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4 -Quatre-
嫉妬するテオの子供っぽい一面
しおりを挟むお昼の忙しい時間を外してリュカさんのカフェへ行くと、そこにはテオさんの姿があった。
カウンターの席に座ってリュカさんと話しをしているあの後ろ姿は、たぶんテオさん。それを入口のドアにはめ込まれたガラス越しから見つけてしまって、思わず入るのを躊躇った。すると、気付いたリュカさんがドアを開けに来て、僕を迎えてくれた。
「Bonjour! Bienvenue」
「あっ……ぼ、Bonjour……」
「今ちょうどテオの隣が空いてるよ」
店内を見渡せばテーブル席は埋まっていて、カウンターに突っ伏しているテオさんの隣だけが何とも都合よく空いている。
僕は案内されるまま仕方なくテオさんの隣に座る。顔を伏せている彼は、まだ僕の存在に気が付いていないみたい。
「今ね、日本のパンの種類の多さを知ってうなだれてるとこ」
「あ……朝僕が、惣菜パンが好きって言ったから……?」
「そうなんだ。あぁ、それで。随分必死だったからどういうことかと思ったら」
リュカさんは疑問が解決してクスクスと笑っている。
「……ユウリ?」
すると、テオさんが僕の声に気付いてハッと顔を上げた。そして僕を見つけるなり「mon petit chou~」と言って抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと」
やばい。『俺の愛しい人~』だなんて。そんなふうに言われるのは初めてだ。
前にお父さんがお母さんに言っているのを見たことがあるけど、お母さんも、いつもこんな気持ちだったのかな?
こんな、気恥ずかしいような、むず痒いような感じ。
「あれ、二人もうそんな仲?」
「ちっ違います! Reste loin!」
離れて! とフランス語で言ったのに、彼は抱きついたまま離れてくれない。
「ふふ、すっかり懐かれてるね」
「もう……ほんとこの人何なんですか」
「よっぽど優理に惹かれてるってことだよ。テオがこんなふうになってるの、俺も初めてみたもん」
「ねえ俺の前で、日本語で話すのやめてよ。わからないのやだ。リュカばっかりずるい。悔しい」
「じゃあテオも喋れるようになったらいいんだよ」
「……なる。ユウリと日本語で話したい。リュカ教えて」
「ユウリに教えてもらえば?」
「それは、カッコ悪いからやだ」
「なんだそれ」
両手を押し上げるような仕草で肩を竦ませ、呆れたというアクションをするリュカさん。
今朝口説いてきた時はあんなにも大人っぽくセクシーだったのに、普段は結構子供っぽいとこもあるんだなと、新たに知る一面に僕も思わずクスリと笑ってしまった。
「ねえ、テオさんって何歳?」
「二十五だよ」
自分で聞いたくせに、その年齢を聞いて思わず顔が強張った。だって、年齢まであの人と一緒だったから。
「でも日本のパン、俺も好きだな。惣菜パンなんて初めて食べた時は衝撃だったけど、食べてるうちにハマったもん。あと菓子パン! 浅草のメロンパン食べた時は感動したな」
「メロンパン、美味しいですよね! 僕も好き」
お会計お願いしますと声を掛けられたリュカさんが、カウンターから出て行く。
「ごめん、ウエイターの子いま休憩中なんだ。行ってくるね」
僕はメニューを見ながら、何にしようかと決められないでいる。そんな僕を横からジッと見つめてくる視線。
「……なんですか」
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