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二話
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今どきの子供といえば、ゲームで遊ぶのが当たり前になっている。そのゲームもまた種類が豊富で、ニンテンドースイッチというゲーム機やら、スマホゲームやらいろいろとある。親もまた、ゲーム機さえ与えておけば静かになるからと、子供のせがむままに、買うことがしばしばある。私の住む家でもそうだ。私がみかける限りでも、ゲームソフトが十本以上あることがわかっている。それに加えて、たまに子供たちは美知子や一郎のスマホを借りてゲームをしている。そのことから彼らの楽しんでいるゲームの数は十本よりも上と知れる。
子供たちのゲームへの熱中ぶりがまた恐ろしいくらいのもので、たった一つのゲームを半日、あるいは一日中やっていることもある。はたから見ていると、あまりにも集中しすぎていて気味悪い。
しかしそれも無理からぬ話であろう。ゲームというのは手が離れなくなるような仕掛けがいくつもある。レベルが上がる機能や、アイテムを集めるなどのイベント、魅力的なグラフィック(俊哉などはゲームの中の女の子に恋をしている模様である)など数をあげればきりがない。またゲームを続けていればレベルが上がったり、持っているアイテムの数が増えたりして、自然と何かを達成したりゲームがうまくなったりする。するとゲームの中で自らの能力の高さを見せつける機会もあり、またそうした自分の成果を見て喜びを感じることもある。それがゲームの面白みであり、その面白みこそが彼らをゲームの世界に夢中にさせるのだと思われる。
しかしあまりに集中しすぎるのも考え物である。近年ではスマホゲームによる課金のし過ぎなどの問題も出ている。ゲームのことで喧嘩が起こることもしばしばある。幸い、我が家では課金による騒ぎは起こっていない。しかしゲームのことで喧嘩は起こった。
あれは私が居間で昼寝をしていたころだろうか。そこへどたどたと大きな足音がしたので、私は目を覚ました。
その直後、私の眼前を足がぶんと通り抜けた。あわやぶつかるというところであった。犬の顔に足が当たることにも気を払わないような抜け作は俊哉に決まっている。そう思って顔をあげると、やはりそうであった。見ると俊哉はテレビゲームを始めようとしていた。こういった類の抜け作はこれだから困る。一度自分の面白いものを目の前にすると、まるでほかのものが目に入らなくなるのである。
「ちょっと、どきなさいよ」
と香織の声がした。
「私、ゲームやるんだから」
「は?」
「あんた、宿題やったの?」
「終わってるよ。お前こそ終わってんのかよ?」
「終わってるに決まってるじゃない。あんたじゃないんだから」
「ま、別にいいけど。ゲーム、俺が使うし」
「は?なんで」
「なんでって、早い者勝ちだろ」
「知らないわよ、そんなの。どきなさいよ」
「ふざけんなよ。毎回毎回そうやって俺のこと無理やりどかしてさ。ずるいんだよいつも。暴力ふるって自分のいいようにしてさ」
そう。たいていゲームの取り合いになった時、あるいは俊哉がゲームをやっているところへ香織がやってきたとき、香織は暴力をふるう。げんこつなんて生易しいものじゃない。俊哉の肉に爪を立てて引っかいたり、座っている俊哉の頭に回し蹴りをたたきこんだりする。おかげで俊哉の腕や首筋にはみみずばれがいくつもある。
いつもの俊哉なら、そこまでされるか、あるいはそこまでされる前に引き下がっていた。ところが俊哉はいっこうに下がる気配がない。どうやら、日ごろの姉の暴虐ぶりに腹を据えかねたようである。
「ぜってぇかさねえ」
「なにチョーシこいてんの、お前?」
香織の機嫌がいつになく悪い。おそらく、俊哉に反抗されたことに腹を立てているのだろう。
「だから、どっか行けっていってんだよ、ブス」
「殺すよ、グズ」
そういって香織が一歩前に踏み出す。そのとたん、俊哉の威勢が消えた。目に見えて動揺している。
「おい待てよ、暴力で解決する気かよ?」
「暴力で解決する気ですけど、何か?」
念のために言っておくが、喧嘩は香織の方が圧倒的に強い。今まで二人が喧嘩をしているところを十度ばかり見たが、十勝ゼロ敗で香織が圧倒的勝率を誇っている。
「もしそんなことしたらな、ママに、い、言いつけてやるからな!」
俊哉は言った。
香織がぴたりと足を止めた。
「あんた、男らしくないわね」
「男らしくなくたってなんだっていいよ。もし殴ったら、ママに言いつけてやるからな」
そういっている俊哉は目から涙を流している。よほど香織のことが怖いのだろう。
「別に殴るつもりなんてないし」
「嘘つけ。さっき殴るって言った」
「さあ、そんなこといったかしら?」
とぼけるにも限度がある。ついさっき暴力で解決する、だのと言っていたはずであるが。
「ねえ、こうしない?私がそのゲームを買うわ」
「はあ?」
「私の全財産をあなたに上げる。その代わりそのゲームは私のものにする。俊哉は私からもらったお金を使って自分用のゲームを買えばいい」
「そ、そんな金あるなら、自分で買いに行けばいいだろ?」
「わかってないわね、私はお金をあげるって言ってるのよ。こんな中古のゲーム、ゲームをすること以外でしか役に立たないわよ。それに私の全財産でゲームを買った後に余った金は、また別のことに使えるんだからね。いい取引じゃない。私がその古いゲームをもらうのと引き換えに私が全財産をあなたに上げるっていうんだから」
俊哉は考え込んだ。それから、顔をあげて
「わかった。それでいい」
「じゃあ、契約書にサインして」
「ああ。サインするよ」
香織はノートの紙をちぎると、そこに契約の詳細を書いて、自分のサインを書いた。俊哉も自分のサインを紙に記した。
