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後日談
疑念
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思えばシオン様は今日の朝からおかしかった。
夕食時、いつもだったら満面の笑みで今日起きたこと、私が何をして過ごしたか、根掘り葉掘り話すし、聞いてくるというのに、今夜、今この瞬間も、私のことしか聞いてこない。
「そっか、それで君はそんな本を読んだんだね。ああ、ティータイムはどうだった?僕の部下の故郷の菓子を取り寄せてみたんだ」
ニコニコとした表情にも、なんだか安心できない。いつもだったらもっとこう、暖かくて。いつまでもその笑顔を眺めていたくなるのに。意を決して、私は口を開く。
「あの、シオン様は……?今日は何のお仕事を?」
「え、ああ、僕かい?僕は……何も。それより君に似合いそうなネックレスを出先で見つけたんだ。エメラルドの周りを真珠が覆っていて……」
続く言葉は入ってこなかった。何か、隠されている。ギルベルト様は新婚当初は一応は行き先を誤魔化していた。その時の癖だ。私には嘘がある程度わかる。けど。シオン様が嘘をつく理由。それがどうにも分からない。彼が他の女性と、なんて噂は聞かないし、むしろ夜会でも私のことについて触れ回っているらしい。優しくて芯の強い自慢の妻だと。最近ではその噂で私に話しかけてくる人も多い。じゃあ、何?モヤっとした気持ちをかかえつつ、まあ使用人の前で言いにくい話なのかもしれない。そう無理やり納得する。ギルベルト様のことでどうにも人を疑ってしまう癖を、どうにかしたい。この優しい人を一度だって疑いたくない。そう願いながら。
寝室、2人きり。
「今日の君も美しかった。いつ見ても、君は前に見た時よりさらに美しくなる。本当に、不思議だ。毎秒こんなに美しい人はこの世にいないと心からそう思うのにね。覆され続けている、そしてきっと、これからも」
ネグリジェに着替えた私を膝の上に抱き抱えて、今日もシオン様は愛の言葉を囁いてくれる。最初の頃はどうにもくすぐったくて、その度静止していたけれど、シオン様は、
「本当のことだから仕方ない」
そう言って心の底から幸せそうに、でもちょっぴり困ったように微笑むだけ。いつの間にか、ぼんやりそれを聞いて寝落ちるのが慣例となっていた。今日も優しい声に包まれて、うつらうつらとしてきた時。はっと思い出す。気になったこと。今なら使用人もいない。阻む者は誰もいないはず。
「シオン様は今日は何をしてきたんですか?」
「おや、どうしたんだい、急に。うとうとしている君を観察していたのがバレたのかな?」
くすりと悪戯っぽくウインクする彼に、流されそうになる。けどグッと堪えて。
「シオン様がしたこと、体験したこと、聞きたいです」
「……そうだねえ。外出先で君に似合いそうなネックレスを見つけた。本当にそれ以外、取り立てて話すことがないんだ」
何か隠してる。
だっていつも、今日も変わらない1日だったと笑いながらも内容を喋るのに。
「シオっ!」
「……ん。ほら、そろそろ寝なさい。大丈夫、いつだって僕は君を守ってるよ」
唇を合わせられた。漏れる甘い息に思わず赤面すれば、あの助けられた夜のように、手で視界を塞がれる。これ以上聞くのは無理だと判断して。私はたくましい腕に抱かれて今日も眠りについた。
夕食時、いつもだったら満面の笑みで今日起きたこと、私が何をして過ごしたか、根掘り葉掘り話すし、聞いてくるというのに、今夜、今この瞬間も、私のことしか聞いてこない。
「そっか、それで君はそんな本を読んだんだね。ああ、ティータイムはどうだった?僕の部下の故郷の菓子を取り寄せてみたんだ」
ニコニコとした表情にも、なんだか安心できない。いつもだったらもっとこう、暖かくて。いつまでもその笑顔を眺めていたくなるのに。意を決して、私は口を開く。
「あの、シオン様は……?今日は何のお仕事を?」
「え、ああ、僕かい?僕は……何も。それより君に似合いそうなネックレスを出先で見つけたんだ。エメラルドの周りを真珠が覆っていて……」
続く言葉は入ってこなかった。何か、隠されている。ギルベルト様は新婚当初は一応は行き先を誤魔化していた。その時の癖だ。私には嘘がある程度わかる。けど。シオン様が嘘をつく理由。それがどうにも分からない。彼が他の女性と、なんて噂は聞かないし、むしろ夜会でも私のことについて触れ回っているらしい。優しくて芯の強い自慢の妻だと。最近ではその噂で私に話しかけてくる人も多い。じゃあ、何?モヤっとした気持ちをかかえつつ、まあ使用人の前で言いにくい話なのかもしれない。そう無理やり納得する。ギルベルト様のことでどうにも人を疑ってしまう癖を、どうにかしたい。この優しい人を一度だって疑いたくない。そう願いながら。
寝室、2人きり。
「今日の君も美しかった。いつ見ても、君は前に見た時よりさらに美しくなる。本当に、不思議だ。毎秒こんなに美しい人はこの世にいないと心からそう思うのにね。覆され続けている、そしてきっと、これからも」
ネグリジェに着替えた私を膝の上に抱き抱えて、今日もシオン様は愛の言葉を囁いてくれる。最初の頃はどうにもくすぐったくて、その度静止していたけれど、シオン様は、
「本当のことだから仕方ない」
そう言って心の底から幸せそうに、でもちょっぴり困ったように微笑むだけ。いつの間にか、ぼんやりそれを聞いて寝落ちるのが慣例となっていた。今日も優しい声に包まれて、うつらうつらとしてきた時。はっと思い出す。気になったこと。今なら使用人もいない。阻む者は誰もいないはず。
「シオン様は今日は何をしてきたんですか?」
「おや、どうしたんだい、急に。うとうとしている君を観察していたのがバレたのかな?」
くすりと悪戯っぽくウインクする彼に、流されそうになる。けどグッと堪えて。
「シオン様がしたこと、体験したこと、聞きたいです」
「……そうだねえ。外出先で君に似合いそうなネックレスを見つけた。本当にそれ以外、取り立てて話すことがないんだ」
何か隠してる。
だっていつも、今日も変わらない1日だったと笑いながらも内容を喋るのに。
「シオっ!」
「……ん。ほら、そろそろ寝なさい。大丈夫、いつだって僕は君を守ってるよ」
唇を合わせられた。漏れる甘い息に思わず赤面すれば、あの助けられた夜のように、手で視界を塞がれる。これ以上聞くのは無理だと判断して。私はたくましい腕に抱かれて今日も眠りについた。
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