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あまい休日、あまい時間(とき)
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チョコレートムースは、卵黄も卵白も使うけれど、割合は1:2。ゼラチンも使わずによく泡が保てるなぁ、といつも感心してしまう。スイーツって、そんなところが面白い。
削ったチョコレートとバターを一緒に湯せんにかけながら混ぜる。卵黄、砂糖、ブランデーを泡立て器でよく混ぜ、こちらも湯せんにかけて熱を加える。卵黄がとろりとしたらチョコレートと合わせ、人肌に冷めたら卵白のメレンゲを泡を消さないように混ぜる。一人分ずつ分けたら充分に冷やし固める。
………どうもやりにくいなぁ。
結納の打ち合わせ、その翌日、日曜日。
今日は彼が珍しく我が家に遊びに(?)来ていた。その彼が、先ほどから私の手元をじっと見ているのだ。
さすがに足を踏ん張ってすごい顔で手作業でメレンゲをつくるのは恥ずかしかったから、ハンドミキサーを使ってしまった。緊張してうっかり泡だてすぎちゃうところだった。
「あのぅ、お兄ちゃん。そんなにジロジロ見ないでくれるかな………」
「誰が“お兄ちゃん”だって?“瑛士くん”。言ってみな」
「い、言えないよ、そんなの」
「そんなのとはなんだ、そんなのとは」
彼はダイニングの椅子に後ろ向きに座り、座面を跨いで背もたれに腕を回して組んでいる。下から睨むのやめてくれないかなぁ。
ため息をつきながら背を向けて、冷蔵庫にムースに一つずつ蓋をしてしまう。泡が消えないように気を付けたから、今日もまずまずの出来だと思う。
「りーつ。終わった?」
「わぁっ!」
不意打ちだ。背後から近付いて抱きしめられてしまった。
「……くく。色気ないねー。俺の彼女は」
「か、彼女って……」
「あれ、違うの」
いや、聞いてないし。
「まだ……………」
「何?」
「すきって、言われてない………」
「うん、わざと言ってない」
「ていうか、腕、暑い。重い」
「………律ってツンデレ?」
「お兄ちゃんだって意地悪」
くすくす、二人で笑い合う。これでも充分、幸せなんだけどね。
「こっちにおいで」
「でもお片付けしないと………わわっ」
椅子にちゃんと座り直した彼の膝の上、横座りに乗せられた。
「今日の律は、ブランデーの匂い」
「やぁっ。嗅がないでよぅ、くすぐったいってば」
彼の鼻先が首筋に当たって、くすぐったいのに、やめてくれない。よけたいのに、身体はがっちりホールドされてるし。
「あと、律の汗の匂い?」
「だからー、嗅がないでって………っふ」
身を捩ろうとしたら、唇が首筋に這わされて息をのんだ。
「律………、好きだよ。好きだ………」
小さく呟いたあと、右手が私の顔を固定した。
視線が強引に合わせられて顔が赤くなる。
私も勇気を出して呼んでみようか。
「瑛士くん、すき………」
「ん。ちゃんと言えるじゃん」
目元に、ちゅっ、とキスされて、思わず目を閉じる。それはそのまま私の唇に。
びっくりしている私を宥めるように、背中を彼の手のひらが、ゆっくりと上下に摩っている。それでもドキドキは収まらないけれど。
彼の唇が2、3秒で離れたら、私の唇がもう寂しがっている。それを見透かすように、角度を変えて、また唇が塞がれる。優しく、何度も繰り返されて。
熱に浮かされたように、気付いたら、くたりと彼に寄りかかっていた。
慌てて離れようとしたけれど、ますます強く抱きしめられてちょっと苦しい。
「あー、なんか可愛すぎてダメだ」
「えぇ?」
何がだ。
父は釣りに出掛けているし、母は、伯母の所に入り浸っているのだろう。妹も、友達と遊びに行っている。みんなが帰ってくるまでは、この家にふたりきり。