「じゃあさ、全財産を渡すから、そこで待ってて」
そういって香織は契約書をもって二階へ上がっていった。
しばらくすると、香織は貯金箱をもって戻ってきた。
「はい。これが私の全財産」
俊哉はそれを受け取った。
「じゃあ、私はこれでゲームをするから。俊哉は休みの日にでも、そのお金でゲームを買ってもらうことね」
「うん!」
俊哉はうなずいた。多分、頭の中ではこれから買うゲームのことが浮かんでいるのだろう。
私はこの取引をひと声も鳴かず見ていた。しかしどう見ても香織が俊哉をうまく騙したとしか思えない。第一、あの十五センチの高さもないような貯金箱に、どれほどの財産が入っているというのか。お札が入っているなら話は別だが、先ほど貯金箱が揺れた時、ジャラジャラという音しかしなかった。中身は割合たっぷり入っているようであるが、すべて小銭だとしたら、たとえ百円玉が五十枚入っていたところで、五千円くらいにしかなるまい。実際はもっと少ないだろう。
俊哉が、貯金箱の中身には2483円しか入っていないということ、ゲーム機を買うには2483円では足りないということを知ったのは土曜日、つまり契約の日から3日後のことであった。
「ねえ、母さん。このお金でゲーム買ったらいくら余る?」
「え?」
「だから、この貯金箱の中にあるお金で、ニンテンドースイッチ買ったら、いくら余る?」
「ちょっと、中身を見せて」
「うん」
俊哉は貯金箱を手渡した。そのあと、母親から例のことを知らされた。そのことを知らされた俊哉は最初、ぽかんとしていた。
「でもねえちゃん、そのお金でゲーム買いなって。で、余ったお金で好きなもの買いなって」
「そんなお金、この貯金箱にはないわ。大体、ゲーム機がいくらすると思ってるの?三万円以上はするわ、少なくとも。その貯金箱が12個あったって、足りないわよ」
「嘘だ」
「本当よ」
「騙された!姉ちゃんに騙された!ねえ、ママ、姉ちゃんが騙した!」
「そうね。香織は俊哉をだました」
「ねえママ、姉ちゃんからゲーム取り返して!お金返すから」
「でも俊哉、香織と約束したんでしょう?」
「したよ。したけどでも、姉ちゃんは僕をだましたんだよ!」
「確かにだますのは悪いことだけど、それ以上に約束を破るのはもっとよくないわ」
「何言ってんの、ママ?」
「約束を破ったら、どういう形であれ必ず報いが来る。約束をしたからには何が何でも守り通さなくちゃならないの。いい、こればっかりは安易に約束をしてしまった俊哉が悪いわ。今後はこれを機会に反省して、簡単に約束をしたりとかしないことね」
「何言ってるのかわからないよ、ママ」
「つまり、私は香織からゲームを取り返しもしないし、あなたがそのお金を香織に返すこともないわ。約束を守り通しなさい」
俊哉はそれを聞くと、ひざを折り、地面に両手をついた。そしておいおいと泣いた。時々、ゲホゲホと咳き込んだりしていた。美知子は俊哉が泣くばっかりなのを見ると、立ち去ってしまった。
俊哉はゲームをとられた。それと引き換えに、コンビニで二回大きめの買い物をしたら消えてしまいそうなくらいの金額を手に入れた。
しかし話はそれで終わらなかった。その翌日、高橋家から一台のゲーム機が忽然と姿を消したのである。
むろん、そのことに一番初めに気が付いたのは香織であった。そして香織は真っ先に俊哉の部屋に向かった。おそらく、俊哉が気が付くべきことに気が付き、盗みを働いたと思ったのだろう。
俊哉が部屋から顔を出すと、香織は俊哉を詰問した。
「私のゲームどこやったの?」
「ゲームって?いろいろあるけど?」
「だから私が昨日、あなたからもらったゲームよ」
「知らない」
「知らないわけないでしょ、あんたしかいないじゃない、ゲームを盗むやつなんて」
「僕は盗ってない」
「じゃあ何、ゲームがひとりでに歩いて行ったっていうの?」
「そうかもね。人をだますような奴のもとからは皆、ひとりでに離れていくものさ」
「この」
その一言に香織は相当傷つけられたのだろう。歯を食いしばり、目をぎらぎらと光らせていた。
「あんたねえ」
「僕を殴ったらママに言いつける」
「言いつけりゃいいでしょ!このクズ!」
そう叫ぶと、香織は俊哉の頬をひっかいた。俊哉が悲鳴を上げた。香織はとびかかると、俊哉の首筋にかみついた。吸血鬼か、この女は。
その時、悲鳴を聞きつけた美知子が駆けつけた。
「何やってるの、二人とも」
美知子は香織の頭をひっぱたいた。香織はその衝撃で口を俊哉の喉から離した。美知子は香織の髪の毛をぐいと引っ張って香織を俊哉から引きはがした。
「痛い、痛いママ」
「香織、あんた何やってるの」
「俊哉が、俊哉がゲームを盗んだ」
「俊哉!昨日言ったじゃない、約束は守れって」
「知らないよ僕!僕は盗んでない」
「でも香織は」
「なんで香織を信じるのさ。香織は僕をだました奴だよ」
「どういうことなの、香織。俊哉は盗んでないっていうけど」
「ゲーム機がなくなったの。昨日は確かにいつもの場所にあったのに」
「それは私も見たわ。昨日、確かにあったわね」
「ゲームを盗むとしたら、俊哉くらいしかいないでしょ?だから」
「それだけじゃ俊哉が盗んだということにはならないわね。俊哉の部屋からゲームが出てきた場合は話が別だけど」
「だってさ俊哉。部屋を調べさせてよ。盗んでないなら、部屋を調べたっていいよね?」
「いいよ。好きなだけ調べたらいい」
俊哉は言った。
美知子と香織は俊哉の部屋を調べた。けれどもゲーム機は出てこなかった。
「ね、ないでしょ?」
俊哉は言った。
「ねえ香織。もしかしてお父さんがどっかやったりとしたんじゃない?」
「じゃ、聞いてみてよ」
「あなた、あなた」
「何だ?」
「香織がゲーム機がなくなったっていうんだけど、ほら一回のテレビの下にあるやつ」
「知らないよ、僕は」
