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7 -Sept-

先生に向けられる怒り

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「僕だけが好きだった。先生に好かれたくてとにかく必死で……」
「そんなこと」
「なくないでしょ? 先生、僕が好きって言わなきゃ言ってくれなかった。それだって、『僕もだよ』って。あぁそうだ。だからあの時、裏切られた絶望の他に諦めみたいなものを感じたんだ……今わかった」
「松下くん……」
「勝手に期待して裏切られて絶望して、僕も大概、自分勝手だったんですよね……」

 俯く僕を気にしてくれて、リュカさんの手がそっと背中に触れる。

「先生、一年間も振り回してごめんなさい。そのせいで、先生の立場を危うくさせてしまって……」
「そんな! 違う、僕の方こそ。君を護らなきゃいけなかったのに……本当に、どうかしてた」
「……怖かったんですよね、先生。バレたら人権も教師生命も断たれちゃう。日本は同性愛者に対してまだまだ寛容じゃないから。だから、あの時は仕方なかった」
「優理。酷い行いに対して『仕方なかった』で済ませたらダメだよ。優理の恋心は決して悪いものじゃないんだから、謝る必要なんてないんだ。それより純粋な想いに対しては誠実でいなきゃいけないのに、最後まで不誠実だった彼が全て悪い。全て」

 リュカさんは、怒りを露わにしていた。前のめりになって先生を睨みつけ、低い声で淡々と話す。

「いいですか。あなたはこの子の純愛を踏みにじっただけじゃなく、心と体に傷を負わせ、人生にも陰を背負わせるところだったんですよ。こんないい子を簡単に突き放しておいて、それでよく教師なんて続けてこられましたね」
「……続け、られなかったので、辞めました。教職を」
「は?」
「えっ……」
「ますますタチが悪い!」

 リュカさんがテーブルの上で拳を握って震わせている。隣で黙って聞いていたテオに目を向けると、すごくイライラした顔をしていて、膝を小刻みに揺すりながらリュカさんと同じように膝の上で拳を強く握っていた。

「言葉わかんないけどコイツがしょうもないこと言ってんのはわかる。あーもどかしいな、くそっ」

 僕がテオの腕を撫でて宥めようとしてみても、イライラは収まらないみたい。リュカさんだけはと思ってそっと拳を手で包んだら、ハッと冷静になった彼が「ごめん」とその拳を開いて膝の上に置いた。

「辞め、ちゃったの……なんで……」
「君を裏切ってしまったことをすぐに後悔して、何度ラインを送っても読んでもらえなくて、ついにはブロックされてしまって夏休みが明けて学校へ行ったら、退学したと聞かされて……それでも噂は絶えないし、好きだった君をあんなふうに傷付けてしまったことを僕は、ずっと引きずってた。後悔したって遅い。けど、とても教員を続けることは出来なかったんだ……」
「優理を退学にまで追い込んでおいて、結局あなた自身も辞めるって、どれだけ無責任で身勝手なんだ」

 リュカさんは眉間にシワを寄せ、吐息交じりに呆れた声で呟く。その様子を見ていたテオが「どうした?」と聞いてくるので簡単に説明をしてあげたら、怒りを露わにした様子で席を立って、勢いのままに先生の胸ぐらを掴んだ。

「て、テオ!」
「おいアンタふざけんなよ。どんだけユウリを傷付けて重荷背負わせたら気が済むんだよ。自分が病んだのがユウリのせいみたいに言いやがって、いい加減にしろよ!」

 フランス語で捲し立てられ、訳が分からず動揺している先生。涙目になって眉を垂らし、困惑して僕とリュカさんに視線を送ってくる。

「テオ、やめて!」
「落ち着け、テオ」

 僕がテオの服を掴んで座らせようとしてるのに、リュカさんは低い声で言うだけで止めようとはしない。

「彼は、あなたの不誠実さに怒っています。好きな人が傷付けられて、見ているだけじゃいられないのは当然ですよね。ここまで、あなたは優理に対して本気でしたか?」

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