こんな破廉恥な悪役令嬢が出てくるゲームって何？！

73．クロードの幼少期（３）

　あの後、目覚めたジェシカは僕とのやり取りを全く覚えていなかった。
　自分の未来について何か言い出す様子もない。どうやら僕がかけた魔法は無事成功したらしい。

　熱が下がったジェシカはいつも通り元気一杯で、両親や使用人たちを安心させていた。



　そんな出来事の数ヵ月後、初めて王宮でのお茶会に参加してきたジェシカは、書庫で勉強している僕を見つけると、断りなく前の席に座った。

「ねぇねぇクロード様！　今日ね、ジェシカ、王妃様のお茶会に行ってきたの！」
「ジェシカ……御令嬢が許可なく勝手に座っちゃいけないよ」

　僕の苦言にぷくっと頬を膨らませたジェシカは、潰されては堪らないと慌てて元の顔に戻った。

「ううう～～……クロード様、こちらよろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます」

　にこやかに微笑んだジェシカは、「それでね！」と気を取り直して続けた。

「お茶会の途中で、エドワード殿下もいらしたの！　なんでも王妃様が呼んだみたいでね、皆さんに挨拶をって。ステキだった～！」

　両手を頬に当ててきゃあきゃあ騒ぐジェシカに対し、僕は『王子妃候補の下見か……』と冷静に考えていた。
　自分も母さんからお茶会に呼ばれ、「いずれ親しくする可能性がある方々だから、皆さんによくご挨拶なさい」と指示されたことがあった。
　ただ自分が国を離れてしまったため、婚約者の選定は白紙になってしまったのだけれど。

　この国の第一王子エドワードは、僕にとって従兄弟にあたる。ジェシカには内緒にしているけれど、この国に来てからエドワードとは何度も会って話をしている。
　エドワードも大変だな、と他人事のように思っていたところ、ジェシカが思いがけないことを口にした。

「皆が言うにはね、私が一番、殿下の婚約者に近い立場なんだって！」

　ニコニコと笑うジェシカを思わず見つめる。

「ジェシカが？」
「うん！」
「そうか……」

　言われてみれば確かに、ジェシカは公爵家の長女で、第一王子と同い年。
　今は他国との問題も勃発していないし、国内で選定しようと思ったら一番近しい立場か……
　クランベル公爵もそのことをよく分かっているのだろう。ジェシカはいつも以上に綺麗なドレスを身に纏っていた。

　僕は目の前に座る、小さな女の子を見る。
　一緒に暮らすようになって一年半になる。今では彼女の素直さがとても愛らしいと思うようになっていた。周囲の期待に応えようと一生懸命で、頑張る姿がなんだか放っておけないところも。
　何に対しても興味を持てなかった自分が、唯一大切だと思う存在。

　――僕の……お姫様……
　
　それをエドワードに取られるのは――

「許せないな……」

　ぼそりと呟いた言葉にジェシカが首を傾げる。
　誤魔化すように僕はニコリと笑うと、ジェシカに向けて体を前に倒した。