こんな破廉恥な悪役令嬢が出てくるゲームって何？！

13．執事と黒歴史（３）

「あっ」

　――カシャッ……

　私に向けて軽やかなシャッター音が鳴った。
　その途端、カメラのレンズからピンク色の煙が飛び出してくる。大きな煙の塊が私の体に直撃した。

「！」
「お嬢様！」

　声を張り上げたクロードがすぐさま風魔法を使って煙を吹き飛ばす。

「……ッ！」

　耳元でぶわっと風が巻き起こる音がする。煙と風の両方を全身に受けて、襲い来る衝撃から逃れるように腕で顔を隠した。
　風がおさまり、うっすらと目を開けた私は、僅かに違和感を覚えた。

「――？」

　視界が肌色だ。制服を着ていたはずなのに、顔を隠すために上げた腕は、何も纏っておらず肌を露出している。

「ん？」

　下を向くと、黒い布地に覆われた豊かな胸が見えた。
　谷間を強調するように寄せられた胸元には、あった方が厭らしいというただそれだけの理由でつけられた紐と煌めくビジューが存在感を示している。白い柔らかな胸に黒い紐が食い込む様は、皆の予想通り淫らだった。

（――って、そうじゃない！）

　思わず現実逃避をしてしまったけれど、間違いない。これは……これは……

「なんであのときの勝負下着がここにあるの⁉」

　あの下着は確かに捨てたはずなのに！

「も、もしかしてこのカメラのせい⁉」

　そういえば、エドワード殿下からの便箋は全部で二枚あった。まだ読んでいない手紙のことを思い出して、クロードに背を向けてテーブルに駆け寄ると、折り畳まれていたそれを急いで開く。
　テーブルに手をつき前屈みになりながら、急いで二枚目の手紙に目を通す。
　一枚目に書かれた内容に続くように、こう書かれていた。

（一枚目）このカメラには被写体を美しく彩る機能が付いているんだ。キミの執事に写真を撮ってもらうといい。

（二枚目）このカメラは『願い見せールちゃん』という魔具で、私たちのクラスメイトであるアメリ・バーナード男爵令嬢が作ったものだよ。彼女の話では、シャッターを押すと被写体の格好が『撮影者が被写体に着せたい服装』に変わるそうなんだ。つまり、撮影者の願望が目に見える形で現れるということだね。キミがどんな格好に変わるのか、話を聞くのを楽しみにしているよ。

「『撮影者が被写体に着せたい服装』……つまり、これは、私が私に着せたい服ということ……？」

　クロードからカメラを取ろうとしたとき、レンズが私に向いている状態で、私がシャッターボタンを押してしまった。
　しかもタイミング悪く、先程まで勝負下着のことを思い出していた。だから今、あのときの勝負下着を着ているということだろうか。

　下を向くと、制服はなくなっており下着だけ身につけた状態だった。
　テーブルに手をついて前屈みになっているため、全身は見えにくいけれど、白い肌に真っ黒な下着がよく映えている。

（またアメリの魔具のせいでこんなことに……）

　確かに一度くらい着ておけばよかったと思ったのは私だけれど、こんなことは望んでいない。
　こんな破廉恥な格好を、こんな場所、で……

「……」

　勝負下着の衝撃ですっかり忘れていたけれど、今部屋にいるのは私一人ではない。
　壊れた機械のようにゆっくり振り向くと、当然のことながらそこには我が執事がいた。

　――ショーツはＴバック一択……

　仕立て屋のマダムが熱弁していた言葉を思い出す。
　マダムの意向を反映させたこの勝負下着は、ショーツがＴバックになっている。だから、後ろから見ると、つまり……その……

「だから言ったでしょう。お嬢様は危機意識が低いと」

　あきれたようにのたまうクロードを前に、私は心からの悲鳴を上げた。