「そうなの?じゃあだれがどこにやったの?」
「香織か俊哉がどこかに持って行ってそのままなんじゃないか?あれ、持ち運びもできるだろ?」
「俊哉じゃないわ。俊哉の部屋は調べたもの」
「じゃあ香織の部屋か?」
3人で香織の部屋に行く。
「おい、汚いなこの部屋」
「今は関係ないでしょ」
「少しは片づけろよ。物を探すときに面倒だろ」
「いいじゃん。それよりもゲーム探そうよ」
「香織はどこかにゲームを置いた覚えとかはないのか?」
「ない。そもそも持って行ってないし」
「うん、まあ一応香織の部屋も探しておこうか。僕は1階を探してくるから。どこかに落ちているかも知れないし」
「お願い」
それから30分ばかり探したが、ゲーム機は見つからなかった。
「ないな」
「だから俊哉が盗んだんだって」
「さっきから俊哉が盗んだ盗んだ、っていうけど、なんで俊哉がゲームを盗むんだ?」
美知子は一郎に事情を話した。
「ああ、なるほどな。そりゃ盗んだとしてもおかしくないな」
「でしょ」
「しかし香織、おまえも卑怯なことしたものだな。そんなことをして恥ずかしくないのか、一人の人間として」
香織はここで思いもよらぬ方向に話が進んだことに驚いていた。
「そんなせこい真似をして実の弟を苦しめて、お前、弟がかわいそうだとも思わないのか?」
「それは……」
「下手な約束をした俊哉も悪いかもしれない。でもな、お前、今回のこと経験のせいでまたお前に騙されるかもしれないなんて思うように俊哉がなったら、あいつはずっとお前を疑い続けるぜ。香織、喧嘩をするのはかまわないが、卑怯な嘘だけはつくな。さもないといつか兄弟としていられなくなるかもしれないから」
香織はどうやら自分が卑怯な真似をしたということに初めて思いが及んだらしい。同時に罪悪感も感じたらしかった。
「まあ、最もこんな争いになったのはゲームが一台しかないからだ。二台買ってやるべきだった」
一郎は言った。
「こうしよう。多分、ゲームは俊哉が持っていると思う。そこで俊哉にすべてを謝ったうえで、ゲームをもう一台買うことを言う。ゲームをもう一台買って俊哉に上げるから、香織にゲームを返してやれと言えば、俊哉もゲームを返すだろう」
「それもそうね」
一郎は俊哉の部屋のドアをノックした。
「俊哉。香織から謝りたいことがあるそうだ」
「だましたりしてごめん。もうしないから」
香織は低い声で言った。
「僕もゲームを一台しか買わないなんて、けち臭いことをしてしまった。それじゃ取り合いになってしまうものな。だからまた新しいゲームを買ってやる。それはお前だけのもので、お前が好きに使っていいやつだ。だから、もしゲームを持っていたならだが、香織に返してやってくれないか?」
俊哉が部屋から出てきた。俊哉はそれから黙って階段を降りていった。俊哉は玄関を開けて外に出た。三人はそれを見て驚いていた。
俊哉は倉庫に行くと、スコップを取り出した。倉庫にでも隠してあるのかと思っていた3人はそこでまた驚いた。
それから俊哉は家の庭のところへ行くと、土を掘り始めた。しばらく掘り進めると俊哉は掘るのをやめた。そこから手で土を掘り始めた。まもなくビニールに包まれたゲーム機の一部が見え始めた。やがて俊哉はゲーム機を掘り出した。
「盗んでごめん」
そういって俊哉はゲーム機を香織に手渡した。その時香織は何も言わなかった。
「それじゃ、ゲームを買いに行こっか」
美知子が言った。わざとらしく明るくしたような、そんな声音であった。
俊哉はうなずきもせず、美知子についていった。美知子について行っている間、俊哉は一度も笑わなかった。
どうして俊哉が笑わなかったのかはいまいち判然としない。ただ私が思うに、あの時俊哉が笑わなかったのは笑うことを自分に許さなかったからではないかと思う。俊哉は自分が盗みを働いた後、相当の罪悪感にさいなまれたと思われる。しかしそのあと、家族から盗みの罪を許され、あまつさえ盗みの原因となったゲーム機さえ買ってもらった。
しかし彼は自分が泥棒だという事実は消えないことを知っていた。泥棒が罪を許されたからと言って、そのままで済むはずがないと思っていた。第一罪悪感がそれを許さなかった。その気持ちが笑うという行為を遠ざけていたのではないか、と私は考えている。
人の気持ちの機微というのは実にとらえがたいものである。そのとらえがたいものをとらえなければならないのが、小説というものである。それを一郎は書いている。
一郎の小説といえば、こんな話がある。日曜日のことだ。一郎は朝食を食べてからというもの、ずっと部屋から出てこないでいた。
こうまで頑張っているということはもしや、集中して書いているということなのか。そこまで集中できるというのならば、もしかすると、名作が生まれてもおかしくない。一郎は馬鹿である。馬鹿であるが、そういった見た目の人間ほど、思ってもみないような名作を生み出すものである。
私は一郎の仕事にすこし興味が出た。どれ、どんな様子か少し見てみよう。
私は一郎の書斎の前につくと、後ろ脚の二本で立ち、ドアノブに手をかけた。書斎のドアノブはレバー型である。そのため、手を引っかけながら前に押せばドアを開くことができるのである。
私はドアを開くと、部屋の中へ遠慮会釈なく侵入した。
一郎がこちらを見る。しかしすぐに興味を失ったのか、机の方へ視線を戻した。しかしすぐに書き始める気配はない。どうやら話の内容を考えている途中のようである。
「触れたものが砂になる、か」
一郎はつぶやいた。それから机やら何やらにべたべた触り始める。なにを考えているのかはちょっと見当がつかない。
「砂になるわけないか」
当たり前だ。
『朝起きたら、僕は砂の上に寝ていた』
一郎はそうパソコンに入力した。
「うむ、いいぞ。カフカ的だ、いかにも」
