上 下
16 / 48
@藤堂side

15.合コンへ@藤堂side

しおりを挟む
 定時を迎え、西島恵が席を立った。「お疲れさまでした」と、荷物をもってエレベーターとは逆の方向へ消える。
 総務部か。さくらを合コンに連れていくのか。

 なんとか目の前のパソコンでの作業を続ける。
 今日は全然進まない。気づくとさくらのことを考えている。

 ああだめだ。入社して10年。
 最初に先輩と一緒に幸和製菓の案件にかかわって、打ちのめされて以来、仕事だけはきっちりしっかりやってきた。
 だからこそ同期のうちで一番早く、先輩たちを追い越して課長職に着いた。
 さくらのことを早く解決しなければ。

 解決…どうすれば解決になる?
 さくらが俺を避ける理由を聞ければ解決?もう一度抱ければ?俺を「憧れ」って言ったよなって俺への気持ちを確認できれば?

 とりあえず、今日の合コンには黙って行かせるしかないのか?

 通路の方が少し騒がしい。定時を過ぎ、社を出ていく社員たちの中に、西島と…さくら。
 いや待て、あれはだめだろ。

 朝、休憩室で会ったときはストレートだった黒髪がふわふわに巻かれている。
 さくらもその髪を気にして触っている。
 これまでのお堅いイメージが払しょくされ、いわゆる「愛され女子」化している。
 いつものさくらを合コンに置いておいても、なかなか手を出しにくいかもしれないが、あれはだめだ。

 西島も、いつも同様に髪をふわふわにして、かわいい服を着ているが、あれは男慣れしていかにも感がある。
 しかし、さくらは清純で男慣れしていない、不器用な感じはそのままで、柔らかい雰囲気になっていて、この子が合コンにいたら、確実に本気で近づこうとする男がいる。

「恵ちゃんすごいね。美容師さんみたい。」
「毎朝やってますから~。」
 お前の仕業か、西島。

 ふたりがエレベーターホールの方へ向かっていく。
 俺はなすすべなく見送る。

 仕事は進まないが帰る気に慣れず、進まない仕事をしているふりをする。
 幸和製菓の仕事、部を挙げての大きな顧客のプロジェクト、部下たちの担当案件のフォロー。やることはたくさんある。たくさんの人が俺を頼りにしてくれている。
 でも、俺の頭の中はさくらひとりでいっぱいだった。

 一週間前の夜、さくらと二人でいたのに、一緒に朝まで…いや、朝起きたときには消えていたが…、なぜ今日はさくらが合コンに行くことになっているんだ…。
 そして俺はそれをこんな風に見送らなければいけないんだ・・・。

 俺はがっくりと頭を下げた。

 通路から「お疲れ様で~す」という聞き覚えのある声。
 小林賢祐だ。
 さくらのスケジュールを確認する癖ができ、同じ総務部の奴の名前の漢字が「小林賢祐」なのを知った。

「小林君」
 俺は気づくと席を立って、声を掛けていた。
「飲みに、行かない?」
「え?藤堂課長が、俺とですか…?」

 俺は少しでもさくらの通じるものに、すがりたかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

処理中です...