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2 -Deux-

サイアクな男、テオ

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「リュカさんは、日本語うまいですね」
「ありがとう。元カレが日本人でね、彼と普通に会話がしたくて頑張ったんだ」

 嬉しそうに笑ったそのあと、視線を自分の写真に向けて目を伏せる。その憂いを帯びた表情が、どうにも意味ありげだった。

「あー……さっき、ビックリしたよね? その、家の前で」
「はい。ものすごく」
「う、なんかごめん」
「別にもう、いいです。こうやって日本語で話せて嬉しいので。それに僕も、嫌な態度取っちゃったから……」

 今朝の態度、冷静になれば僕だってよくなかった。人のプライベートな場面をじっと見て、睨みつけて立ち去るなんて。

「はぁ~いい子だねぇ~」

 反省して目を伏せたら、感心したような声を出したリュカさんに、髪をわしゃわしゃっと撫でられた。
 それから暫く日本の話で盛り上がっていると、男の人がドアを開けてウエイターさんに挨拶しながら、ドカドカと足音を鳴らして入ってきた。

「リュカ、バゲット持って来たぜ」

 彼はそう言って僕の隣に立ち、リュカさんにバゲットが数本入った紙袋を見せる。

「ありがとう、テオ」

 そして僕の存在に気付いた彼は、座っている僕と目が合った瞬間、その目を輝かせて声を上げた。

「ああ!」
「うわぁ……」
「えっなに、なんでここにいるのきみ!」
「なになになに、ちっか!」

 彼はバゲットが入った袋をカウンターの向こうにいるリュカさんに渡し、やけに早口で捲し立てるように言いながら、僕の隣にドカッと座る。てか顔めっちゃ近いんですけど、なにこの人!

「テオ、いきなりその距離はビックリするって。もぉ、ごめんね?」

 ゴメンネと日本語で僕に謝るのを見て、このテオって人の瞳はますます輝いた。

「きみ、日本人? 名前は?」
「え、あ……」
「あっ。君の名前を、教えてください」

 早口で捲し立てられて戸惑ったのを、さすがに上手く聞き取れなかったと思ったのか、姿勢を正し、今度はゆっくり丁寧なフランス語で聞いてくる。

「じゅ、ジュスィ、ユウリ」
「ユウリ! いい名前だね」
「リュカさん、なにこの人」
「あー彼は」
「俺の名前は、テオです。ここの近くのパン屋で働いてます」
「ブーランジュリー……あ、パン屋さん」
「Oui!」

 僕が理解したと見て、彼は嬉しそうに僕の手を取りタッチした。


 
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