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想像よりも暗くて、あかさは少し不安になった。
大体夜の公園に行くことなんてないわけだし、憩うための場所に人影がないのはやはりぞっとする光景である。
夜なのだ、当たり前の話である。
しかしおそらくあかさ以上にしおんは不安がって怯えているように見える。
段々と腕が触れあう距離まで近くなっていた。
きょろきょろするしおんは髪を揺らせて、度々それがあかさの腕をなで、おかげであかさがドキリとする始末。
「どうかした?」
「痴漢とかでないかな?」
「まだ夜遅いわけでもないし、大丈夫じゃない」
自分でも納得できない理由なのだ、その程度ではしおんの気がかりは消えないらしく、あかさはぎゅっとしおんの手を握る。
母と子がするように、やさしく、だけどはなさない覚悟を持って。
「遠目ならカップルに見えるんじゃない?」
格好良く言ったつもりだったが、しおんにはどう映っただろう?
「な、なるほど。そうかも」
見上げるしおんは少し綻んだ顔を見せた。
比較的明るい場所に来ると、
「しおん、いつもその髪型なの?」
脈絡無い話に固まるしおんだが、
「そう。何?変?」
触れあう肩が少し離れて、
「ちょっと触っていい?」
封筒が邪魔でやりにくかったが、しおんの耳の後ろで二つにまとめられた髪をほどき、結び直した。
「これはどう?」
耳より上の辺りでくくる、ツインテールにしてみると、その容姿はとてもかわいらしい。
「上でくくってる?」
手で確認するしおん。
「好きだけど…。恥ずかしい」
顔を赤らめるしおんに、
「すごく似合ってると思うよ。可愛い」
さらにあかさはその毛先を指に巻き付け、
「巻いてあげたら完璧じゃない?」
と素直に気持ちを言った。
「私には似合わないと思う」
「かわいい、絶対。すごいもん」
笑顔の戻ったしおんはあかさの腕をとり、また歩き始めた。
前方にゆっくりと色を変え光るオブジェが見えてきた。
暗がりに映える彫刻である。
「あれ、行ってみよう」
「ねぇ、あかさ」
と真顔で腕を引くしおんが続ける。
「化粧してるんだよね?」
「そう」
あっけにとられるあかさに、
「しない方がいいかも」
これにはあかさは立ち止まってしまいそうになり、平静を装った。
「そ、そう?なんで」
何と言えばいいかわからない感情、悔しさか、恥ずかしさか、ともかく笑顔だけは保つようにあかさは努力した。
「何もしない方がかわいいよ、美人顔だし」
しおんはどうやらまじめに言っているようで、おそらくそれは忠言なのだと感じた。
しかし、美人と言うことを差し引いてもやはり否定されたのは残念に感じる。
「最初、世間ずれしてる人かと思ったし。あ、ごめん」
続いて言うしおんの言葉に、何ともないと虚勢を張りたいが、今は無理だった。
「ごめんね」
と、遅まきながらあかさの腕を取りのぞき込み謝るしおんの携帯が鳴り出した。
心配顔で何度も謝るしおんに、
「気にしてないから、電話に出て」
静寂を破ってしばらく鳴り続ける電話の音に、あかさは体がしびれるようだった。
その傍ら、しおんは急いで電話に出る。
「もしもし」
ちゃんと笑顔作れたかな、そんなことを思える自分を励まし続けるあかさだった。
あかさが激しく波打つ心中に漂っている間、しおんの話し相手はおそらく仲直りしていないちかやと思われたが、声のトーンが穏やかさを取り戻していく様は側にいてわかった。
しおんが話を聞いている時に耳をそばだてればちかやの声が聞き取れた。
「で、どうなの?勝手に読んだんでしょ」
静かに凄むしおんの声は動物のうなり声のようで、目の前より電話口の方が効果ありそうだ。
「え、いや。うーん」
しおんもあかさも、ちかやがすぐ否定する言葉を発しないことから想像は真実だったことに安心するも、それはすでに肯定したとも言って差し支えなかった。
「見たな」
沈黙がより空気を冷ます。
照明で七色にふちどられたしおんの横顔だけがこの雰囲気にそぐわない、いや、ある意味導火線の灯火かも、と見えた。
何の前触れもなく、あかさは携帯を渡された。
腕組みして背を向けるしおんに、何を意図してなのか計りかねたものの、聞きそびれたことを聞いてみることにした。
ちかやはあかさがしおんと一緒にいることに驚いていたが、経緯を話すとちかやはしきりに感心したように、
「凄いじゃん」
を繰り返した。
「で、聞きそびれちゃったんだけど」
「何?」
「最後にしおんに見つかったと時さ…」
背筋の凍りかけたあかさは小声になって、
「しおんと会ったとき、肩にハムスター乗っけてたよね?」
「え?ああ、いや、あれは。何だっけ、ど忘れ」
じぃっと聞き入るあかさに、じりじりと近づくしおん。
「そう、カピバラだ、カピバラ」
難問クイズに答えられたかのように歓喜するちかやだったが、不意に、
「あ、今…」
絶句するちかやの反応にきょとんとして、あかさはしおんと目があった。
大体夜の公園に行くことなんてないわけだし、憩うための場所に人影がないのはやはりぞっとする光景である。
夜なのだ、当たり前の話である。
しかしおそらくあかさ以上にしおんは不安がって怯えているように見える。
段々と腕が触れあう距離まで近くなっていた。
きょろきょろするしおんは髪を揺らせて、度々それがあかさの腕をなで、おかげであかさがドキリとする始末。
「どうかした?」
「痴漢とかでないかな?」
「まだ夜遅いわけでもないし、大丈夫じゃない」
自分でも納得できない理由なのだ、その程度ではしおんの気がかりは消えないらしく、あかさはぎゅっとしおんの手を握る。
母と子がするように、やさしく、だけどはなさない覚悟を持って。
「遠目ならカップルに見えるんじゃない?」
格好良く言ったつもりだったが、しおんにはどう映っただろう?
「な、なるほど。そうかも」
見上げるしおんは少し綻んだ顔を見せた。
比較的明るい場所に来ると、
「しおん、いつもその髪型なの?」
脈絡無い話に固まるしおんだが、
「そう。何?変?」
触れあう肩が少し離れて、
「ちょっと触っていい?」
封筒が邪魔でやりにくかったが、しおんの耳の後ろで二つにまとめられた髪をほどき、結び直した。
「これはどう?」
耳より上の辺りでくくる、ツインテールにしてみると、その容姿はとてもかわいらしい。
「上でくくってる?」
手で確認するしおん。
「好きだけど…。恥ずかしい」
顔を赤らめるしおんに、
「すごく似合ってると思うよ。可愛い」
さらにあかさはその毛先を指に巻き付け、
「巻いてあげたら完璧じゃない?」
と素直に気持ちを言った。
「私には似合わないと思う」
「かわいい、絶対。すごいもん」
笑顔の戻ったしおんはあかさの腕をとり、また歩き始めた。
前方にゆっくりと色を変え光るオブジェが見えてきた。
暗がりに映える彫刻である。
「あれ、行ってみよう」
「ねぇ、あかさ」
と真顔で腕を引くしおんが続ける。
「化粧してるんだよね?」
「そう」
あっけにとられるあかさに、
「しない方がいいかも」
これにはあかさは立ち止まってしまいそうになり、平静を装った。
「そ、そう?なんで」
何と言えばいいかわからない感情、悔しさか、恥ずかしさか、ともかく笑顔だけは保つようにあかさは努力した。
「何もしない方がかわいいよ、美人顔だし」
しおんはどうやらまじめに言っているようで、おそらくそれは忠言なのだと感じた。
しかし、美人と言うことを差し引いてもやはり否定されたのは残念に感じる。
「最初、世間ずれしてる人かと思ったし。あ、ごめん」
続いて言うしおんの言葉に、何ともないと虚勢を張りたいが、今は無理だった。
「ごめんね」
と、遅まきながらあかさの腕を取りのぞき込み謝るしおんの携帯が鳴り出した。
心配顔で何度も謝るしおんに、
「気にしてないから、電話に出て」
静寂を破ってしばらく鳴り続ける電話の音に、あかさは体がしびれるようだった。
その傍ら、しおんは急いで電話に出る。
「もしもし」
ちゃんと笑顔作れたかな、そんなことを思える自分を励まし続けるあかさだった。
あかさが激しく波打つ心中に漂っている間、しおんの話し相手はおそらく仲直りしていないちかやと思われたが、声のトーンが穏やかさを取り戻していく様は側にいてわかった。
しおんが話を聞いている時に耳をそばだてればちかやの声が聞き取れた。
「で、どうなの?勝手に読んだんでしょ」
静かに凄むしおんの声は動物のうなり声のようで、目の前より電話口の方が効果ありそうだ。
「え、いや。うーん」
しおんもあかさも、ちかやがすぐ否定する言葉を発しないことから想像は真実だったことに安心するも、それはすでに肯定したとも言って差し支えなかった。
「見たな」
沈黙がより空気を冷ます。
照明で七色にふちどられたしおんの横顔だけがこの雰囲気にそぐわない、いや、ある意味導火線の灯火かも、と見えた。
何の前触れもなく、あかさは携帯を渡された。
腕組みして背を向けるしおんに、何を意図してなのか計りかねたものの、聞きそびれたことを聞いてみることにした。
ちかやはあかさがしおんと一緒にいることに驚いていたが、経緯を話すとちかやはしきりに感心したように、
「凄いじゃん」
を繰り返した。
「で、聞きそびれちゃったんだけど」
「何?」
「最後にしおんに見つかったと時さ…」
背筋の凍りかけたあかさは小声になって、
「しおんと会ったとき、肩にハムスター乗っけてたよね?」
「え?ああ、いや、あれは。何だっけ、ど忘れ」
じぃっと聞き入るあかさに、じりじりと近づくしおん。
「そう、カピバラだ、カピバラ」
難問クイズに答えられたかのように歓喜するちかやだったが、不意に、
「あ、今…」
絶句するちかやの反応にきょとんとして、あかさはしおんと目があった。
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