7 / 10
第七話
しおりを挟む
「御坂さんには君のこと、補習だって説明しておいたんだけどね。御坂さんがふと的を見た時に君の姿を見つけたみたいでね。もう、あの時は怖かったよ。何が怖かったっていって、御坂さんが君のいるほうを指さして、あれさぼりじゃないですか、って言った時の表情が。本当に怖くて。なんかもう、目が冷たいんだよね。それで連れ戻さなくていいんですかっていうから僕が行くって言って出てきたんだけどさ、君、部室に入って無事でいられるかな?」
「そんなに怖かったんですか?」
「うん、少なくとも二度と口きいてくれなくなるかもしれない」
「そうですか」
「まあ、とりあえず戻ろう。しかしどう言い訳する?まさか御坂さんの情報を集めてたなんて言えないし。あ、御坂さんのこと、ちゃんと聞けた?」
「はい。でもそれは後で話します。今はどう言い訳したらいいかを考えないと」
「そうだねえ。どうしようかねえ。本当、君もついてないねえ」
部室に入った。中では三人が席に座って待っていた。
「どうして嘘をついたの?」
御坂先輩が訊いた。
僕はここへきてなお、未だにうまい言い訳を思いつかなかった。本当のことを話すよりほかなかった。
「それは、御坂先輩のことを坂口先輩に訊いてみたかったからです」
「だったら昼休みにでも聞けばよかったでしょ?」
「それは駄目です。御坂先輩がそばにいたかもしれませんし」
「どうして、私がそばにいちゃまずいの?私に訊かれるとまずいことでも、私が聞かれてほしくないようなことを聞きたかったの?」
「先輩には知られたくなかったんですけど、僕は」
胸が高鳴ってしょうがなかった。僕は深呼吸をした。
「先輩のことが好きなんです」
近衛先輩と山口先輩の、おお、という声が聞こえた。
御坂先輩は目を見開いている。
「嘘をついてすいませんでした。でもどうしても先輩の好きな食べ物とかそういうの知りたかったし」
「もういい」
御坂先輩は言った。
「もういいから」
御坂先輩は座った。僕も座った。
「まあいいじゃん。別にうちの部活、さぼりとかにそんなに厳しいようなところじゃないし。うちらなんかもちょっとしたことで帰っちゃったりするし。それに嘘ついたって言っても、さぼるためとかならともかくさ、御坂チャンのためなわけじゃん?かわいいもんじゃん」
山口先輩が御坂先輩にそう言っているのが聞こえた。
僕はその日の部活動が何にも手がつかなかった。それよりも今後のことばかりを考えてしまってしょうがなかった。
部活が終わってから、僕は御坂先輩に一緒に帰ろうと誘われた。僕は応じた。
案の定、部員三名が隠れてついてきてしまったけれど、御坂先輩はそれらを見つけて、ついてこないでくださいとくぎを刺した。それからは三人もさすがについてこなくなった。
そして三人が付いてこなくなったところで話が始まった。
「それで、告白の返事なんだけれども」
「はい」
「ごめんなさい。片山君とは付き合えない」
「わかっています」
「ごめんなさい」
「そんなことはいいんです。それよりも、先輩が泣いていた理由がわかりました」
僕は御坂先輩を見た。御坂先輩は無表情だった。
「なんでだと思ったの?」
「先輩のお母さんを思い出していたんですよね。聞きました。お母さんが亡くなったこと。多分、お母さんとアジサイが何か関係があったりするんでしょう?」
「そうかもしれないね」
「ええ、そうだと思います。でも」
僕は続けた。
「お母さんが死んでも、僕や先輩は死にませんよ?」
御坂先輩はこちらを見た。
「だから?」
「先輩、何を隠しているんですか?」
「何も。大体、勘繰りすぎだって言ってるじゃん。あれは冗談だって」
「冗談ではありませんよ。先輩、覚えておいてください。人間は嘘を言うときは笑ったり、瞬きしたりするんですよ」
先輩の顔が少し、笑みの形に歪んだ気がした。
「先輩があれを言った時、嘘の兆候は出てはいませんでしたよ?」
先輩は何も言わなかった。
僕は言葉をつづけた。
「先輩、お父さんに会わせてください」
「駄目」
御坂先輩は言った。その言い方は強く、否定の速度も素早かった。ほぼ僕の言葉にかぶせて言っていた。
「じゃあ、先輩。僕と付き合ってください」
「はあ?」
初めて、御坂先輩がきれたのを見た気がした。
ここだ、と僕は思った。御坂先輩の両親に何かある。
「いや、どうしても先輩のお父さんに会いたくて」
「会ってどうするの?」
「先輩と付き合わせてくださいとお願いしてきます」
御坂先輩は目を見開いて、僕を見つめていた。御坂先輩の呼吸が荒くなっていた。
「何も言わないってことはいいってことですね。じゃあこのまま行ってしまいますね」
「なんでそんなことをするの!やめて!」
「じゃあ、僕と付き合います?」
「わかった。それぐらいなんてことない」
「だから、お父さんには会わないでほしい、っていうんですか?そんなに僕とお父さんに会ってほしくないんですね」
御坂先輩はうつむいた。
「先輩のお父さんなんですね、先輩を困らせているのは」
御坂先輩は何も答えなかった。
「すいませんでした。困らせるようなことを言ってしまって。別に僕と付き合わなくても構わないです。ただ先輩が誰に困らされているのか知りたくてかまをかけただけなので」
「別に、私があの男にどんなことをされていたっていいでしょ?」
「どうでも良くないですよ」
「だから片山君には関係ないことだよね?どうせ何もできないくせに首を突っ込まないでくれる?変に状況をかき回されたらむしろ迷惑なんだってわかるでしょ?」