キス以上のことはまだ怖いから、とりあえず母には早く帰ってきて欲しいような、そうでないような。
だから今日は、きっとこの繰り返し。
あまい休日、あまい時間。
削ったチョコレートとバターを一緒に湯せんにかけながら混ぜる。卵黄、砂糖、ブランデーを泡立て器でよく混ぜ、こちらも湯せんにかけて熱を加える。卵黄がとろりとしたらチョコレートと合わせ、人肌に冷めたら卵白のメレンゲを泡を消さないように混ぜる。一人分ずつ分けたら充分に冷やし固める。
………どうもやりにくいなぁ。
結納の打ち合わせ、その翌日、日曜日。
今日は彼が珍しく我が家に遊びに(?)来ていた。その彼が、先ほどから私の手元をじっと見ているのだ。
さすがに足を踏ん張ってすごい顔で手作業でメレンゲをつくるのは恥ずかしかったから、ハンドミキサーを使ってしまった。緊張してうっかり泡だてすぎちゃうところだった。
「あのぅ、お兄ちゃん。そんなにジロジロ見ないでくれるかな………」
「誰が“お兄ちゃん”だって?“瑛士くん”。言ってみな」
「い、言えないよ、そんなの」
「そんなのとはなんだ、そんなのとは」
彼はダイニングの椅子に後ろ向きに座り、座面を跨いで背もたれに腕を回して組んでいる。下から睨むのやめてくれないかなぁ。
ため息をつきながら背を向けて、冷蔵庫にムースに一つずつ蓋をしてしまう。泡が消えないように気を付けたから、今日もまずまずの出来だと思う。
「りーつ。終わった?」
「わぁっ!」
不意打ちだ。背後から近付いて抱きしめられてしまった。
「……くく。色気ないねー。俺の彼女は」
「か、彼女って……」
「あれ、違うの」
いや、聞いてないし。
「まだ……………」
「何?」
「すきって、言われてない………」
「うん、わざと言ってない」
「ていうか、腕、暑い。重い」
「………律ってツンデレ?」
「お兄ちゃんだって意地悪」
くすくす、二人で笑い合う。これでも充分、幸せなんだけどね。
「こっちにおいで」
「でもお片付けしないと………わわっ」
椅子にちゃんと座り直した彼の膝の上、横座りに乗せられた。
「今日の律は、ブランデーの匂い」
「やぁっ。嗅がないでよぅ、くすぐったいってば」
彼の鼻先が首筋に当たって、くすぐったいのに、やめてくれない。よけたいのに、身体はがっちりホールドされてるし。
「あと、律の汗の匂い?」
「だからー、嗅がないでって………っふ」
身を捩ろうとしたら、唇が首筋に這わされて息をのんだ。
「律………、好きだよ。好きだ………」
小さく呟いたあと、右手が私の顔を固定した。
視線が強引に合わせられて顔が赤くなる。
私も勇気を出して呼んでみようか。
「瑛士くん、すき………」
「ん。ちゃんと言えるじゃん」
目元に、ちゅっ、とキスされて、思わず目を閉じる。それはそのまま私の唇に。
びっくりしている私を宥めるように、背中を彼の手のひらが、ゆっくりと上下に摩っている。それでもドキドキは収まらないけれど。
彼の唇が2、3秒で離れたら、私の唇がもう寂しがっている。それを見透かすように、角度を変えて、また唇が塞がれる。優しく、何度も繰り返されて。
熱に浮かされたように、気付いたら、くたりと彼に寄りかかっていた。
慌てて離れようとしたけれど、ますます強く抱きしめられてちょっと苦しい。
「あー、なんか可愛すぎてダメだ」
「えぇ?」
何がだ。
父は釣りに出掛けているし、母は、伯母の所に入り浸っているのだろう。妹も、友達と遊びに行っている。みんなが帰ってくるまでは、この家にふたりきり。
キス以上のことはまだ怖いから、とりあえず母には早く帰ってきて欲しいような、そうでないような。
だから今日は、きっとこの繰り返し。
あまい休日、あまい時間。
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