【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?

のんのこ

文字の大きさ
上 下
1 / 63

嫌な気持ち

しおりを挟む


早朝のダイニングルームには、両親と二つ上の兄、私、そして同い年の従姉妹いとこが同じ席に着き朝食をとっている。


約二年ほど前からこの屋敷に迎え入れられた従姉妹はすっかり私達家族の一員だ。

この家の人間は皆彼女を受け入れ、最早溺愛と言っていい程愛情を注いでいる。



「ミレイユ、学園はどうだい?何か困ったことはないか?」

優しげな瞳で彼女に声をかける父。


「はい、お父様っ、毎日楽しいです!」


にこにこと愛嬌のある笑みを浮かべながらそう答えるミレイユは、もう随分と前から父のことをお父様と呼んでいる。

父も喜んでいるようで本当は少し面白くない。


「ミレイユはきっと学園でも人気者なのでしょうね。ふふっ、あなたは妹に似て可愛くて優しい子ですもの」

母が嬉しそうにそんなことを言う。

彼女はミレイユの母の姉にあたり、ミレイユの実の伯母である。


母は父の後妻だ。

前妻の子であり直接血の繋がりのない私よりもミレイユのことを可愛がってしまうのは無理もない話だった。



「そんなことありませんっ…えへへっ、だけどそう言ってもらえて嬉しいです」

ミレイユが照れたように微笑むと両親は愛おしそうに瞳を細めた。

それは隣で朝食のソーセージを口に運ぶ兄も同様だった。


「サイラスお兄様もいつも私を心配して声をかけてくれるんですよ」

「ミレイユは少し抜けているところがあるからな」

「もう!そんなことありませんっ」


ぷっくりと頬を膨らませるミレイユは傍から見ても本当に可愛らしい。

輝く様な金色の髪に、淡い桃色の瞳は庇護欲をそそられるようだ。


愛されるべくして生まれた子、彼女に対する印象はそんなところだろうか。



味気のない食事、やつぎばやにフォークを口に運ぶ私を気に止める人間なんて存在しない。

まるで空気のような扱いにももう慣れっこだ。



「ごちそうさまでした」

小さく呟いてそっと席を立った。



少し早いがその場に留まるのもいたたまれず、馬車に乗り込んで学園に向かう。

ミレイユと兄様は今日も相乗りして仲良く登校してくるのだろう。


もやもやとした気持ちになってしまうのは、きっと私の心が狭いからなのだと思う。



ミレイユの境遇はとても幸せとはいいがたかった。


約二年前、彼女が14歳になる頃、彼女の父母は賊に襲われて亡くなった。

ミレイユを王都の屋敷に残して、領地の視察に向かった際の出来事だった。


彼女は唐突に両親を亡くしたのだ。


そして頼れる親戚も少なかった彼女は伯母の家、つまり私の家に預けられることとなった。



当初塞ぎ込むばかりだったミレイユを私達家族は懸命に励まし、愛情を注いだ。

忽ち明るさを取り戻した彼女は、その愛嬌と優しい心根で家族や屋敷の使用人の心を鷲掴みにしているというわけだ。


ミレイルに向けられる愛情のほんの少しでも私に向いていたならば、私はきっとこんな風に彼女に嫉妬してしまうことはなかっただろう。


私はいつから、彼女を目障りだと感じ始めた?



いつから、この様に歪んでしまった?



醜い自分が嫌いだ。



しおりを挟む
感想 529

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」  大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。  毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。  幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。  そして、ある日突然、私は全てを奪われた。  幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?    サクッと終わる短編を目指しました。  内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m    

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

わたしがお屋敷を去った結果

柚木ゆず
恋愛
 両親、妹、婚約者、使用人。ロドレル子爵令嬢カプシーヌは周囲の人々から理不尽に疎まれ酷い扱いを受け続けており、これ以上はこの場所で生きていけないと感じ人知れずお屋敷を去りました。  ――カプシーヌさえいなくなれば、何もかもうまく行く――。  ――カプシーヌがいなくなったおかげで、嬉しいことが起きるようになった――。  関係者たちは大喜びしていましたが、誰もまだ知りません。今まで幸せな日常を過ごせていたのはカプシーヌのおかげで、そんな彼女が居なくなったことで自分達の人生は間もなく180度変わってしまうことを。  体調不良により、現在感想欄を閉じております。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後

柚木ゆず
恋愛
 ※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。  聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。  ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。  そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。  ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

処理中です...