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9.イケメンも地位も望んでません!
しおりを挟むレイフォードに何のマナーから学びたいか問われ、エリザベスは「お茶会からお願いします!」と即答した。
リリーシアにお茶会に誘ってもらった時、本当はものすごく行きたかった。
次に誘っていただける機会があれば、その時には参加できる自分でありたい。
エリザベスの要望にレイフォードは「分かった」と頷き、次に来る日を告げて去って行った。
指定された当日、てっきり図書室に教師が来るのかと思っていたエリザベスは、レイフォードがワゴンを押して一人でやってきたのを見て驚いた。
今日はいつもの場所ではなく、一階の奥にスペースを設けてお茶会に見立てている。
レイフォードが図書室のテーブルにアイロンがかけられた真っ白なクロスを敷き、ティーカップとソーサー、シュガーポットにミルクジャグ、スコーンやサンドイッチなどを美しく並べていく。
出てくるもの全てに高級感があり、平民育ちのエリザベスが見ても一流のものと分かる。
芸術品のような品々はここが学校であることを忘れさせた。
エリザベスをエスコートして席に座らせたレイフォードは、慣れた手付きで紅茶をカップに注ぎ入れる。
レイフォードの優雅な動作に、エリザベスは思わず目を奪われた。
黙っていれば、確かに女性たちが騒ぐのも頷ける容姿をしている。
スラッと伸びた背丈に、柔らかな銀色の髪と紫がかった濃いブルーの瞳。
男なのにどこか色気がある整った顔立ち。
レイフォードがにこりと微笑めば、誰だってコロッと落ちてしまうだろう。
――ただ、エリザベスは彼のそんな顔を一度たりとも見たことがないが。
「……なんだよ」
現に、エリザベスの視線に気付いたレイフォードは眉を寄せて不機嫌そうな顔をした。
「……レイフォード様はお茶会についてご存知なのですか?」
女性だけの楽しみだと思っていたけれど、違うのだろうか。
エリザベスの問いかけに、レイフォードは少しばつの悪そうな顔をすると、ぶっきらぼうに答えた。
「……妹がいるんだ。妹に強請られてよくごっこ遊びをしているから分かる。もちろん教育係から学んだ作法だから安心していい」
「そうなのですね」
レイフォードの妹――ユナイドル侯爵家の子女に、ごっこ遊びをする年齢の子がいただろうか。
以前見た姿絵を思い出そうとしていたエリザベスに、レイフォードはわざとらしくニコリと笑って言った。
「準備が整ったよ。まずはお手並み拝見といこうか」
間違った作法をした途端、ここぞとばかりに嫌味を言われそうな雰囲気に、エリザベスは口元をひくつかせた。
レイフォードがカップに口をつけたことを確認したエリザベスは、ソーサーはそのままにティーカップのみ持ち上げて紅茶をいただく。
本で得た知識で、『カップのハンドルは右手でつまむように』持てばいいと分かっていても、実際に持ってみると高価な品を持つ緊張感やカップの重さに戸惑った。
サンドイッチを食べた後、スコーンを上下に割ってジャムとクリームをつけて口に入れる。
こんな状態で味なんか分からないと思っていたけれど、レイフォードが用意した紅茶もティーフードもどれも美味しかった。
「――まあ、及第点だね」
「えっ、本当ですか!?」
「ぎこちなさはあるけれど、キミが慣れていないことはお茶会に誘う時点で主賓側も分かっているだろうからね。それを加味すれば十分及第点だ」
「……なんだか褒められた気がしませんが、それでもありがとうございます」
エリザベスが頭を下げると、レイフォードがふと何かを企むように表情を変えた。
レイフォードから急に色気のようなものを感じて、エリザベスは思わず身構える。
そんなエリザベスの強張りをほぐすように、レイフォードが右手をのばし、エリザベスの頬に優しく触れた――
口の端にレイフォードの親指がそっと触れ、そして離れていく。
先ほどまでエリザベスに触れていた指をぺろっと舐めたレイフォードは、思わせぶりに笑った。
「甘いな」
今まで幾度となく女性と接してきたレイフォードは、こんな時女性たちがどんな反応をするのかよく知っている。
大抵は顔を赤くして俯くか、期待に満ちた眼差しでレイフォードを熱く見つめてくるか……
「……ところで、お茶会の服装なんですけど……」
「……お前、ホントムカつく奴だな」
レイフォードを前にして、何もなかったように話を変える女など今までいなかった。
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