上 下
3 / 19

もしもの話はやめてくれ。

しおりを挟む


「リリス!またお前は私の婚約者を虐めたようだな!?いい加減私に執着してメローナを害するのはやめろ!」


お昼休憩が始まった途端、ぷんぷんと怒りを顕にした元婚約者フランツが現れてそんなことを言うものだから思わず笑ってしまった。


「ふふっ、私が今まで一度でも殿下に執着したことがあったかしら。…ああ、それと、いい加減親しげにリリスなんて呼ぶのはやめていただけますか?」


婚約者でもない男が馴れ馴れしい。

私がこの名前を呼んで欲しいのは、一人だけだ。



「お前は…!この後に及んでまだそんな悪態をつくのか!!」


「あら、真実を述べただけですが?尊い殿下に嘘をつくなんて恐れ多いこと私にはできませんもの」


クスクスと笑いをもらしながらそう言う私に、彼は眉間の皺をより一層深く刻む。


「綺麗なお顔が台無しですよ?せっかくの殿下の取柄ですのに…唯一の」

「リリス!!!」


「そう怒鳴らないでくださいませっ!また我を失って私を不敬罪で訴えてみますか!?私を実の娘の様に慕ってくださる陛下やこの国の宰相である父が納得するとは思いませんが」


勝手に婚約を解消してしまったりと何かと問題のある殿下の訴えを彼らがすんなりと聞いてくれるわけがないことはわかりきっていた。

私達の婚約解消は、彼に許された一世一代の我儘だろう。



「私は絶対にお前を牢屋に入れてやる!」

「それはそれは、楽しみにしていますね」


「お前なんか大嫌いだ!!!」


まあ奇遇ですね。私もだわ。

ジャンを傷つけたこの男をただでは許さないと決めているのだ。


あなたとメローナのハッピーエンドはもう終わったのだから、今度はこちらの番よ?



殿下は顔を真っ赤にしたまま私のクラスを飛び出していくのだった。

…毎回ああして言われっぱなしで逃げていくくせに、本当学習しない人ね。



行動しないと気が済まない性格は相変わらずだ。

そこだけは見習って私もジャンにアプローチでもしにいこうかしら。



鼻歌交じりに食堂に足を進めた。

彼が毎日ここでお昼をとっていることは調査済みだ。



「ジャン、ここ空いてる?空いてなくても座っちゃうんだけど」

声をかけられた瞬間あからさまに表情を歪めるジャンにクスリと笑みをもらした。

いつ声をかけてもいい反応だ。


ジャンの隣の空席(仮)に腰掛けると、ムッととした顔をして彼が口を開いた。


「空いてないので、他の席にどうぞ」

「でも誰も来ないみたいよ?私がどこに座るかなんてあなたに指図される筋合いはないと思うのだけど」

そう返すとジャンはぐっと言葉を詰まらせる。



「っ、だったら僕が違う席にする」



「ねえジャン」


昼食のトレイを持って席を立とうとするジャンの腕にそっと手を当てて言葉を続ける。



「そんなに私が嫌い?こんなにあからさまに態度に出されたら、私だって傷つくわ」

「うっ」


目元を潤ませてじっと彼を見つめた。


ばっちりと合った瞳が逸らされることはなく、彼の眉がどんどん下がっていき困ったような表情へと変化していく。



「…どうして、僕なんかと食事を共にしたいのか理解できない」

「自分って自分を卑下するの、好きじゃないわ」


そう言った私をチラッと一瞥して、ジャンは小さくため息をついた。



「リリス嬢は変わってる」

「今更?変わってないと社交界で悪女なんて囁かれないでしょ」


「…それはあなたの誰にでも噛み付いていくような性格のせいだと思うけど」


呆れた目でこちらを見つめ、そんな言葉を口にするジャン。

物事を達観したような、どこか気だるげな瞳が好きだった。


彼はメローナのことで私に良い感情は抱いていないくせに、噂や偏見で私に嫌悪を抱いたことはない。


自分の目で見て、ちゃんと考えられる人。



「メローナがもう少し精神的に大人だったら、選ばれていたのはあなただったかもね」

「何それ。もしもの話はやめてくれ」


うん、哀愁漂うジャンも素敵だ。


ジャンを無自覚にでも弄んで傷つけたこと、絶対に許せないけど、こんな傷心モードにしてくれたことだけは感謝するわ、メローナ。


付け入る隙ができたってことでしょう?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

もううんざりですので、実家に帰らせていただきます

ルイス
恋愛
「あなたの浮気には耐えられなくなりましたので、婚約中の身ですが実家の屋敷に帰らせていただきます」 伯爵令嬢のシルファ・ウォークライは耐えられなくなって、リーガス・ドルアット侯爵令息の元から姿を消した。リーガスは反省し二度と浮気をしないとばかりに彼女を追いかけて行くが……。

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。

屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。) 私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。 婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。 レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。 一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。 話が弾み、つい地がでそうになるが…。 そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。 朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。 そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。 レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。 ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。 第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞

聖人の番である聖女はすでに壊れている~姉を破壊した妹を同じように破壊する~

サイコちゃん
恋愛
聖人ヴィンスの運命の番である聖女ウルティアは発見した時すでに壊れていた。発狂へ導いた犯人は彼女の妹システィアである。天才宮廷魔術師クレイグの手を借り、ヴィンスは復讐を誓う。姉ウルティアが奪われた全てを奪い返し、与えられた苦痛全てを返してやるのだ――

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...