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彼を落としたい。籠絡したい。陥落したい。
しおりを挟む私の姿を見るなりヒソヒソと煩わしい陰口を叩かれることに、いちいち何か思うことなんてない。
学園なんて好きでも嫌いでもなくて、ただ行かなければそれはそれで面倒だから足を運ぶだけ。
今まではそうだった。
だけど、今の私はとある明確な目的を持ってこの学園に通い続けている。
「おはよう、ジャン」
ぽんっと肩を叩いて声をかけた男は、そのすっと伸びた背筋をわかりやすくびくつかせた。
「っ、あ…リリス・ホーガン!」
「リリスでいいっていつも言ってるじゃない。もしかして、照れてるの?」
ジャンは困った様に眉を下げ、小さくため息をついて口を開く。
「君はどうして僕なんかに近づくんだ。僕と親しくなったってメローナと殿下の仲を壊す手がかりなんて得られないんだよ」
「メローナのことは呼び捨てなのに、私の名前は呼んでくれないの?」
「はぐらかさないでくれ!」
強い瞳で私を見つめる彼に少しだけ照れてしまう。
こんな風に見つめられるのは悪くない。
私の目的は、この男を誑かすこと。
要するに、恋してしまった彼を落としたい。篭絡したい。陥落したいのだ。
「私はジャンと話したいから声をかけているだけよ。あんな浮気者や芋臭い田舎女になんて興味はないわ」
「僕の友人の悪口はやめてくれ…」
「友人ねえ。本当にそう思ってるの?」
クスッと笑って尋ねると、彼は顔を真っ赤にして私を睨みつけた。
本当に嘘がつけない可愛い人だ。
「あなたが必死に守ってきた彼女も、友人だったあのクソ男も…あなたなんて簡単に切り捨てて、幸せになっちゃったのに?」
「君は…最低だ」
「そんなこと、今更でしょう?」
笑みを絶やさない私を気味が悪いというような瞳で見つめるジャン。
そんな目を向けられたら少しだけ悲しくなってしまう。
「あなたが今でもあの二人にしがみつく理由が私には全く理解できないわ」
「そんなもの、君に理解してもらう必要はない」
「そう、しんどくなったら言ってね」
ジャンが頼ってくれたら私がどろっどろに甘やかしてあげるから。
「僕が君に弱音を吐くことなんて絶対に有り得ない!」
「絶対なんてそんな不確かなことは公言するものじゃないと思うわ」
そう言う私にジャンはムッとしたように顔を歪めた。
彼が私に見せる表情は、そんなものばかりだ。
「っ、リリス様、またジャンに何か酷いことを言っているんじゃっ」
ふいに背後から可愛らしいソプラノの声が聞こえる。
胸糞悪い、私の大嫌いな女の声。
「おはよう、芋女。あなたより酷い行いなんて私には到底できる気がしないのだけど…」
わざとらしく困ったような顔でそう言ってのけると、メローナは大袈裟に悲しげな表情を浮かべる。
「ひどいっ…私はジャンに酷いことなんて」
「無自覚って一番卑怯だと思わない?」
本当に自覚がないのかなんてわからないけれど、知らなかったで全てが許されてしまう世界ならこの世に戦争は起こっていない。
「ジャン…」
「メローナ、気にする事はないよ」
「あーそこで男頼っちゃう?しかも自分が選ばなかった男を?意外と図太いわよね、あなた。悪女向いてるんじゃない?」
揶揄う様な口調でそう言うと、メローナはうるうるとした瞳できゅっとジャンの制服の袖口を掴む。
…本当、張り倒してやりたい。
「メローナ、泣かないで。君が優しい子だってことは僕がちゃんとわかってるから」
「ジャン…ありがとう」
思わせぶりな態度ばかりとって自分を深く傷つけた相手によく優しいなんて言葉が吐けるものだ。
優しいというか、甘いのは完全にジャンの方だと思う。
「脳内お花畑クソ女 ♡」
「っ、君は本当に公爵令嬢なのか!?マナーがなってなさすぎる!!」
「ふふっ、生憎ゴミに向けるマナーや優しさなんて微塵も持ち合わせておりませんの」
私の言葉にジャンやメローナは絶句して目を見開いていた。
「授業が始まってしまうから私はここで失礼するわ。またね、ジャン。メローナさんは不快だからさっさと消えてね?」
「…リリス・ホーガン!!」
「やだっ、怒った顔も素敵よ。さようなら」
早足で教室に入り、席に着いた途端鳴り響いたチャイムに、きっと二人は遅刻だろうとふっと鼻で笑ってしまった。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫
失礼極まりありませんが、こんな公爵令嬢がいても面白いのでは…?なんて軽い気持ちで書いております。
さすがに品が無さすぎて書いててドン引きした。
苦手な方はここらでUターンお願いします。
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