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どうしたらいいの?

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久しぶりにアレスといちゃいちゃして楽しい一日を過ごした次の日、浮かれぽんちアレスはせっかく私が用意したお弁当を忘れていってしまった。


寂しげなお弁当。

早起きして愛情たっぷりに仕上げたお弁当。


式の準備が落ち着いて、ちまちま練習した成果を発揮した自信作のお弁当。



「ルーカス」

「…ええ、行くんですか?ルイーゼ様」


執事にジト目で見られるが、このお弁当だけはちゃんとアレスに食べて欲しいのだ。


「アレスは私が訓練所に来るの好きじゃないみたいだから、今度こそさっと届けてすぐ戻ってくるわ!ルーカスは門のところで待ってていいから、ね?お願い」

「はぁ、かしこまりました。元より私は貴女の頼みを断れる立場ではありませんからね。ああ、我が身が恨めしい」


本音がダダ漏れの執事を引き連れて、私は久しぶりに王宮に足を運ぶのだった。




___この時、アレスの気持ちを無視せず、大人しく帰りを待っていたら良かったと後に死ぬほど後悔することになる。





「着きましたよ、ルイーゼ様」

「ええ、すぐに戻ってくるからルーカスはここで待ってて?」


「やはり私も着いていきます。ルイーゼ様のみでは心配です」


納得のいかない顔でそんなことを言うルーカスを笑顔で制止する。


「あわよくばこっそり覗き見して帰ってくるんだから、アレスの執事として目いっぱい顔を知られてる貴方は邪魔だわ。その点私は騎士団の中で挨拶をしたのも数人だし、きっと早々バレることもないでしょ?」

「ですが…」

「お願い!ちらっと見たらすぐに帰ってくるから!アレスにだってバレないようにする」


アレスは私を騎士団の男性に見せたくないから来ないでって言ってたけど、私は騎士団で頑張るアレスの姿をもっと見てみたいんだ。


アレスの想いを汲んで、彼を見に行くのはこれで最後にしよう。

そう決めていた。



てくてくと一人騎士団の訓練所へ向かう。



「あれ、ルイーゼ?一人でどうしたの?またアレスでも覗きに来た?」


「ロイド様、ご機嫌よう。ロイド様こそ、お仕事の合間にお散歩ですか?」

「うん、息抜きにね」


王宮の一部だから仕方ないことかもしれないが、ロイド様とは毎度毎度よく会うなぁ。

忙しいぶん息抜きもたくさん必要なのかも。



「私は、アレスにお弁当を届けに来たんです。忘れて行っちゃったから」

「へえ、今からもう新妻みたいだね。アレスも喜ぶんじゃない?」


「今日はこっそりです。アレスはあんまり私に騎士団に来て欲しくないみたいで」

「ああ、理由は察するよ。ルイーゼも面倒な男と結婚するね」


苦笑を浮かべてそう言う彼に曖昧な笑顔を返した。

面倒だとは思ったことないけど、アレスのかっこいいところを正面から見られないのは少し寂しい。



「訓練所まで送っていこうか?」

「いえ、もうすぐそこなので。ロイド様も、ご無理はなさらない程度に、お仕事頑張ってくださいね」

「ありがとう、ルイーゼ。ではまた君たちの結婚式で会おう」


ロイド様と別れて再び歩き出す。


もう訓練所も目前というところで、かけられた声に私は足を止めた。


「ルイーゼ様、ですよね?」



「…あなたは?」


挨拶も無しに、目の前の男性は不躾な態度でそんなことを問うた。

…初めて見る人。


第一騎士団の制服に身を包んでいることから、アレスの同僚だとわかり少しだけほっとする。



「俺はクリス、副団長の部下です。先日見かけた副団長の婚約者様が歩いているのが見えてつい話しかけてしまいました」

「そうですか。アレスがいつもお世話になってるようで…」


「副団長に会いにこられたのですか?」


口調は丁寧だが、何も移していないような虚ろな瞳が少し不気味だった。

感情が読めない。

だけど、アレスの仲間なのよね?この人…


アレスはよく第一騎士団のことを私に話してくれるのだが、確かに彼の口からクリスという名前を聞いたことがある。

可愛い後輩だと慕っている様子だった。


信用しても、大丈夫よね…?


