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なんて最低な日だ。
しおりを挟む※主人公がメンヘラ気質で面倒くさい子なので、無理だと思ったらお戻りください。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫
_____なんて最低な日だと思った。
ちっぽけで、それでいてひどく優しかった私の世界に入ってきたあの子は、人好きのする垂れ目を細めながらヘラヘラと笑っていた。
痛みも苦しみも知らず、甘美なスイーツばかり口にしてきたような甘ったるい声と、相手を気持ちよくするような世辞ばかり口にする薔薇色の唇が、心底鼻につく。
「これからよろしくお願いします、ソフィア嬢」
「今まで、つらかったな。困ったことがあったらなんでも言ってくれ」
「歓迎するよ。なあ、メアリ」
生ぬるいムードに包まれて、こちらにまで同意を求めてくる彼らに素直に頷くことができなかったのだ。
「平民の暮らしの、何がつらいの?」
いつもはもっと、うまくやれていたはずなのに。
思えば、この時からだろうか。
彼らと私の間に、見えなくとも、深い深い溝が築かれ始めたのは。
「っ、メアリ、無神経だろ」
幼馴染のルイスが眉をひそめて苦言を呈す。
「元平民だからって、ソフィアさんがつらい思いをしたとは限らないでしょう?わざわざ生徒会に迎えること…」
「ソフィア嬢、君はもう少し人を思いやれる人間だと思っていましたが、機嫌でも悪いのですか?」
副会長のクラウス様も、どこかピリついた雰囲気でそんなことを尋ねた。
「この学園の、由緒正しい生徒会役員に、急によくわからない人を入れるなんて、そんなのおかしいと思います、」
「ソフィア嬢が平民上がりだからか?」
厳しい顔つきでそう言うのは、私と同じ役員のグレン様だった。
「ちがっ…」
「身分で人を判断することこそ、誉ある我が学園の生徒会役員として、恥じるべき行為では?」
平民の出自だからとか、そんなことは関係なかった。
踏み入った誰かがどんなに高貴な方だって、自分の世界を壊されてしまう恐怖は変わらない。
私はただ、私に優しい世界を守りたいだけなのだ。
貴族社会の縮図のようなこの学園で、私を仲間として迎え、優しくしてくれた生徒会の彼ら。
きっかけはルイスだったけれど、それでも、何の偏見もなく、一個人として尊重してくれた彼ら。
せっかくできた居場所だったのに、他の誰かに彼らの関心が向くことが耐えられなかった。
狡くて汚い自身の気持ちを悟られたくはないのに、漏れだした醜さを上手く封じ込められる程賢く生きることはできないらしい。
「とにかく、これは会長の意向でもあります。一役員が口を挟めることではありません」
「っ、申し訳、ございません」
有無を言わせない口調に咄嗟に出た言葉は、思ってもいない薄っぺらな謝罪だった。
「あの、メアリさん、微力ではありますが力になれるように頑張るのでっ、これからよろしくお願いします!」
ぺこぺこと頭を下げる彼女は、心からそんなことを思っているのだろうか。
私と同じくらい、悪い子ならいいのに。
「…よろしく、お願いします」
口から出たのは、ひどく震えたみっともない声だった。
ソフィア・レイモンドは、レイモンド家の伯爵がかつて関係をもった平民の女性との間にできた子どもらしい。
前妻を病で亡くしたことをきっかけに、彼女たちを迎え入れた伯爵は、きっとずっと、家族であるソフィアさんたちを大切に思っていたのだろう。
愛されて育ってきたのだ。
花が咲くような笑みを振りまく彼女を一目見て、簡単にそんなことを理解した。
そうして彼女は、私が何よりも大切にしてきたこの場所を、事も無げに手に入れてしまうのだった。
公爵令息のクラウス様に、由緒正しき王宮騎士の家系に生まれたグレン様、幼馴染で侯爵令息のルイスに、生徒会長のあの方。
身分は違うけれど、友人で、仲間で、兄のような温かさをもつ彼らが大切。
彼らは自由で、自分の所有物でもないのに、こんなにも嫉妬してしまう私が…きっとおかしいのだろう。
わかっているのに、ソフィアさんに優しくできそうにはなかった。
「メアリさん、今度お父様がパーティー開いてくれるんです!お友達を呼んでもいいよって、あの、それで…メアリさん、来てくださいませんか?」
「…私が、伯爵家のパーティーに?」
もじもじと頬を赤らめるソフィアさんが様子を窺うように口を開く。
「はい、いきなり貴族社会に入った私を心配したお父様が、交友関係を広げるきっかけになればと…」
くすぐったそうに笑う彼女があまりに眩しくて、思わず目を細めてしまった。
「…申し訳ありませんが、参加することはできません」
きっぱりと断った私に、彼女は悲しげに眉を下げるのだった。
「どうしてです?」
耳に届いた声に滲む怒りに気づかない程鈍感ではない。
「メアリ嬢と仲良くなろうというソフィアの気持ちを無下にするのはやめろ」
「…メアリ、どうしたんだよ。最近どこかおかしいぞ」
そうして、ソフィアさんを庇うように口を挟む彼らに、唐突に理解してしまった。
居場所だと思っていた、この学園の生徒会室。
目の前にいるのは、とうに私の友人などではなかった。
彼らは、ソフィアさんを守る、優しいナイトたちなのだ。
「私がどのパーティーに参加するかは、全て私の父が決めることなので」
「そんなの、ソフィアが侯爵に直接頼めばどうにでもなることだろう!」
「難しいことです」
それが真実であっても、もうきっと、誰も信じてはくれないのだろう。
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