朝起きて異変が起きたからと言って、何でもかんでカフカ的になるわけではない。ろくにカフカのこともわかっていないくせに一人で悦に入っている。そこがまるで愚かだ。
「しかしそれも変だな。ベッドの上で寝ていてベッドが砂になったら、落ちるじゃないか。その衝撃で起きそうなもんだが」
愚かな主人も、そのような自明のことには気づいたと見える。
「やっぱこの始まりはよすか」
一郎は入力した文字を消した。それから頭に手をやり、バリバリとかく。それからまたパソコンをにらむ。数秒ばかりすると、体を背もたれに預け、体をそらした。それからやおら立ち上がると、テニスの素振りを始めた。フォアハンドストロークの素振りを何回も何回も繰り返している。数十回ばかり素振りをしてから、一郎は素振りをやめた。
一体どういう了見でテニスの素振りを始めたのか皆目見当がつかぬ。この男の頭の中はやはりミステリーに満ちている。
一郎は椅子に座りなおすと、口元に手をやった。ひげを爪でつまむと、それを引っ張った。一郎の指の先には抜けたひげがある。一郎は髭を数秒ばかり見つめるとごみ箱に捨てた。そしてまたひげを抜き始める。
「あなた、いい?」
「おお、なんだい?」
一郎は髭に爪をかけたまま答える。
「俊哉のテストが返ってきたんだけど」
「テスト?何点だったんだ?」
一郎は髭を抜くのをやめて、美知子の方に向き直った。
「零点よ」
「馬鹿な」
「本当よ」
そういって美知子がテスト用紙を広げる。点数を書く欄にはまぎれもなく零と書かれている。
「本当だ」
「でしょう。ほらここ見て」
美知子は名前のところを指さした。見ると、名前のところに『直列つなぎ』と書いてある。
「名前のところに書いてあるこれは、答えじゃないか」
「そうなのよ。名前を書かないで、名前欄のところに答えを書いたまんまほかの答えも書いたの。だもんだから、答えがみんなずれちゃって」
「ああ、そうか」
「私、これを見て不安になっちゃって。そりゃ、確かに名前のところのすぐ下に解答欄だけずらーっと並べられてあるからうっかりしそうになるのもわかるわ。でもいくらなんでも普通、気づくものじゃない、これ?」
「うん、まあ」
「ほら、俊哉ってちょっと抜けてるっていうか、変なところがあるじゃない?前も散歩中の犬のリード外したりして」
「ああ、そういえばな」
「そこへ来てこんなミスでしょ?もしかしたら、なんか障害でもあるんじゃない?」
「さあなあ」
「ちょっと病院へ連れていこうと思うの」
「連れていったらいいじゃないか」
「あなた、一緒に行ってくれないの」
「いや、そういうわけにもいかないんだ、実は」
「どうして?」
「それがさ、この小説を午前十二時までに仕上げなくちゃいけなくて。ほら、北川っていうプロの小説家がいるだろ?」
「いるわね」
「その人がさ、小説に評価をくれるっていうイベントがさ、今開かれているんだよ、ネットで。それに間に合うように作品を書き上げたいんだよ、ぜひとも」
「そんな、小説なんかよりも俊哉の方が大切じゃないの?」
「そりゃ、俊哉が大切じゃないこともないよ。でもさ、俊哉のそれは今日に始まったことでもないじゃないか。そんな今日必ずというものでもないだろう」
「何言ってるの、そういって先延ばしにばっかりして、取り返しのつかないことになったりしたらどうするの。事故に遭ったりとかするかもしれないじゃない」
「そんなことになるものかな」
「なるかもしれないでしょ。それに病院に行けば頭によく効くお薬とかもらえるかもしれないし」
「頭に効く薬なんかあるものかね」
「とにかく、私は何がなんでも今日、俊哉を連れてくから」
「それはかまわんが、僕は行かないよ」
「別にいいわよ。そういうことなら」
そういって美知子は書斎を出た。
一郎はそれからまたパソコンの画面に向きなおった。
この時点で十時である。まだ書き始めたとしても、ぎりぎり間に合わないことはない。どうせなら、元から書いてある作品を投稿したほうがいいような気もする。しかし本人としてはあくまで書いたばかりのやつが投稿したいようだ。
「ねえ、あなた!」
美知子の呼び声が聞こえた。
「何だ?」
一郎がドアを開けて階下を覗く。
「俊哉が捕まらないの!一緒に捕まえて」
「そんな無理して連れていくこともないだろう、病院なんかに」
「ほら、やっぱり病院へ連れていくんだ!僕が気違いだから、精神病院へ入れるつもりだろ!」
「そんなことないわよ、ていうかどこで覚えたのそんなこと」
「自分で何とかしてくれ。ただの検査だっていえば黙ってついてくるだろ」
「それが駄目なのよ。だからあなたに助けを求めてるんじゃない」
「僕は小説が」
「もし手伝わないっていうんなら、あんたのパソコン、へし折ってやるから」
「おい、待ってくれよ。本当に時間がないんだ。あと二時間しかない」
「知らないわよ、そんなこと。今大事なのはあなたが俊哉を捕まえるのを手伝うか、それとも、パソコンをへし折られて折角の作品をみてもらうチャンスを失うか、そのどっちかしかないってことじゃないの?」
「その選択肢しかないのか……」
一郎はため息をついた。
「わかったよ。待っててくれ」
そういって一郎は階段を降りた。この時点で十時十分である。
まだ小説を書き始めたばかりだから、あと一時間は、どうしても欲しいところだろう。まあ俊哉一人を捕まえるくらいなら造作もないことだ。十分もあれば片付くに違いない。
それよりも俊哉の捕獲劇をぜひとも見物せねばなるまい。一体どのようになっているのか。
下に降りてみると、俊哉は両親の腕を机などの障害物を利用しながら巧みにかわしていた。
これは少し手間取りそうだな。そう思っていると、俊哉は窓を開けた。そしてそこから、裸足のまま出てしまった。
「嘘でしょ!」
「まったく、待て、俊哉」
一郎は玄関から出て、外へ追いかけ始めた。私も追う。
