10 / 30
9.イケメンも地位も望んでません!
しおりを挟むレイフォードに何のマナーから学びたいか問われ、エリザベスは「お茶会からお願いします!」と即答した。
リリーシアにお茶会に誘ってもらった時、本当はものすごく行きたかった。
次に誘っていただける機会があれば、その時には参加できる自分でありたい。
エリザベスの要望にレイフォードは「分かった」と頷き、次に来る日を告げて去って行った。
指定された当日、てっきり図書室に教師が来るのかと思っていたエリザベスは、レイフォードがワゴンを押して一人でやってきたのを見て驚いた。
今日はいつもの場所ではなく、一階の奥にスペースを設けてお茶会に見立てている。
レイフォードが図書室のテーブルにアイロンがかけられた真っ白なクロスを敷き、ティーカップとソーサー、シュガーポットにミルクジャグ、スコーンやサンドイッチなどを美しく並べていく。
出てくるもの全てに高級感があり、平民育ちのエリザベスが見ても一流のものと分かる。
芸術品のような品々はここが学校であることを忘れさせた。
エリザベスをエスコートして席に座らせたレイフォードは、慣れた手付きで紅茶をカップに注ぎ入れる。
レイフォードの優雅な動作に、エリザベスは思わず目を奪われた。
黙っていれば、確かに女性たちが騒ぐのも頷ける容姿をしている。
スラッと伸びた背丈に、柔らかな銀色の髪と紫がかった濃いブルーの瞳。
男なのにどこか色気がある整った顔立ち。
レイフォードがにこりと微笑めば、誰だってコロッと落ちてしまうだろう。
――ただ、エリザベスは彼のそんな顔を一度たりとも見たことがないが。
「……なんだよ」
現に、エリザベスの視線に気付いたレイフォードは眉を寄せて不機嫌そうな顔をした。
「……レイフォード様はお茶会についてご存知なのですか?」
女性だけの楽しみだと思っていたけれど、違うのだろうか。
エリザベスの問いかけに、レイフォードは少しばつの悪そうな顔をすると、ぶっきらぼうに答えた。
「……妹がいるんだ。妹に強請られてよくごっこ遊びをしているから分かる。もちろん教育係から学んだ作法だから安心していい」
「そうなのですね」
レイフォードの妹――ユナイドル侯爵家の子女に、ごっこ遊びをする年齢の子がいただろうか。
以前見た姿絵を思い出そうとしていたエリザベスに、レイフォードはわざとらしくニコリと笑って言った。
「準備が整ったよ。まずはお手並み拝見といこうか」
間違った作法をした途端、ここぞとばかりに嫌味を言われそうな雰囲気に、エリザベスは口元をひくつかせた。
レイフォードがカップに口をつけたことを確認したエリザベスは、ソーサーはそのままにティーカップのみ持ち上げて紅茶をいただく。
本で得た知識で、『カップのハンドルは右手でつまむように』持てばいいと分かっていても、実際に持ってみると高価な品を持つ緊張感やカップの重さに戸惑った。
サンドイッチを食べた後、スコーンを上下に割ってジャムとクリームをつけて口に入れる。
こんな状態で味なんか分からないと思っていたけれど、レイフォードが用意した紅茶もティーフードもどれも美味しかった。
「――まあ、及第点だね」
「えっ、本当ですか!?」
「ぎこちなさはあるけれど、キミが慣れていないことはお茶会に誘う時点で主賓側も分かっているだろうからね。それを加味すれば十分及第点だ」
「……なんだか褒められた気がしませんが、それでもありがとうございます」
エリザベスが頭を下げると、レイフォードがふと何かを企むように表情を変えた。
レイフォードから急に色気のようなものを感じて、エリザベスは思わず身構える。
そんなエリザベスの強張りをほぐすように、レイフォードが右手をのばし、エリザベスの頬に優しく触れた――
口の端にレイフォードの親指がそっと触れ、そして離れていく。
先ほどまでエリザベスに触れていた指をぺろっと舐めたレイフォードは、思わせぶりに笑った。
「甘いな」
今まで幾度となく女性と接してきたレイフォードは、こんな時女性たちがどんな反応をするのかよく知っている。
大抵は顔を赤くして俯くか、期待に満ちた眼差しでレイフォードを熱く見つめてくるか……
「……ところで、お茶会の服装なんですけど……」
「……お前、ホントムカつく奴だな」
レイフォードを前にして、何もなかったように話を変える女など今までいなかった。
1
お気に入りに追加
1,174
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜
くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。
いや、ちょっと待て。ここはどこ?
私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。
マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。
私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ!
だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの!
前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる