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嫌な気持ち
しおりを挟む早朝のダイニングルームには、両親と二つ上の兄、私、そして同い年の従姉妹が同じ席に着き朝食をとっている。
約二年ほど前からこの屋敷に迎え入れられた従姉妹はすっかり私達家族の一員だ。
この家の人間は皆彼女を受け入れ、最早溺愛と言っていい程愛情を注いでいる。
「ミレイユ、学園はどうだい?何か困ったことはないか?」
優しげな瞳で彼女に声をかける父。
「はい、お父様っ、毎日楽しいです!」
にこにこと愛嬌のある笑みを浮かべながらそう答えるミレイユは、もう随分と前から父のことをお父様と呼んでいる。
父も喜んでいるようで本当は少し面白くない。
「ミレイユはきっと学園でも人気者なのでしょうね。ふふっ、あなたは妹に似て可愛くて優しい子ですもの」
母が嬉しそうにそんなことを言う。
彼女はミレイユの母の姉にあたり、ミレイユの実の伯母である。
母は父の後妻だ。
前妻の子であり直接血の繋がりのない私よりもミレイユのことを可愛がってしまうのは無理もない話だった。
「そんなことありませんっ…えへへっ、だけどそう言ってもらえて嬉しいです」
ミレイユが照れたように微笑むと両親は愛おしそうに瞳を細めた。
それは隣で朝食のソーセージを口に運ぶ兄も同様だった。
「サイラスお兄様もいつも私を心配して声をかけてくれるんですよ」
「ミレイユは少し抜けているところがあるからな」
「もう!そんなことありませんっ」
ぷっくりと頬を膨らませるミレイユは傍から見ても本当に可愛らしい。
輝く様な金色の髪に、淡い桃色の瞳は庇護欲をそそられるようだ。
愛されるべくして生まれた子、彼女に対する印象はそんなところだろうか。
味気のない食事、やつぎばやにフォークを口に運ぶ私を気に止める人間なんて存在しない。
まるで空気のような扱いにももう慣れっこだ。
「ごちそうさまでした」
小さく呟いてそっと席を立った。
少し早いがその場に留まるのもいたたまれず、馬車に乗り込んで学園に向かう。
ミレイユと兄様は今日も相乗りして仲良く登校してくるのだろう。
もやもやとした気持ちになってしまうのは、きっと私の心が狭いからなのだと思う。
ミレイユの境遇はとても幸せとはいいがたかった。
約二年前、彼女が14歳になる頃、彼女の父母は賊に襲われて亡くなった。
ミレイユを王都の屋敷に残して、領地の視察に向かった際の出来事だった。
彼女は唐突に両親を亡くしたのだ。
そして頼れる親戚も少なかった彼女は伯母の家、つまり私の家に預けられることとなった。
当初塞ぎ込むばかりだったミレイユを私達家族は懸命に励まし、愛情を注いだ。
忽ち明るさを取り戻した彼女は、その愛嬌と優しい心根で家族や屋敷の使用人の心を鷲掴みにしているというわけだ。
ミレイルに向けられる愛情のほんの少しでも私に向いていたならば、私はきっとこんな風に彼女に嫉妬してしまうことはなかっただろう。
私はいつから、彼女を目障りだと感じ始めた?
いつから、この様に歪んでしまった?
醜い自分が嫌いだ。
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