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序章

星の輝く夜に、僕は君と出会ったんだ

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 何万年前の輝きを、今という時間に届けている星を見るのが僕は好きだった。
 夜の闇に煌々こうこうと輝く星を、僕は小学生ながらに、なんて素敵なものなんだろうと思ったのを今でも覚えている。
 特段星に詳しいわけでもなかった。天体望遠鏡を持っているわけでもなかった。星に興味があった訳でも無かった。ただただ僕は星のその輝きに魅せられただけだったのだ。
 僕が星と出会ったのは、ある日の嫌なことがあった夜だった。
 どれだけ頑張っても、必死に努力をしても、僕が望んだ結果が出なかった。
 最初の頃は、まぁ都合よく行かないよな—そう思っていたが、それが何度も続いて行くうちに、僕の心は捻くれてしまった。
 こんなに頑張ってもダメなんだ。だったら、僕は何の為に頑張っているんだろう—そう思ってしまった。
 世の中僕以上に努力している人は沢山いる。だけど、僕は少し結果が出なかったからって、頑張ることを辞めてしまった。努力する事を、望む結果を手に入れる事を諦めた。
 その日の夜に、僕は何となく外に出た。子供の気まぐれだった。
 外に出て、近くにある公園へと歩を進めた。
 僕は公園に着くと、特に何かをしに来たわけでも無いので、手持ち無沙汰になる。
 取り敢えず、ブランコに乗って少しの間ボンヤリとしていた。
 何で頑張っても結果が出ないんだろう。僕には才能がないのかな。何て考えていたが、それを考えることすら嫌になって、僕は何となく空を見上げる。
 季節は冬で晴れていたのもあって、その日の夜空がとても澄んで見えた。僕は呆然と空を見上げていた。夜の闇に輝ける星を。
 後で知ることになるのだが、今僕らが見ている星というのは、何年も前の星らしい。中には何万年も前の物もあるという。正確には、星の光なのだが。
 何故過去の光を今という時間を生きる僕らが見えているのか、とても不思議に思った。
 光を受け取ることができる理由をその時の僕は当然知らなかったが、眼前に広がり闇夜を照らし出す幾千いくせんもの光に圧倒されていた。周りを取り囲む先の見えない暗闇でも、突き進み続ける光に僕は勇気を貰った。今はまだ先が見えなくとも、輝き続ければ、いつかは誰かに僕の光が届くのかなぁと。
 その光景を見ていたら、自分が悩んでいることが段々とばかばかしく、とてもちっぽけに思えて来た。そのぐらいその夜の星は僕には衝撃的な物だった。
 その夜を境に、僕は星を見に行く為、夜に公園へと通った。星を見ているとなんだか心が落ち着く気がしたから。
 それから僕はもう一度頑張ることにした。
 思うような結果が出なくても、進み続けた。こんな僕でも輝ける時が来る事を信じて。
 そうだ。僕の運命を歯車が回り出したあの日のことを話しておこう。
 その日、僕はいつもの様に星を見るために、公園へ向かった。
 いつもの様にブランコに乗り、夜空を眺める。……のだが、どうも視線を感じてならない。
 軽く周りを見渡して見ると、後方にそびえ立つ、この公園唯一の木の陰に隠れるように僕の様子を見ている人がいた。

 (え?何々?怖いんだけど)

 向こうは僕が気づいている事を知らないのか、僕の方を見続けていた。
 出てこようとしてはやっぱり引っ込む。その繰り返し。
 声をかけるべきなのか迷った。何かワタワタしてるし、僕に用があるっぽいし声をかけるべきだと思う。……だけど、

 (勘違いだったら恥ずかしいよな……)

 うーんと唸りながら迷う。迷ったけど、結局僕は声をかけることにした。だって何か可哀想になったんだもん。

 「えっと……何か用ですか?」

 声をかけた途端、その人はビックリしたように肩を震わせた。

 (やっぱり急に声をかけたのはまずかったかな)

 僕の心配は杞憂となった。

 「あの……気付いてたんですか?」

 むしろ気付かれてないと思ったんですか?それと、女性だったんですね。暗くて全然分からなかったよ。
 
 「気付いてましたよ。それでどうしたんですか?」

 「いや、えっと……あの……」

 相手はしどろもどろになってしまって、何を伝えたいのか一向に分から無い。
 僕は、急かすのも悪いかなと思ってブランコから降り、相手が話してくれるのを待っていた。
 それからどの位の時間が経っただろうか、相手が木の陰から出てきた。
 今まで木が月の光を遮っていて、姿が見えなかったので分からなかったが、どうやら相手は小さい女の子だった。それも見た目は僕と同じくらいの。
 髪は腰のあたりまで伸びていた。容姿も整っていてとても可愛い子だなぁと。
 しかし、それ以上に僕の目を引き付けたのは、少女の髪の色。
 星の光を写したかのような金髪が、月の光を受けて夜に光る星のようだった。
 出てきたのはいいのだけど、何故か恥ずかしそうにして、まだ話を始められそうには無い。

 「あの……ゆっくりでいいですよ」

 僕が声をかけると、少女は申し訳なさそうな表情になる。そんな表情をされたら、僕の方こそ申し訳なくなってしまった。
 
 「あの……あのね。お願いがあるの?」

 頰を赤らめている少女に僕は不覚にもドキッとしてしまう。
 それを隠すかのように、僕は顔を少しだけ反らす。

 「良いけど。それでお願いって何?」

 本格的に恥ずかしくなったのか、俯いてしまう。だけど、すぐに顔を上げ、
 
 「私も一緒に星を見ても良いかな?」

 「……え……?」




 そんな事なの?




 少女のお願いに僕は違う意味で驚いたのだった。
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