上 下
2 / 163

はるか彼方の記憶

しおりを挟む
頭に流れ込む映像。トラックに引かれた女子高生。どくどくと生々しく流れ出す血。

「ッ……!!!」

思わずはね起きる。私は今、何を……?あれは誰?何の記憶?そもそも、どんな世界観?
いや、違う。私は知ってる。あれが誰か、私は誰か。暗闇の中、そっと鏡に触れる。そこに映ったのは少女。ヴィヴェルーナ・クローダム。この国、ディヴィラーナ王国を背負う貴族の双璧の片割れの娘。でも違う、私はヴィーであってヴィーじゃない。私はーーああ、そうか。ひとつずつ、先程の夢を思い返していく。あの轢かれていた女子高生は、私だ。直感的に、それとわかる。つまり、だ。私は前世で死んで、この世界に、ヴィーとして生を受けたんだ。なぜ今記憶が戻ったのかは分からない。でも、この記憶は私の中にずっと存在していたものだと、それだけはわかる。幼い頃からずっと感じていた欠けていたパーツがハマった感覚。これでヴィヴェルーナは、完成だ。ああ、そっか。前世の記憶込みで、私は私なんだ。
……いやいやいや、ちょっと待って!!!
なんか自然と納得したけど意味わからないんですけど!?え、私は結局誰?私はヴィヴェルーナ。うん、それは間違いないよね。ドゥレ・エノ・ワールで主人公に嫌がらせを繰り返す悪役だ。でもそれでありながら、私は同時に羽村美穂音だ。今、私の体には2つの人格が存在している?いや、それはない。私は私で、それは揺るがない。なら考えられる可能性は、元からこの体に羽村美穂音としての記憶が無意識に存在していて、それを今突然認識したという可能性?……うん、それしか考えられない。だって私はヴィーとして7年間生きてきた。その記憶ははっきりある。

「好きな乙女ゲームの世界のキャラに転生ってこと……?」

なんとも現実味のない話だ。でも、ちょっと待て。
アンジエ・チーラム。私は、彼を知っている。ヴィーに仕える使用人兼幼馴染のメインヒーロー的存在ということだけじゃない。ただの、少年時代の彼を。本編より幼いものの、間違いない。あの黒髪に赤い瞳、更にプレイヤーにバカと呼ばれるようにまでなってしまった原因の一直線さ。

「え、じゃあ、私は今までアンジエと何気なく、誰も知らないオリジナル会話イベントを常に発生させてた上に未出の幼少期立ち絵を独り占めしてたってこと?」

頭がくらっとしたかと思えば、ベッドに倒れ込んでしまう。え、私やばくない???
興奮を通り越して放心状態で横たわっていると、追い打ちをかけるように別の事も思い出す。あれは確か5歳のころ。両親に連れられ、王への挨拶ついでに年が近いから、といって私より1つ年上の、次期国王候補筆頭である彼、レウザン様に会わされた時のことだ。

「待って。あれって、レウザン・ゼハシュ様だよねえ。うん、だよねえ」

あの深緑の髪に幼いながらに既に身にまとっている風格。間違いない。あれは、レウザン様の幼い頃の姿だ。

「……でもさ、それだと、そのレウザン・ゼハシュ様に私は既に会っているってことにならない?え?え?やばくね?」

推しに出会っていた。しかも公式で発表されていない幼少期の頃の推しと。
情報量が多すぎる。でもとにかく確かなのはひとつ。私は前世の記憶を持って、この世界にヴィーとして生まれた。生まれて、しまった。

「……とにかく一旦寝よ……夢の可能性も否定しきれないし」

現実から目を背けて、私はモゾモゾとベッドへもう一度入り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

溺愛パパは勇者!〜悪役令嬢の私のパパが勇者だった件〜

ハルン
恋愛
最後の記憶は、消毒液の匂いと白い部屋と機械音。 月宮雫(20)は、長い闘病生活の末に死亡。 『来世があるなら何にも負けない強い身体の子供になりたい』 そう思ったお陰なのか、私は生まれ変わった。 剣と魔法の世界にティア=ムーンライドして朧げな記憶を持ちながら。 でも、相変わらずの病弱体質だった。 しかも父親は、強い身体を持つ勇者。 「確かに『強い身体の子供になりたい』。そう願ったけど、意味が全然ちがーうっ!!」 これは、とても可哀想な私の物語だ。

悪役令嬢なのに下町にいます ~王子が婚約解消してくれません~

ミズメ
恋愛
【2023.5.31書籍発売】 転生先は、乙女ゲームの悪役令嬢でした——。 侯爵令嬢のベラトリクスは、わがまま放題、傍若無人な少女だった。 婚約者である第1王子が他の令嬢と親しげにしていることに激高して暴れた所、割った花瓶で足を滑らせて頭を打ち、意識を失ってしまった。 目を覚ましたベラトリクスの中には前世の記憶が混在していて--。 卒業パーティーでの婚約破棄&王都追放&実家の取り潰しという定番3点セットを回避するため、社交界から逃げた悪役令嬢は、王都の下町で、メンチカツに出会ったのだった。 ○『モブなのに巻き込まれています』のスピンオフ作品ですが、単独でも読んでいただけます。 ○転生悪役令嬢が婚約解消と断罪回避のために奮闘?しながら、下町食堂の美味しいものに夢中になったり、逆に婚約者に興味を持たれたりしてしまうお話。

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

転生悪役令嬢、物語の動きに逆らっていたら運命の番発見!?

下菊みこと
恋愛
世界でも獣人族と人族が手を取り合って暮らす国、アルヴィア王国。その筆頭公爵家に生まれたのが主人公、エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌだった。わがまま放題に育っていた彼女は、しかしある日突然原因不明の頭痛に見舞われ数日間寝込み、ようやく落ち着いた時には別人のように良い子になっていた。 エリアーヌは、前世の記憶を思い出したのである。その記憶が正しければ、この世界はエリアーヌのやり込んでいた乙女ゲームの世界。そして、エリアーヌは人族の平民出身である聖女…つまりヒロインを虐めて、規律の厳しい問題児だらけの修道院に送られる悪役令嬢だった! なんとか方向を変えようと、あれやこれやと動いている間に獣人族である彼女は、運命の番を発見!?そして、孤児だった人族の番を連れて帰りなんやかんやとお世話することに。 果たしてエリアーヌは運命の番を幸せに出来るのか。 そしてエリアーヌ自身の明日はどっちだ!? 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

処理中です...