「ええ、アレスにお弁当を届けに。それで訓練の様子でも見学出来たらと思って」

「そうですか。それなら訓練所ではなく、今副団長は休憩所にいますよ。案内します」


「そうなのですね。それは残念です。今日はこっそり来てしまったのでこのまま帰ります。できればこのお弁当をアレスに渡してもらえませんか?」

休憩中なら、私もお暇しよう。

もともとアレスに会うつもりはなかったのだから、用がない以上見つからないうちに帰ってしまいたい。


「…直接手渡された方が副団長も喜びますよ」

「アレスには内緒なんです」

どうしてか食い下がってくるクリスという男性が不思議だったが、やっぱり彼に預けた方がアレスも嫌な思いをすることもないだろう。

しかし、そんな考えは彼の次の言葉によって払拭される。


「副団長は今、休憩所でマーナさんと二人っきりですよ」

「っ…!」


さすがにそれは少し心配だった。

何人もいる騎士の中で、どうしてわざわざマーナさんと二人で休憩をとっているのか。


今この瞬間も二人が何をしているのか気になって仕方がなかった。


「…休憩所に、案内してください」

「着いてきてください」



クリスさんの後ろを歩きながら、少しずつ漠然とした不安が募っていく。

先程から人通りの少ない通路ばかりを通っている気がするのは私の思い過ごしだろうか。


「あの、クリスさん、休憩所というのはまだでしょうか?」

「もうすぐですよ、ほら、あそこに小さな小屋が見えるでしょう?」


そう言われて指示された場所に目を向けると、確かに寂れたような小屋が佇んでいる。

だけど、王宮の騎士団があんなところで休憩するものだろうか。


「とても普段から使用されている様には思えないのですが…」

「ああ、そこを利用しているのは副団長とマーナさんくらいですから。二人っきりになれるし丁度いいんでしょうね」


クリスさんの言葉に自分の眉間に深い皺が寄るのがわかった。

全てが全て本当だとは思わないけれど、確認する必要は十分にある。


「傍から見てもマーナさんと副団長は本当にお似合いの二人ですよ」

「そうだとしても、アレスの婚約者は私です」


アレスとマーナさんがお似合いだなんて思わないけど、私の存在を知らなかった騎士団の人にとっては、アレスはマーナさんと結ばれるものという思いが強かったのかもしれない。

それでも、私が身を引くことなんて有り得ない話だが。



寂れた小屋に着き、ゆっくりと扉を開く。

緊張で嫌な汗が背筋をつたった。



「…どういうことですか?」


中には誰もいない。


不審に思って背後に立つクリスさんを振り向こうとした時、首元に鈍い痛みが走る。



「とるに足らない令嬢どころか、こんな即席な策にひっかかって、随分と頭の弱い女だったんですね。お前なんかにマーナさんの幸せは邪魔させない」


薄れゆく意識の中で、最後に耳に届いたのはそんな理不尽な訴えだった。


_____アレス、貴方どんな部下を育成してるのよ。




■□



目を覚ますと、知らない天井があった。

周りを見渡すと壁や床は派手な色合いで、寝かせられたベッドはお世辞にも寝心地が良いとは言えない固く粗末なもの。

窓はなく日が当たらないせいか今が何時なのかすらわからなかった。


…私は、どうなってしまったの?

未だズキズキと痛む首元を押さえ、扉へと足を運ぶが、やはり外から鍵がかけられている。


初めて会った婚約者の部下に、いきなり攫われてこんなところに閉じ込められるなんて、一体誰が予想出来ただろうか。

ルーカス、慌ててるだろうな。

大人しく彼を引き連れてお弁当を届けるべきだった。


いや、アレスの言う通り騎士団に足を運ばなければ、今日も一日頑張ったアレスを屋敷で迎えて、今頃仲良く過ごしていたのかもしれない。


後悔しても遅いのだけど。


「誰か、誰かいませんか!」

扉越しに大声を張り上げる。

パタパタと足音がして、人の気配を感じた。



ゆっくりと扉が開く。


「あら、目が覚めたのね」

「ここは?一体何の目的で私をさらったのですか!」


入ってきたのは、胸元の開いた真っ赤なドレスに身を包んだ女。

化粧のせいで実年齢ははっきりとわからないが、私よりも一回りは年上だろう。



「あなたは、誰?」

「あらあら、質問が多いのね。いいわ、答えてあげましょう。ここは多くの殿方を愉しませる華の都といったところかしら?」


華の、都?
曖昧な表現に首を傾げる私に、女は嘲笑うような笑みを浮かべる。


「娼館って言ったらわかるかしら?私はそこの支配人で、貴女はここに売られたの。どう?高貴なお貴族様が娼婦になった気分は?」

「っ、何を言って…」


「久しぶりに会った愚息が、こんな上玉をただ同然で持ってきてくれるんだもの。突然逃げ出した時は歯痒い思いもしたけど、こんな素敵な恩返しはないわぁ」


この女の息子というのが、クリスさんのことなのだろうか。

私は、売られたの?

最悪な未来が容易に想像できる状況に身震いした。


「こんな上玉のお貴族様ならきっと高く売れるわ。すぐにできるだけ羽振りのいい上客を用意してあげるからそれまで大人しく待ってなさいね」

そう言って女は、さっと扉を閉めて去っていってしまった。

勿論鍵をかけることは忘れない。



「どうしたらいいの…?アレス」

愛しい人の名を呼んでみても、寂しさや不安が募る一方だった。






■□▪▫■□▫▪■□▪▫



近況ボードへのリクエストありがとうございました🙇‍♂️


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