33 / 36
眩暈のころ
32. そして、それから 2
しおりを挟むこのところ、中学時代を偲ばせるように、近海が好きだった、写真家のウィリアム・クラクストンのドキュメンタリー番組やら、ローリングストーンズのコンサートやらを、テレビで放映しているのを眼にした。
ストーンズのは、ブライアン・ジョーンズの追悼ライヴだった。そのブライアンの、死因の謎をテーマにした映画も、映画館へ見に行った。色鮮やかな画面はスタイリッシュで、楽曲も格好良かったし、なかなか面白かったが、ブライアン役のレオ・グレゴリーが老け顔で、むしろミックやキース役の男の子たちのほうが、ぴちぴちで可愛らしいのが、不満でもなかった。
お正月に帰省した近海を呼びつけ、蝉丸のカフェで夕食を摂りながら、私は訴えた。
「ブライアンに顔立ちが似てなくて好いから、あの素敵な雰囲気の似てる子を、ぜひ主役にして欲しかった」
「あんなキュートな人類は、他におらんのやろかねえ」蝉丸が、カウンター越しに口を挟んだ。
「いないよねー」
「ねー、いや、チェットはどう?」
近海は、すっかり血肉をそなえ、人間らしくなったと思う。年をとったせいで、肌がくすんだり、たるんだり、脂肪がついたりしたせいかも知れないけれども。他人のことばかり云えないが。
「ハイドパークで、ミック・ジャガーさんが、セリーヌだかラシーヌだかの詩を朗読するでしょう」
私が云うと、近海が、
「違うよ。パーシー・シェリーだよ」と速攻、冷静な口調で訂正した。
「似たようなもんじゃんよ」
「全く別人だって。青木なんか、トルストイとドストエフスキーを間違えたら、罵倒するくせに」
「しない。しかも似てないし、名前。間違えるような手合いは、そっとしとくんだ。一生、間違え続けたまえ」
「厳しいねえ。おまえは変わらないな。夏休みの間、ほとんど読みもしていないくせに埴谷雄高にはまって、『死霊』に影響を与えた、ドストエフスキーの『悪霊』を読まねばならぬ、ならぬ、としきりに唱えていたけど、読んだ?」
「読まない」
「そう、映画を観ただけで済ましたんだよね。同じ作者つながりで、『カラマーゾフの兄弟』の。しかも映画館でなくテレビで。しかも前半で眠ってしまった」
「喧しいやい。自分に甘いですよ。しょうもないことを、何故覚えているか」
22
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
最下位少女
有箱
現代文学
この国には、月に一度国民テスト――通称100番テストと呼ばれる物が開催される。
またの名を死のテストと呼び、最下位になると公開処刑された。
そんなテストの最下位から、大事な人を救おうとする物語。
未熟者の詩集
九丸(ひさまる)
現代文学
取って出しのさらけ出し。
詩の形式もなにも分かってません。
思ったままを。
以前投稿したもを連載にしました。
解釈は人それぞれ。
でも、たまに解説入ります。書いた時の心境とか。
よろしくお願いします。
いつかは さようなら~よかれと思うことをしてくれなくていい。嫌なことをしないで。
あおみなみ
現代文学
高校時代1年先輩だった、涼しげな容姿で物静かな「彼」こと相原幸助。
愛らしい容姿だが、利己的で共感性が薄い「私」こと天野真奈美は、周囲から孤立していたが、「彼」がいればそれでいいと思っていた。
8年の交際の後、「彼」と結婚した真奈美は、新婚初夜、耳を疑う言葉を聞く。
◇◇◇
この短編を下敷きにして書きました。そこそこ長編になる見込みです。
『ごきげんよう「あなたは一番見るべきものを ちゃんと見ていましたか?」』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/566248773/193686799
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
物語のかけらを集めて
駒野沙月
現代文学
ふと思いついたワンシーンやセリフなど、1つの小説にするには短い文章を雑多にまとめました。不定期更新。
ジャンルは現代ドラマとしていますが、その他恋愛やファンタジー、SF(すこしふしぎ)やエッセイじみたものもあります。お好きなお話からどうぞ。
※ここに置かれている「かけら」は、今後他作品へと流用する可能性があります。
カクヨム、小説家になろう、pixiv(一部のみ)にも掲載しています。
黒い聖域
久遠
現代文学
本格長編社会派小説です。
宗教界という、不可侵な世界の権力闘争の物語です。 最初は少し硬い感じですが、そこを抜けると息も吐かせぬスリリングで意外な展開の連続です。
森岡洋介、35歳。ITベンチャー企業『ウイニット』の起業に成功した、新進気鋭の経営者で資産家である。彼は辛い生い立ちを持ち、心に深い傷を負って生きて来た。その傷を癒し、再び生きる希望と活力を与えたのは、大学の四年間書生修行をした神村僧である。神村は、我が国最大級の仏教宗派『天真宗』の高僧で、京都大本山・本妙寺の執事長を務め、五十代にして、次期貫主の座に手の届くところにいる人物であった。ところが、本妙寺の現貫主が後継指名のないまま急逝してしまったため、後継者問題は、一転して泥沼の様相を呈し始めた。宗教の世界であればこそ、魑魅魍魎の暗闘が展開されることになったのである。森岡は大恩ある神村のため、智力を振り絞り、その財力を惜しみなく投じて謀を巡らし、神村擁立へ向け邁進する。しかし森岡の奮闘も、事態はしだいに混迷の色を深め、ついにはその矛先が森岡の身に……!
お断り
『この作品は完全なるフィクションであり、作品中に登場する個人名、寺院名、企業名、団体名等々は、ごく一部の歴史上有名な名称以外、全くの架空のものです。したがって、実存及び現存する同名、同字のそれらとは一切関係が無いことを申し添えておきます。また、この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
他サイトにも掲載しています。
この世界に生きていた男の話
百門一新
現代文学
二十八歳の「俺」は、ある日、ふらりと立ち寄ったBARで一人の男に語り聞かせる。それは、四ヶ月前までこの世界に生きていた男の話――
絶縁していた父が肝臓癌末期で倒れ、再会を果たした二十代そこそこだった「俺」。それから約六年に及ぶ闘病生活を一部リアルに、そして死を見届けるまでの葛藤と覚悟と、迎えた最期までを――。
※「小説家になろう」「カクヨム」などにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる