を犠牲にする覚悟の発言をされたら、仲間達も文句を言わず従うしかなかった。
「……よし……開けるぞ!」
コーファが力を込めて、その重そうな扉を押し始めた。
最初はびくともしなかったが、彼が雄叫びを上げながら全力でそれを押すと、やがて扉は音もなくゆっくりと開かれていった。
そして次の瞬間、迷宮全体に、大音響の警告音が鳴り響いた――。
「くそ……まさか、強制転移の罠が仕掛けられているとはな……やっぱりリョウの奴を呼べなかったのが失敗だったんじゃねえのか?」
三ツ星の戦士グランが、誰に対してではなく、ただ独り言のようにそう文句を言った。
「いや……あいつは慎重過ぎる。今回も、もちろん誘ったが『リスクが高すぎる』と拒否したんだ。それに我々だけで対処できるって言ったのはゲイルだろう?」
冷静にそう返したのは、パーティーのリーダーである、魔導剣士のゴーファだ。
「おいおい、俺のせいだっていうのか? 今回のは事故だろうが。前衛のあんたらがあのオーガーウルフに押されっぱなしになって、退路確保のためにまだ調べちゃいねえ扉を開けちまったことが原因だろ? まあ、咄嗟に開けたのは俺だが……そうしないと全滅だっただろうが」
同じく三ツ星の盗賊であるゲイルが不満を述べる。
「そうだな……戦闘も索敵も罠の見抜きも、リョウがいれば楽だった。あいつがいたら持ちこらえられただろう。だが、四ツ星でもあんな臆病者を仲間にしてちゃ、がっぽり儲けることなんかできない。まあ、あいつとつるんでいるハヤトがいればもっと簡単に誘えたかもしれないが」
ゴーファが恨めしそうにそう語る。
「ハヤトか……あやつ、どういうわけか、最近低レベルの冒険者の育成なんかやっておるからのう……」
三ツ星の魔術師、サルファがつぶやく。
「ハッ、あいつは最近『パパ活』なんかに嵌まって、若い女の冒険者を連れていい気になってるだけだ。あんな腑抜け、仲間にしちゃ余計にヤバくなるってもんだ」
グランは以前、ハヤトと決闘(デュエル)をしたが、やはりパパ活で知り合ったミリアという少女に邪魔されて途中で中止になったことがある。
そのときは、デュエルの内容的に押されていたこともあり、それ以降ハヤトに一目置いていた。
しかし、女優になったミリアとは別に新しく二人の、新人の女性冒険者の『パパ』になり、共に行動をしていると聞いて呆れていた。
「まったく……あの人は何を考えているのやら……魔道剣士としての実力では、四ツ星のゴーファと遜色ないとも聞いていましたが、未だにランクを上げようとしていませんしね」
三ツ星ランクの僧侶、シダルもそうハヤトに批難めいた文句を言った。
「確かに、あいつの得意魔法である、敵の動きを止める『紫電』の魔法は非常に汎用性が高いが、それ以外の魔法のレベルや剣の腕では……いや、リョウにせよ、ハヤトにせよ、ここにいない連中の文句を言っても仕方ないだろう。なんとかこの状況を打開しないと……うん? なんだ、あの光は……扉? いや、まさか……」
途方に暮れながら、、未踏破の迷宮最深部を慎重に歩いていた一行だったが、前方に明るく輝く豪奢な扉を見つけて、その表情が強ばった。
「こいつぁ、まさか……伝説の『審判の扉』か?」
盗賊が目を見開いて驚く。
「開けた者を、天国か地獄かのどちらかへ導く、という言い伝えの? まさか、それがこの『クラローズ地下迷宮』の最深部に隠されておったというのか?」
魔術師も同様に驚嘆の表情だ。
「いや……『光り輝く扉』っていうだけでそれを判断することはできない。ゲイル、罠がかかっているかどうか見抜けるか?」
魔道剣士の言葉に、盗賊は首を横に振る。
「何か強力な魔力が込められていることは分かる。開くと発動する、ってこともな。カギもかかっちゃいねえようだが、それがかえって不気味だ。最終的に何が起こるかは分からねえ。そいつは、魔術師か僧侶の仕事じゃねえのか? ただ、俺が言えるのは、何か悪意があるようには感じられねえってことだ。なにせ、あからさまに、『何か起こるぞ』と主張しているようなもんだからな」
「……そうですね。罠、というには明らかに目立ちすぎます。まるで我々を試すような、そんな意図すら感じられます……この扉を開けるということは、込められた魔力量からして、破滅的な未来か、あるいは至高の宝物を得られる可能性もあります」
僧侶が、説法でも説くかのようにそう口にした。
「なるほどな……伝説の通りかどうかは分からないが、天国か地獄かの二択、って考えた方がよさそうということか。どのみち、強制転移に引っかかった時点で無事に帰られる見込みもないんだ。ここは俺が開けてみよう……みんな、下がっていてくれ……もっと、ずっと後ろにだ。魔法も準備しておいてくれ。万一、魔獣の群れが出現するようなことがあれば、俺ごと敵を撃ってくれ」
リーダーである魔道剣士のゴーファが、仲間達に指示を出す。
パーティー唯一の四ツ星ハンターに、自分を犠牲にする覚悟の発言をされたら、仲間達も文句を言わず従うしかなかった。
「……よし……開けるぞ!」
コーファが力を込めて、その重そうな扉を押し始めた。
最初はびくともしなかったが、彼が雄叫びを上げながら全力でそれを押すと、やがて扉は音もなくゆっくりと開かれていった。
そして次の瞬間、迷宮全体に、大音響の警告音が鳴り響いた――。
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