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番外編
転生令嬢、ヤンデレとの攻防は続く
しおりを挟むエドワード様とミキちゃんへの処置を告げてから、更に月日は流れ――……
「……おかしいなぁ……どうしてまだ、外出に制限がかかってるんだろう……」
自宅の庭園でハーブティーを飲みながら一人呟く。
テーブルを埋め尽くすくらいたくさんの資料を並べ、ずっと部屋の中で考え事をしていた私に、見かねた侍女が庭園でお茶を楽しめるよう準備してくれた。
その心遣いを有り難く思いながら、それでも書類は手放せなかった。
エドワード様との婚約解消から間を空けて、とうとう私はルシフェル様と婚約した。
正式に婚約者となって、これでようやくルシフェル様の独占欲がおさまると思っていたけれど、一向にその気配はない。
「まだ結婚には至ってないから? ――でも、結婚してもきっと変わらない気がする……」
婚約前にも同じように考えて、その結果がこれだ。
結婚したら変わるかというと怪しい気がする。
(……いいえ。諦めたらダメよ。クリスティーナ様が危惧していたことだけはなんとしてでも避けないと)
ルシフェル様との婚約発表後、私はこの悩みをクリスティーナ様に相談していた。
当然ながら内容はぼかしてある。
まさか、王太子妃に向かって『婚約者からいっそ監禁したいと言われてるんですけど、どうしたらいいと思いますか?』なんて言えるはずがない。
言葉を選びながら、心配に思われているようで自由に外出できないことをクリスティーナ様に伝える。
相槌を打ちながら私の話を聞いていたクリスティーナ様は、優雅に微笑むと、私の目を見て優しく告げた。
『それだけ貴方が愛されているってことじゃないかしら』
『えっ……』
――さすが、王太子妃になり女性という立場から細やかな心配りで貴族間の調整役を務め世継ぎを産むという大役を果たした御方は違う。
そんな理由付けをして自分に言い訳しなければ恥ずかしくて堪らないほど、クリスティーナ様の言葉は私の胸にすっと入って、じんわりと心を温めた。
ルシフェル様の愛を感じるのは、とても嬉しい。
過激な愛情表現に引いてしまうことはあるけれど、それでも気持ちをぶつけてくれると安心する。
クリスティーナ様の言葉を聞いて思わず喜んでしまった私は、気持ちを落ち着かせるようそっと息を吐く。
浮足立っていた私に向かって、クリスティーナ様は頬に手を当ててちっとも困っていなさそうな顔で、『でも、困ったわねぇ』と言った。
『今からそんな調子じゃあこれから大変ねぇ。婚約発表のパーティーに結婚披露宴と、イベントが目白押しでしょう? 貴方、出させてもらえるかしら?』
『――え……?』
まさか、自分が主役のイベントで出席させてもらえないなんて普通は有り得ない。
でも、ルシフェル様ならやりかねない。
クリスティーナ様に指摘されるまで、そこまで考えが及んでいなかった私は思わず固まった。
確かにルシフェル様は、婚約破棄の噂が落ち着くまでは私を社交の場に出すつもりはないと言っていた。
でも、エドワード様も私も、それぞれ別の人と婚約した。
だからもう私を表舞台に出さない理由はないし、それに婚約発表のパーティーについては既に連名で招待状を出している。
「そう。絶対に、私が欠席するわけにはいかないのよ……!」
ルシフェル様には、絶対に承諾してもらう必要がある。
なんで自分が主役のイベントに出るのにいちいち許可が必要なんだとか、そこはもうツッコんではいけない。
勢い余って持っていた資料を握り潰しそうになって、慌てて紙をのばした。
今、ルシフェル様が難色を示しているのは、パーティーで私が着るドレスについて。
肌を見せないという程度の要求なら、流行りを踏まえつついくらでも案を出せる。
でも、『フィーネの魅力を誰にも知られないドレス』なんて、難易度が高すぎる。
私を黒衣にしたいのだろうか。
ドレスなんて、いかにしてその人を素晴らしく見せるかが大切なのに、もはや逆行している。
それでも、ルシフェル様を満足させるために策を練っていた私は、庭園の垣根から彼の姿を捉えて顔を上げた。
冷たく感じるほど怜悧な美貌が、私を見つけて甘く蕩ける。
「フィーネ……!」
監禁願望があったり、常識からかけ離れた突拍子もないことを口にしたり、ルシフェル様の酷いところを挙げればキリが無い。
困った人なのに、そんなルシフェル様を可愛いと思ってしまうあたり、惚れた弱みというのは恐ろしい。
(まだ手綱を握るには程遠いけど……いいわ。長期戦を覚悟するから)
まずはこのドレスの案を採用してもらわないと!
私はルシフェル様に笑顔を返すと、これから始まる攻防に思いを馳せた。
END
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以上で完結となります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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