ここまで強い物言いをされて、僕は次にいう言葉に戸惑った。
「もう私にも、私の家のことにも関わらないで」
御坂先輩はそういって歩き去っていってしまった。
僕はそれをどうしても追いかけることができなかった。
「そんなに怖かったんですか?」
「うん、少なくとも二度と口きいてくれなくなるかもしれない」
「そうですか」
「まあ、とりあえず戻ろう。しかしどう言い訳する?まさか御坂さんの情報を集めてたなんて言えないし。あ、御坂さんのこと、ちゃんと聞けた?」
「はい。でもそれは後で話します。今はどう言い訳したらいいかを考えないと」
「そうだねえ。どうしようかねえ。本当、君もついてないねえ」
部室に入った。中では三人が席に座って待っていた。
「どうして嘘をついたの?」
御坂先輩が訊いた。
僕はここへきてなお、未だにうまい言い訳を思いつかなかった。本当のことを話すよりほかなかった。
「それは、御坂先輩のことを坂口先輩に訊いてみたかったからです」
「だったら昼休みにでも聞けばよかったでしょ?」
「それは駄目です。御坂先輩がそばにいたかもしれませんし」
「どうして、私がそばにいちゃまずいの?私に訊かれるとまずいことでも、私が聞かれてほしくないようなことを聞きたかったの?」
「先輩には知られたくなかったんですけど、僕は」
胸が高鳴ってしょうがなかった。僕は深呼吸をした。
「先輩のことが好きなんです」
近衛先輩と山口先輩の、おお、という声が聞こえた。
御坂先輩は目を見開いている。
「嘘をついてすいませんでした。でもどうしても先輩の好きな食べ物とかそういうの知りたかったし」
「もういい」
御坂先輩は言った。
「もういいから」
御坂先輩は座った。僕も座った。
「まあいいじゃん。別にうちの部活、さぼりとかにそんなに厳しいようなところじゃないし。うちらなんかもちょっとしたことで帰っちゃったりするし。それに嘘ついたって言っても、さぼるためとかならともかくさ、御坂チャンのためなわけじゃん?かわいいもんじゃん」
山口先輩が御坂先輩にそう言っているのが聞こえた。
僕はその日の部活動が何にも手がつかなかった。それよりも今後のことばかりを考えてしまってしょうがなかった。
部活が終わってから、僕は御坂先輩に一緒に帰ろうと誘われた。僕は応じた。
案の定、部員三名が隠れてついてきてしまったけれど、御坂先輩はそれらを見つけて、ついてこないでくださいとくぎを刺した。それからは三人もさすがについてこなくなった。
そして三人が付いてこなくなったところで話が始まった。
「それで、告白の返事なんだけれども」
「はい」
「ごめんなさい。片山君とは付き合えない」
「わかっています」
「ごめんなさい」
「そんなことはいいんです。それよりも、先輩が泣いていた理由がわかりました」
僕は御坂先輩を見た。御坂先輩は無表情だった。
「なんでだと思ったの?」
「先輩のお母さんを思い出していたんですよね。聞きました。お母さんが亡くなったこと。多分、お母さんとアジサイが何か関係があったりするんでしょう?」
「そうかもしれないね」
「ええ、そうだと思います。でも」
僕は続けた。
「お母さんが死んでも、僕や先輩は死にませんよ?」
御坂先輩はこちらを見た。
「だから?」
「先輩、何を隠しているんですか?」
「何も。大体、勘繰りすぎだって言ってるじゃん。あれは冗談だって」
「冗談ではありませんよ。先輩、覚えておいてください。人間は嘘を言うときは笑ったり、瞬きしたりするんですよ」
先輩の顔が少し、笑みの形に歪んだ気がした。
「先輩があれを言った時、嘘の兆候は出てはいませんでしたよ?」
先輩は何も言わなかった。
僕は言葉をつづけた。
「先輩、お父さんに会わせてください」
「駄目」
御坂先輩は言った。その言い方は強く、否定の速度も素早かった。ほぼ僕の言葉にかぶせて言っていた。
「じゃあ、先輩。僕と付き合ってください」
「はあ?」
初めて、御坂先輩がきれたのを見た気がした。
ここだ、と僕は思った。御坂先輩の両親に何かある。
「いや、どうしても先輩のお父さんに会いたくて」
「会ってどうするの?」
「先輩と付き合わせてくださいとお願いしてきます」
御坂先輩は目を見開いて、僕を見つめていた。御坂先輩の呼吸が荒くなっていた。
「何も言わないってことはいいってことですね。じゃあこのまま行ってしまいますね」
「なんでそんなことをするの!やめて!」
「じゃあ、僕と付き合います?」
「わかった。それぐらいなんてことない」
「だから、お父さんには会わないでほしい、っていうんですか?そんなに僕とお父さんに会ってほしくないんですね」
御坂先輩はうつむいた。
「先輩のお父さんなんですね、先輩を困らせているのは」
御坂先輩は何も答えなかった。
「すいませんでした。困らせるようなことを言ってしまって。別に僕と付き合わなくても構わないです。ただ先輩が誰に困らされているのか知りたくてかまをかけただけなので」
「別に、私があの男にどんなことをされていたっていいでしょ?」
「どうでも良くないですよ」
「だから片山君には関係ないことだよね?どうせ何もできないくせに首を突っ込まないでくれる?変に状況をかき回されたらむしろ迷惑なんだってわかるでしょ?」
ここまで強い物言いをされて、僕は次にいう言葉に戸惑った。
「もう私にも、私の家のことにも関わらないで」
御坂先輩はそういって歩き去っていってしまった。
僕はそれをどうしても追いかけることができなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる