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7 -Sept-

テオがそばにいてくれる

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「俺たちのことは、気にしなくていい。ユウリがいいならそばにいるし、何かあればすぐ助けに入るから。つっても、仲介役はリュカだけどな。俺は日本語がわからないし話もできないから、なんの役にも立てないけど」
「そんなことないよ。テオがそばにいてくれるだけで、僕は安心できるから」

 顔を上げてテオを見る。微笑みながらそっと手を握ったら、テオはその手を握り返して甲のあたりにキスをくれた。

「好きだよ、ユウリ。もしつらくなったら、その時は俺の手を握って。わかった?」
「わかった」

 僕の返事を聞いて、テオはすぐにスマホで場所を確保してくれと伝えた。それから繋いだ手を離さずに、二人で歩いてもと来た道を戻る。するとわりとすぐにリュカさんから着信があり、テオは電話を切らずに僕の手を引いて歩いてくれた。

「あ、いた」

 辿り着いた飲食スペースの一角に、リュカさんと先生が座っているのが見えた。先生の目が僕に向けられているとわかった瞬間、体が震えてしまう。僕がギュッとテオの手を握ると、テオは僕の正面に入って視界を遮り目線を合わせ、空いている方の手で優しく頬を撫でてくれた。

「好きだよユウリ。そばにいることを忘れないで」
「ん……」

 彼の顔を見ただけで、心に刺さっている棘が、抜けていく。
 僕は意を決し、ゆっくりテオの手を離して先生のもとへ歩き出した。リュカさんの視線が僕の後ろに向いて、頷いている。きっとテオと無言で何かを示し合わせたんだろう。僕が先生の前に座ると、左側にリュカさん、右側にテオが座った。リュカさんは前のめりになってテーブルに腕を乗せ、テオはイスの背にもたれ掛かってドカッと脚を開いて座り、腕を組んでいる。

「あの、さっきは、ごめん」
「いえあの、僕も、取り乱しちゃって……」

 会話が、続かない。二人で俯いて、目が合わせられない。
 するとリュカさんが助け舟を出すように、先生に声を掛けてくれた。

「何故、パリに?」
「あ……旅行サイトでツアーに申し込んで……」
「そうじゃなくて。何故、旅行先にここを選んだんです? もしかして、優理を思い出してとか、言わないですよね」
「……その通りです。松下くんを忘れられなくて、それでフランスに来てみたくなって、選びました」
「あなたねえ! 自分がこの子に何をしたかわかってるのか!」
「わかってます! わかってます……だからずっと、申し訳なくて……」
「申し訳ないで済むと思ってんのかよ……そのせいで、優理がどれだけツラい思いをしてきたと思ってるんだ!」
「ごめんなさい!!」

 先生は、テーブルにおでこをぶつけるほど深く頭を下げた。

「謝っても、謝りきれない。君に、大きな心の傷を負わせてしまった。僕が自分の保身に走ったせいで――……君を、本気で好きだったのに……」
「――……うそ」

 先生の言葉を聞いて、僕は震える手でテオの太腿に手を添えた。少し指先に力が入ると、テオはその手を取って、しっかり握ってくれる。

「うそだよ先生。だって僕が告白して付き合ってくれたけど、消えるまでの一年、ずっと受け身だったじゃん。デートに誘うのも僕、場所を決めるのも僕、先生からキスしてくれたことはなかったし、えっちだって……僕がシたいって言わなきゃ、触ってくれなかった。それなのに今更本気で好きだったとか言われても、信じられるわけないでしょ」
「……っ、それは」
「自分の立場的に、とか言う? でも僕、知っちゃったんだ、こっちに来て。本気で愛されるってことがどういうものなのか」

 テオに出会わなければ、僕は本気の好きを知らないままだった。

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