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15.イケメンも地位も望んでません!(※レイフォードside)
しおりを挟むレイフォードはこちらに近付いてくる友人の姿を見つけると、ご令嬢方に断りを入れてその場を離れた。
「ダンケル」
「よかったのか? 彼女たちにチヤホヤされていたんだろ?」
「……嫌なヤツだな」
この友人は、レイフォードが笑顔の裏で女性たちを煩わしく思っていることも、その一方で女性たちからの熱い視線に優越感を抱いていることも全て知っている。
『ダンケル・シュルツ』
騎士団団長を父にもつ彼は、彼自身もまた騎士団に入団すべく体を鍛えている。
上背があり体格が良い彼は、アンソワ王太子殿下の護衛兼学友として学校ではいつも一緒にいた。
「お前こそ婚約者殿はいいのか?」
「ああ、女には女の付き合いがあるんだってさ。ずっと側にいられるのは迷惑なんだそうだ」
「そうか」
その割には彼女はべったりだな……とレイフォードは人に囲まれているアンソワを見る。
アンソワの隣には婚約者のルイーゼが常に寄り添っていた。
物腰の柔らかなアンソワは、人を惹き付ける話術に長けていた。
優しそうな見た目は、一見、こちらが強く出れば言うことを聞いてしまいそうにも見える。
けれど、それこそアンソワの狙いなのだとレイフォードは知っている。
よく人を見ている彼は、その人当りの良さで情報を得ることも、そして人を使うことも上手だった。
自分にはない能力をもっているアンソワが、レイフォードには眩しく見えて仕方ない。
(アクロイス公爵令嬢、か……)
王妃主催の夜会ということで気合が入っているのだろう。
ルイーゼは公爵令嬢としての華やかさと、王太子殿下の婚約者としての上品さを兼ね備えた、美しい装いをしている。
アンソワとルイーゼが寄り添う姿は、誰が見ても仲睦まじい様子が伝わってくるようだった。
ダンケルもレイフォードの視線の先にいる二人に目を向ける。
「……ああ。彼女は、まあ……別なんだろうな」
そう言って精悍な顔に苦笑を浮かべる。
アンソワとルイーゼの様子を見ていたレイフォードは、ふと思い出したようにダンケルに尋ねた。
「そういえば、アンソワはまだ図書室に通っているんだろう?」
「そうなんだよなぁ……アンソワの意図は分からないが、週に一度必ず行っているよ」
レイフォードの問いかけに答えたダンケルは、ニヤリと笑って友人の顔を覗き込んだ。
「そう言うレイはどうなんだ? 彼女と交流を深めているそうじゃないか」
「ああ、まあ……」
つい先ほどまで思い返していたエリザベスとのやり取りが頭をよぎり、レイフォードはしかめ面になる。
「貞操を確かめてやるーなんて意気込んでたけど、なかなか上手くいっていないようだな」
「ほっとけ」
苦い顔をするレイフォードを見て、ダンケルは声に出して笑った。
「お前にそんな顔をさせるとは! 随分と手強い相手なんだな!」
「……」
レイフォードは何も言わない。
ひとしきり笑った後、ダンケルは少し声を落とした。
「ああでも、アンソワが心配していたぞ。レイが本気になってしまうんじゃないかって」
「僕が? 何に?」
「何って、そりゃあ彼女にだろ」
思いがけないダンケルの言葉に、目を丸くしてぽかんと口を開いたレイフォードは、叫び出しそうになるのを必死で抑えながらダンケルを睨んだ。
「そんなわけないだろ……!」
「そうかあ?」
「僕を馬鹿にしているのか!?」
毛を逆立てる猫のように威嚇するレイフォードを宥めながら、ダンケルは内心、どうしたものかと考えていた。
ダンケルの主であるアンソワも、同士であるレイフォードも、随分と彼女にご執心のようだ。
――そして、あの人も……
何もないといいけどな……
柔和な笑みを浮かべて人々の相手をするアンソワを見つめながら、厳めしい見た目の割に温厚な性格のダンケルは、ただただ平穏無事を祈っていた。
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