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12.イケメンも地位も望んでません!
しおりを挟む――月に一度の約束の日……
エリザベスは、ハートレイ男爵家に引き取られるまでずっと住んでいた町に戻ってきていた。
フードを被り、急いで目的の場所に向かう。
古びた建物の二階。
歩くたびにギシギシとなる階段を上り、一番奥の扉の前に立つとエリザベスはドアをノックした。
「ルナー! いるー?」
声をかけると、扉の向こうでバタバタと走る音がする。
エリザベスが一歩後ろに下がると、勢いよく扉が開かれた。
「お姉ちゃん! おかえりなさいっ!」
「……ただいま、ルナ」
そう言って、エリザベスは可愛い妹をぎゅっと抱き締めた。
ルナに手を引かれて部屋の中に入る。
「ルナ! 危ないから扉を開ける前にチェーンをかけなさいっていつも言っているでしょう?」
「いつもはちゃんとやってるんだよ? お姉ちゃんの声だって分かってるからやらないだけだもん」
「だからって、何があるか分からないんだからチェーンをかけなきゃダメ!」
叱られているのにルナはニコニコと嬉しそうに笑う。
一ヵ月ぶりに会う妹に、エリザベスも仕方ないなぁと困ったように笑った。
「ルナね、おかみさんに教えてもらって、料理のレパートリーいっぱい増えたんだよ!」
「そうなの? 偉いわね。女将さんは来てくれているの?」
「うん! 一昨日も、おすそ分けだってお野菜持って来てくれたよ!」
ルナの頭を撫でながら、後でお礼を言わなければとエリザベスは思う。
ハートレイ男爵の血を引いているエリザベスが男爵家に連れて行かれて、この家には十二歳のルナと義父しかいない。
エリザベスがルナくらいの年に母が亡くなり、それからずっと義父が男手ひとつでエリザベスとルナを育ててくれた。
けれど、三年程前に冒険者であった義父が病気で倒れてからは、エリザベスが年齢を偽って働いて、なんとか生計を立てていた。
「お義父さんはどう?」
「ん……あんまり元気じゃない。でもお父さん、ルナの作ったご飯食べてくれてるよ」
「そう……」
ルナと話しながら、奥の部屋に進む。
薄い扉を開けると、簡素なベッドに横になる義父の姿があった。
「エリザベスか……」
体を起こそうとする義父を支えてやりながら、エリザベスは義父の顔を見る。
かつて冒険者として活躍していた義父の顔色は悪い。
「お義父さん、具合はどう?」
「ああ。お前が手配してくれた薬がだいぶ効いているようだ」
「それなら良かった!」
ニコッと笑うエリザベスに、義父は心苦しそうな顔をする。
「……すまないな。俺がこんなばっかりに……」
「大丈夫! 私、こう見えて結構やり手なのよ? この前も貴族学校でね……」
そう言ってエリザベスは、義父とルナに貴族学校でのことを面白おかしく話した。
多少の嘘と、事実を少し隠しながら。
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