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それって、なんてご褒美?

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____ああもう、うざったい。


目の前で会話に花を咲かせるフランツとメローナ、そしてその隣で憂いを帯びた表情を浮かべるジャンをちらりと一瞥して小さくため息をついた。



「これはまた、随分と楽しい面子ですわね」

「皮肉たっぷりだね」


うんざりとした様にジャンが言葉を返した。



今はお昼休憩の時間。

私はフランツに生徒会室に呼び出されていた。


この男は単細胞で頼りなくはあるが、王太子だけでなく、学園のトップである生徒会長の役割まで担っているのだ。


…まあ、王太子の彼よりも上に立てる人間なんていないのだから当たり前だと言えばそうなのかもしれない。



「で、何なんです?いい加減にイチャイチャするのはやめて、さっさと用件を教えてくださいませんこと?」

「お前はそういう言い方しかできないのか」


じろりと睨まれるが、いきなり呼び出されて放置されるこちらの身にもなってほしいものだ。



「まあいい。それより明日のパーティーの件だが」


予想もしてなかった話題に首を傾げる。

確かに明日は学園主催の創立記念パーティーがあるが、それがどうしたと言うのだ。


「お前との婚約を破棄して初めてのパーティーだが、メローナをエスコートする私をみて変な気を起こされたら困ると思ってな」

「…どういう意味です?」

嘲笑を浮かべてそんなことを言う殿下に、自分の眉間に皺が寄るのがわかった。



「フランツ、その言い方はあまりにも失礼だ」

見兼ねたジャンが苦言を呈してくれる。

この人の、こういう誰に対しても公平な態度が素敵なのだ。


「ジャンは黙っていてくれ。だからな、リリス・ホーガン…お前に監視をつけることにした」

「婚約を破棄した今、私と殿下は赤の他人なんですよ?最早貴方に私の自由を制限する権利なんてないと思うのですが」


「これは王太子命令だ」


そんな言葉に思わず舌打ちを零してしまいそうだった。

この男は自分が不利になると馬鹿の一つ覚えみたいに同じ言葉を口にするのだ。


…立場上逆らえない自分に嫌気がさす。


やっぱりこんな世界なんて早く脱出しなければならない。



「で、監視とは?」


逆らわない私に気を良くしたのか、目の前の男はふんっと鼻を鳴らして口を開く。


「ジャンをつける。お前はジャンにエスコートしてもらって会場入りしろ」



ああ、はい。


…それって、なんてご褒美?



そんな私情は置いといて、フランツ殿下の言葉に私は強い怒りを覚えるのだった。


これでは、ジャンがあまりにも不憫だ。



「…自分達は二人仲良くパーティーを楽しんで、ジャンには不利な役を押し付けるんですね。素敵な友人関係で羨ましいです」

口元に笑みを称えてそう言うと、彼の整った眉がぴくりと反応するのがわかった。


「まあ、殿下にとっては都合がいいですよね。婚約者を傷つけるかもしれない悪女も、婚約者を慕う恋敵も…両方いっぺんに遠ざけることができるんですもの」



…ああ、本当こいつクソ男だわ。



「リリス様、フランツ様は私のために配慮してくださっただけなんです…あまり責めないであげてください」

「…そう思うならあなたは友人であるジャンに配慮してあげるべきだったんじゃない?結局あなた達は自分のことしか考えてないのよ」


ジャンは友人なんて言葉で縛り付けて都合良く利用していい人間じゃない。



「…ジャンも、殿下やメローナさんの友人だったらこんな役断ってもいいと思うわよ?」


黙って突っ立っていたジャンを見つめてそう言う。

王太子の頼みを断るなんて荷が重いかもしれないけど、あちらが友人という立場を利用するのなら利用し返したらいいのだ。




「僕は別に、嫌じゃなかったから断らなかっただけだよ。心配してくれてありがとう、リリス嬢」


「………は?」


彼の言葉に驚いて目を見開く。



「え、ジャン…?」

メローナがどこか焦った様に彼の名前を呼ぶが、ジャンは特に気にする素振りも見せず口を開いた。



「…相手がいないのも寂しかったし、リリス嬢だったら楽しそうだなと思ったんだ。だけどいくらフランツの頼みでも、こんな場ではなく僕自身が直接君に申し込まなくてはいけなかった」


ジャンの瞳からは悪女に対する嫌悪なんてもう微塵も感じられなくて、なんだか少しだけ報われた気がした。



「僕に君をエスコートさせてくれるかい?」

「そういうことなら、喜んで」


にっこりと微笑むジャン。


窓から差し込む日差しに、その蜂蜜色の髪がきらきらと輝いてまるで王子様のようだった。


少なくとも、彼の態度に驚き、固まったままの本物の王子よりは、何倍も。


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