外に出ると、百メートルほど先に俊哉の姿が見えた。俊哉のそばにはタクシーが止まっている。俊哉はタクシーに乗り込んだ。
お金も持っていないのに乗ってどうするのか。そんな私の不安をよそにタクシーは発車してしまった。
「嘘、だろ」
「ねえ、あなた。車出して」
「わかってるよ、ああもう、追いつくかな」
一郎がダッシュで戻ってくる。家に入ると、車のカギを探し始めた。
「車のカギ、どこだっけ?」
「あなたのバッグの中じゃないの?」
「ああ、そうか」
「何言ってるの?ぼけてるの?」
「うっかりしてただけだよ」
一郎はかぎを取り出す。
「なあ、作品だけ先に」
「パソコン」
「俊哉が先だな」
一郎が飛び出す。そして車にエンジンをかける。私もどさくそに紛れて車に飛び乗った。
「どこへ行ったかな、あいつ」
「とりあえずさっきの道路沿いに走ってみましょうよ」
「ああ、そうだな」
この時点で、車の中の時計を見る限り、十時半近くになっている。俊哉をどうにか連れ戻して帰ってくるとしても、確実に十一時は過ぎてしまう。作品を仕上げるのはもはや困難だろう。そうなれば元から書いてある作品を投稿するしかない。あとは十二時に投稿できるかどうかだが……。
「俊哉、どこに行ったと思う?」
「この方向だと、私の両親の家があるな」
「お父さんたちの家か」
確か彼らの家までは片道四十五分くらいのはずである。もし本当にそこにいるのだとしたら、行って帰ってきても余裕で間に合う計算になる。
「よし、とばすぞ」
「飛ばさなくてもいいじゃない、別に急ぐことなんて」
「十二時までには戻らないと」
「まだ言ってる」
「僕は何が何でもあれを投稿しなくちゃならないんだ」
車のスピードがぐんと上がる。今の速度は時速八十キロメートルである。ちなみに五十キロメートル道路である。
「もう、事故んないでよね」
「わかってる」
一郎が車を飛ばしたおかげか、祖父母の宅へは十一時十分には着いた。
「すいません、俊哉はいますか?」
「いるが、どうかしたのかね?」
「ええ、俊哉を迎えに来ました。ご迷惑をおかけしてすみません」
「いや、いいんだ。そんなことは」
「タクシーに乗ってこられたでしょう、俊哉は。その代金も払わせてしまいましたか?」
「そのことも気にしなくていい」
「いえ、その分は払いますよ」
「それよりもだ」
向こうから祖父の声が響く。
「俊哉から一郎君と美知子に精神病院に閉じ込められるなんて言う話を聞いたんだが」
「いや、それは誤解ですよ。病院に連れていこうとしたのは確かですが」
「一郎はひどくおびえている。聞けば、無理やり捕まえようとしたそうじゃないか。それに俊哉はどこも悪くなさそうだ。どうして病院に連れていく必要があるのかね?」
「いや、それは、その障害があるかどうか検査を」
「障害!俊哉のどこがおかしいというのだ!」
「いや、どうか落ち着いてください、お父さん」
「父さん、違うのよ、俊哉ってほら、抜けてるところあるじゃない?それで私心配になったの、もしかしたらこれ、ダウン症とかみたいなそういう頭の障害なんじゃないかって。だから病院に一度見てもらおうと思って」
「そうなのか、美知子?」
「そうよ。何言ってるの。精神病院になんか放り込むわけないじゃない、俊哉を」
「いや、そうは言うがあんまり俊哉がおびえているから」
「もう、早く俊哉を出して」
「悪かったよ」
玄関が開く。そこには祖父と祖母、そして俊哉がいた。
「本当に精神病院に放り込んだりしない?」
「ああ」
「注射とかもしない?」
「今回はないわ」
「じゃあいいや」
俊哉はあっさりついてきた。タクシーまで使って逃げたにしてはやけに素直だった。
「すいません、ありがとうございました」
一郎はお礼を言うと、タクシー代を払い、家を出払った。
車に戻ると、たぶん祖父との話が長引いたためだろう、十一時二十分過ぎになっていた。
「うそだろ!」
一郎は車を飛ばした。ついさっきは飛ばして四十分で着いた。しかし今度はどうなるのか。渋滞さえしていなければあるいは……。
一郎が国道で走っていた時だった。後ろからパトカーがやってきた。
「そこの車両、停止してください」
「あ」
一郎は警察に見つかった。そしてスピード違反で長々と説教を受けたあげく、罰金を取られた。無論、小説の投稿は間に合わなかった。
後日談。一郎が何か叫んで一階に降りてきた。
「見てくれよこれ」
一郎が見せたのはとあるニュースであった。それによると、昨日一郎の言っていたサイトは詐欺のサイトで、そのサイトにアクセスすると、ウイルスに感染するあげく、入力した個人情報が詐欺グループに知られてしまうというものだった。
「よかったよ、間に合わなくて」
「よかったじゃない、本当。焦ったりなんかする必要なかったのよ。そんなことしたってろくなことにならないんだから」
子供たちのゲームへの熱中ぶりがまた恐ろしいくらいのもので、たった一つのゲームを半日、あるいは一日中やっていることもある。はたから見ていると、あまりにも集中しすぎていて気味悪い。
しかしそれも無理からぬ話であろう。ゲームというのは手が離れなくなるような仕掛けがいくつもある。レベルが上がる機能や、アイテムを集めるなどのイベント、魅力的なグラフィック(俊哉などはゲームの中の女の子に恋をしている模様である)など数をあげればきりがない。またゲームを続けていればレベルが上がったり、持っているアイテムの数が増えたりして、自然と何かを達成したりゲームがうまくなったりする。するとゲームの中で自らの能力の高さを見せつける機会もあり、またそうした自分の成果を見て喜びを感じることもある。それがゲームの面白みであり、その面白みこそが彼らをゲームの世界に夢中にさせるのだと思われる。
