20 / 36
眩暈のころ
19. 中学三年のころ(卒業式) 17
しおりを挟む卒業式には、近海もやって来た。
かなりの進学校に合格したようで、私は安心するどころか、養生して元気になってから、大検でも受けたら良いのにと、おせっかいにも考えた。
しかし、ショッキングな事実も判明し、と云うか、気づかない私がうかつだったのだろう。つまり近海の体調にやきもきしていたのは私ひとりで、彼は自主学習に専念するために学校へ来なくなった、と云うのが、級友たちの間では暗黙の了解だったのである。
私は、あんまり近海ばかりを見つめすぎたのかも知れない。
式が終わって教室で証書をもらい、いざ解散となっても、終業時間が早いので、なかなか友人たちとの話の切りがつがず、いつもの渡り廊下に溜まり、下らない冗談ではしゃぎつづけた。感傷的な気分に浸ってはいなかった。
じゃんけんに負けた私が、お向かいの店にジュースを買いに走っていたら、他のクラスの男子と帰りかけていた近海の、すらりとした後姿が見え、あっと思う暇もなく、彼がふり向いた。
その瞬間、私は不覚にも、仔犬のように濡れた黒い瞳と、育ちのよさげな顔立ちを、可愛らしいと思ってしまった。
「青木、元気で」近海が云った。私が追いかけて来たと、勘違いしたようだった。
「近海こそ、無理すんなよ」
彼に連れがいるので、一瞬は恥ずかしかったが、話しかけられたら、どうでもよくなった。明日から会えないのだと急に意識され、私は悲しくなった。
近海は私のほうへ歩みより、
「俺は、青木のことを、よく分かっているんだ。この先、煩悶に苦しむときもあるだろうけど、僕なら君の気持が理解出来るから。解決は出来なくても、青木には俺がいるからね」包み込むような口調で云いながら、気障ったらしいしぐさで右手を差し出した。「お別れの握手をしよう」
22
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる