小説練習帖 七月

犬束

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否応なしに〈21〉

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 under the rose  5.

 出がけに、Sは台所に積んであった庭で収穫したトウモロコシを数本、つかんで抱えた。あの、娘のピアノと部屋の防音を自慢するためにやって来た、手土産にフォションの紅茶とジャムの詰め合わせを選んだ(喜んだのは、大学生の従姉だけだった)、あの母親は、そんな物は疎ましがるだけであろう。察知をしつつ、むしろ挑むような心持で、それらをお見舞いしてやろうと、Sは考えた。
 どうやら、母親から彼女を守ってやるつもりだったらしい。
 玄関に現れたのは、母親ではなく、年配の、おそらく家政婦だったので、まず拍子抜けした。けれども、その婦人の後ろにくっついていた、幼い少年が、
——なんだ、それ。変なの。
 Sにチラチラと視線を向けながら、トウモロコシを受け取った彼女に、不満げにいった。
 お嬢さんを呼んで来るから、と婦人が奥へ消えると、少年と二人きりで、気まずい空気になった。エントランスに飾った静物画を眺めるふりをしていたら、少年の裸足の足音がやけに近くまで駆け寄る。
 気になって視線を移したとたん、いきなり小さな拳を突き出された。驚いて声を立てると、彼はひどく嬉しそうな笑顔を浮かべた。
 その手には、作り物のイグアナが握られていた。

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