しかしあまりに集中しすぎるのも考え物である。近年ではスマホゲームによる課金のし過ぎなどの問題も出ている。ゲームのことで喧嘩が起こることもしばしばある。幸い、我が家では課金による騒ぎは起こっていない。しかしゲームのことで喧嘩は起こった。
あれは私が居間で昼寝をしていたころだろうか。そこへどたどたと大きな足音がしたので、私は目を覚ました。
その直後、私の眼前を足がぶんと通り抜けた。あわやぶつかるというところであった。犬の顔に足が当たることにも気を払わないような抜け作は俊哉に決まっている。そう思って顔をあげると、やはりそうであった。見ると俊哉はテレビゲームを始めようとしていた。こういった類の抜け作はこれだから困る。一度自分の面白いものを目の前にすると、まるでほかのものが目に入らなくなるのである。
「ちょっと、どきなさいよ」
と香織の声がした。
「私、ゲームやるんだから」
「は?」
「あんた、宿題やったの?」
「終わってるよ。お前こそ終わってんのかよ?」
「終わってるに決まってるじゃない。あんたじゃないんだから」
「ま、別にいいけど。ゲーム、俺が使うし」
「は?なんで」
「なんでって、早い者勝ちだろ」
「知らないわよ、そんなの。どきなさいよ」
「ふざけんなよ。毎回毎回そうやって俺のこと無理やりどかしてさ。ずるいんだよいつも。暴力ふるって自分のいいようにしてさ」
そう。たいていゲームの取り合いになった時、あるいは俊哉がゲームをやっているところへ香織がやってきたとき、香織は暴力をふるう。げんこつなんて生易しいものじゃない。俊哉の肉に爪を立てて引っかいたり、座っている俊哉の頭に回し蹴りをたたきこんだりする。おかげで俊哉の腕や首筋にはみみずばれがいくつもある。
いつもの俊哉なら、そこまでされるか、あるいはそこまでされる前に引き下がっていた。ところが俊哉はいっこうに下がる気配がない。どうやら、日ごろの姉の暴虐ぶりに腹を据えかねたようである。
「ぜってぇかさねえ」
「なにチョーシこいてんの、お前?」
香織の機嫌がいつになく悪い。おそらく、俊哉に反抗されたことに腹を立てているのだろう。
「だから、どっか行けっていってんだよ、ブス」
「殺すよ、グズ」
そういって香織が一歩前に踏み出す。そのとたん、俊哉の威勢が消えた。目に見えて動揺している。
「おい待てよ、暴力で解決する気かよ?」
「暴力で解決する気ですけど、何か?」
念のために言っておくが、喧嘩は香織の方が圧倒的に強い。今まで二人が喧嘩をしているところを十度ばかり見たが、十勝ゼロ敗で香織が圧倒的勝率を誇っている。
「もしそんなことしたらな、ママに、い、言いつけてやるからな!」
俊哉は言った。
香織がぴたりと足を止めた。
「あんた、男らしくないわね」
「男らしくなくたってなんだっていいよ。もし殴ったら、ママに言いつけてやるからな」
そういっている俊哉は目から涙を流している。よほど香織のことが怖いのだろう。
「別に殴るつもりなんてないし」
「嘘つけ。さっき殴るって言った」
「さあ、そんなこといったかしら?」
とぼけるにも限度がある。ついさっき暴力で解決する、だのと言っていたはずであるが。
「ねえ、こうしない?私がそのゲームを買うわ」
「はあ?」
「私の全財産をあなたに上げる。その代わりそのゲームは私のものにする。俊哉は私からもらったお金を使って自分用のゲームを買えばいい」
「そ、そんな金あるなら、自分で買いに行けばいいだろ?」
「わかってないわね、私はお金をあげるって言ってるのよ。こんな中古のゲーム、ゲームをすること以外でしか役に立たないわよ。それに私の全財産でゲームを買った後に余った金は、また別のことに使えるんだからね。いい取引じゃない。私がその古いゲームをもらうのと引き換えに私が全財産をあなたに上げるっていうんだから」
俊哉は考え込んだ。それから、顔をあげて
「わかった。それでいい」
「じゃあ、契約書にサインして」
「ああ。サインするよ」
香織はノートの紙をちぎると、そこに契約の詳細を書いて、自分のサインを書いた。俊哉も自分のサインを紙に記した。
「じゃあさ、全財産を渡すから、そこで待ってて」
そういって香織は契約書をもって二階へ上がっていった。
しばらくすると、香織は貯金箱をもって戻ってきた。
「はい。これが私の全財産」
俊哉はそれを受け取った。
「じゃあ、私はこれでゲームをするから。俊哉は休みの日にでも、そのお金でゲームを買ってもらうことね」
「うん!」
俊哉はうなずいた。多分、頭の中ではこれから買うゲームのことが浮かんでいるのだろう。
私はこの取引をひと声も鳴かず見ていた。しかしどう見ても香織が俊哉をうまく騙したとしか思えない。第一、あの十五センチの高さもないような貯金箱に、どれほどの財産が入っているというのか。お札が入っているなら話は別だが、先ほど貯金箱が揺れた時、ジャラジャラという音しかしなかった。中身は割合たっぷり入っているようであるが、すべて小銭だとしたら、たとえ百円玉が五十枚入っていたところで、五千円くらいにしかなるまい。実際はもっと少ないだろう。
俊哉が、貯金箱の中身には2483円しか入っていないということ、ゲーム機を買うには2483円では足りないということを知ったのは土曜日、つまり契約の日から3日後のことであった。
「ねえ、母さん。このお金でゲーム買ったらいくら余る?」
「え?」
「だから、この貯金箱の中にあるお金で、ニンテンドースイッチ買ったら、いくら余る?」
「ちょっと、中身を見せて」
「うん」
俊哉は貯金箱を手渡した。そのあと、母親から例のことを知らされた。そのことを知らされた俊哉は最初、ぽかんとしていた。
「でもねえちゃん、そのお金でゲーム買いなって。で、余ったお金で好きなもの買いなって」
「そんなお金、この貯金箱にはないわ。大体、ゲーム機がいくらすると思ってるの?三万円以上はするわ、少なくとも。その貯金箱が12個あったって、足りないわよ」
「嘘だ」
「本当よ」
「騙された!姉ちゃんに騙された!ねえ、ママ、姉ちゃんが騙した!」
「そうね。香織は俊哉をだました」
「ねえママ、姉ちゃんからゲーム取り返して!お金返すから」
「でも俊哉、香織と約束したんでしょう?」
「したよ。したけどでも、姉ちゃんは僕をだましたんだよ!」
「確かにだますのは悪いことだけど、それ以上に約束を破るのはもっとよくないわ」
「何言ってんの、ママ?」
「約束を破ったら、どういう形であれ必ず報いが来る。約束をしたからには何が何でも守り通さなくちゃならないの。いい、こればっかりは安易に約束をしてしまった俊哉が悪いわ。今後はこれを機会に反省して、簡単に約束をしたりとかしないことね」
「何言ってるのかわからないよ、ママ」
「つまり、私は香織からゲームを取り返しもしないし、あなたがそのお金を香織に返すこともないわ。約束を守り通しなさい」
俊哉はそれを聞くと、ひざを折り、地面に両手をついた。そしておいおいと泣いた。時々、ゲホゲホと咳き込んだりしていた。美知子は俊哉が泣くばっかりなのを見ると、立ち去ってしまった。
俊哉はゲームをとられた。それと引き換えに、コンビニで二回大きめの買い物をしたら消えてしまいそうなくらいの金額を手に入れた。
しかし話はそれで終わらなかった。その翌日、高橋家から一台のゲーム機が忽然と姿を消したのである。
むろん、そのことに一番初めに気が付いたのは香織であった。そして香織は真っ先に俊哉の部屋に向かった。おそらく、俊哉が気が付くべきことに気が付き、盗みを働いたと思ったのだろう。
俊哉が部屋から顔を出すと、香織は俊哉を詰問した。
「私のゲームどこやったの?」
「ゲームって?いろいろあるけど?」
「だから私が昨日、あなたからもらったゲームよ」
「知らない」
「知らないわけないでしょ、あんたしかいないじゃない、ゲームを盗むやつなんて」
「僕は盗ってない」
「じゃあ何、ゲームがひとりでに歩いて行ったっていうの?」
「そうかもね。人をだますような奴のもとからは皆、ひとりでに離れていくものさ」
「この」
その一言に香織は相当傷つけられたのだろう。歯を食いしばり、目をぎらぎらと光らせていた。
「あんたねえ」
「僕を殴ったらママに言いつける」
「言いつけりゃいいでしょ!このクズ!」
そう叫ぶと、香織は俊哉の頬をひっかいた。俊哉が悲鳴を上げた。香織はとびかかると、俊哉の首筋にかみついた。吸血鬼か、この女は。
その時、悲鳴を聞きつけた美知子が駆けつけた。
「何やってるの、二人とも」
美知子は香織の頭をひっぱたいた。香織はその衝撃で口を俊哉の喉から離した。美知子は香織の髪の毛をぐいと引っ張って香織を俊哉から引きはがした。
「痛い、痛いママ」
「香織、あんた何やってるの」
「俊哉が、俊哉がゲームを盗んだ」
「俊哉!昨日言ったじゃない、約束は守れって」
「知らないよ僕!僕は盗んでない」
「でも香織は」
「なんで香織を信じるのさ。香織は僕をだました奴だよ」
「どういうことなの、香織。俊哉は盗んでないっていうけど」
「ゲーム機がなくなったの。昨日は確かにいつもの場所にあったのに」
「それは私も見たわ。昨日、確かにあったわね」
「ゲームを盗むとしたら、俊哉くらいしかいないでしょ?だから」
「それだけじゃ俊哉が盗んだということにはならないわね。俊哉の部屋からゲームが出てきた場合は話が別だけど」
「だってさ俊哉。部屋を調べさせてよ。盗んでないなら、部屋を調べたっていいよね?」
「いいよ。好きなだけ調べたらいい」
俊哉は言った。
美知子と香織は俊哉の部屋を調べた。けれどもゲーム機は出てこなかった。
「ね、ないでしょ?」
俊哉は言った。
「ねえ香織。もしかしてお父さんがどっかやったりとしたんじゃない?」
「じゃ、聞いてみてよ」
「あなた、あなた」
「何だ?」
「香織がゲーム機がなくなったっていうんだけど、ほら一回のテレビの下にあるやつ」
「知らないよ、僕は」
「そうなの?じゃあだれがどこにやったの?」
「香織か俊哉がどこかに持って行ってそのままなんじゃないか?あれ、持ち運びもできるだろ?」
「俊哉じゃないわ。俊哉の部屋は調べたもの」
「じゃあ香織の部屋か?」
3人で香織の部屋に行く。
「おい、汚いなこの部屋」
「今は関係ないでしょ」
「少しは片づけろよ。物を探すときに面倒だろ」
「いいじゃん。それよりもゲーム探そうよ」
「香織はどこかにゲームを置いた覚えとかはないのか?」
「ない。そもそも持って行ってないし」
「うん、まあ一応香織の部屋も探しておこうか。僕は1階を探してくるから。どこかに落ちているかも知れないし」
「お願い」
それから30分ばかり探したが、ゲーム機は見つからなかった。
「ないな」
「だから俊哉が盗んだんだって」
「さっきから俊哉が盗んだ盗んだ、っていうけど、なんで俊哉がゲームを盗むんだ?」
美知子は一郎に事情を話した。
「ああ、なるほどな。そりゃ盗んだとしてもおかしくないな」
「でしょ」
「しかし香織、おまえも卑怯なことしたものだな。そんなことをして恥ずかしくないのか、一人の人間として」
香織はここで思いもよらぬ方向に話が進んだことに驚いていた。
「そんなせこい真似をして実の弟を苦しめて、お前、弟がかわいそうだとも思わないのか?」
「それは……」
「下手な約束をした俊哉も悪いかもしれない。でもな、お前、今回のこと経験のせいでまたお前に騙されるかもしれないなんて思うように俊哉がなったら、あいつはずっとお前を疑い続けるぜ。香織、喧嘩をするのはかまわないが、卑怯な嘘だけはつくな。さもないといつか兄弟としていられなくなるかもしれないから」
香織はどうやら自分が卑怯な真似をしたということに初めて思いが及んだらしい。同時に罪悪感も感じたらしかった。
「まあ、最もこんな争いになったのはゲームが一台しかないからだ。二台買ってやるべきだった」
一郎は言った。
「こうしよう。多分、ゲームは俊哉が持っていると思う。そこで俊哉にすべてを謝ったうえで、ゲームをもう一台買うことを言う。ゲームをもう一台買って俊哉に上げるから、香織にゲームを返してやれと言えば、俊哉もゲームを返すだろう」
「それもそうね」
一郎は俊哉の部屋のドアをノックした。
「俊哉。香織から謝りたいことがあるそうだ」
「だましたりしてごめん。もうしないから」
香織は低い声で言った。
「僕もゲームを一台しか買わないなんて、けち臭いことをしてしまった。それじゃ取り合いになってしまうものな。だからまた新しいゲームを買ってやる。それはお前だけのもので、お前が好きに使っていいやつだ。だから、もしゲームを持っていたならだが、香織に返してやってくれないか?」
俊哉が部屋から出てきた。俊哉はそれから黙って階段を降りていった。俊哉は玄関を開けて外に出た。三人はそれを見て驚いていた。
俊哉は倉庫に行くと、スコップを取り出した。倉庫にでも隠してあるのかと思っていた3人はそこでまた驚いた。
それから俊哉は家の庭のところへ行くと、土を掘り始めた。しばらく掘り進めると俊哉は掘るのをやめた。そこから手で土を掘り始めた。まもなくビニールに包まれたゲーム機の一部が見え始めた。やがて俊哉はゲーム機を掘り出した。
「盗んでごめん」
そういって俊哉はゲーム機を香織に手渡した。その時香織は何も言わなかった。
「それじゃ、ゲームを買いに行こっか」
美知子が言った。わざとらしく明るくしたような、そんな声音であった。
俊哉はうなずきもせず、美知子についていった。美知子について行っている間、俊哉は一度も笑わなかった。
どうして俊哉が笑わなかったのかはいまいち判然としない。ただ私が思うに、あの時俊哉が笑わなかったのは笑うことを自分に許さなかったからではないかと思う。俊哉は自分が盗みを働いた後、相当の罪悪感にさいなまれたと思われる。しかしそのあと、家族から盗みの罪を許され、あまつさえ盗みの原因となったゲーム機さえ買ってもらった。
しかし彼は自分が泥棒だという事実は消えないことを知っていた。泥棒が罪を許されたからと言って、そのままで済むはずがないと思っていた。第一罪悪感がそれを許さなかった。その気持ちが笑うという行為を遠ざけていたのではないか、と私は考えている。
人の気持ちの機微というのは実にとらえがたいものである。そのとらえがたいものをとらえなければならないのが、小説というものである。それを一郎は書いている。
一郎の小説といえば、こんな話がある。日曜日のことだ。一郎は朝食を食べてからというもの、ずっと部屋から出てこないでいた。
こうまで頑張っているということはもしや、集中して書いているということなのか。そこまで集中できるというのならば、もしかすると、名作が生まれてもおかしくない。一郎は馬鹿である。馬鹿であるが、そういった見た目の人間ほど、思ってもみないような名作を生み出すものである。
私は一郎の仕事にすこし興味が出た。どれ、どんな様子か少し見てみよう。
私は一郎の書斎の前につくと、後ろ脚の二本で立ち、ドアノブに手をかけた。書斎のドアノブはレバー型である。そのため、手を引っかけながら前に押せばドアを開くことができるのである。
私はドアを開くと、部屋の中へ遠慮会釈なく侵入した。
一郎がこちらを見る。しかしすぐに興味を失ったのか、机の方へ視線を戻した。しかしすぐに書き始める気配はない。どうやら話の内容を考えている途中のようである。
「触れたものが砂になる、か」
一郎はつぶやいた。それから机やら何やらにべたべた触り始める。なにを考えているのかはちょっと見当がつかない。
「砂になるわけないか」
当たり前だ。
『朝起きたら、僕は砂の上に寝ていた』
一郎はそうパソコンに入力した。
「うむ、いいぞ。カフカ的だ、いかにも」
朝起きて異変が起きたからと言って、何でもかんでカフカ的になるわけではない。ろくにカフカのこともわかっていないくせに一人で悦に入っている。そこがまるで愚かだ。
「しかしそれも変だな。ベッドの上で寝ていてベッドが砂になったら、落ちるじゃないか。その衝撃で起きそうなもんだが」
愚かな主人も、そのような自明のことには気づいたと見える。
「やっぱこの始まりはよすか」
一郎は入力した文字を消した。それから頭に手をやり、バリバリとかく。それからまたパソコンをにらむ。数秒ばかりすると、体を背もたれに預け、体をそらした。それからやおら立ち上がると、テニスの素振りを始めた。フォアハンドストロークの素振りを何回も何回も繰り返している。数十回ばかり素振りをしてから、一郎は素振りをやめた。
一体どういう了見でテニスの素振りを始めたのか皆目見当がつかぬ。この男の頭の中はやはりミステリーに満ちている。
一郎は椅子に座りなおすと、口元に手をやった。ひげを爪でつまむと、それを引っ張った。一郎の指の先には抜けたひげがある。一郎は髭を数秒ばかり見つめるとごみ箱に捨てた。そしてまたひげを抜き始める。
「あなた、いい?」
「おお、なんだい?」
一郎は髭に爪をかけたまま答える。
「俊哉のテストが返ってきたんだけど」
「テスト?何点だったんだ?」
一郎は髭を抜くのをやめて、美知子の方に向き直った。
「零点よ」
「馬鹿な」
「本当よ」
そういって美知子がテスト用紙を広げる。点数を書く欄にはまぎれもなく零と書かれている。
「本当だ」
「でしょう。ほらここ見て」
美知子は名前のところを指さした。見ると、名前のところに『直列つなぎ』と書いてある。
「名前のところに書いてあるこれは、答えじゃないか」
「そうなのよ。名前を書かないで、名前欄のところに答えを書いたまんまほかの答えも書いたの。だもんだから、答えがみんなずれちゃって」
「ああ、そうか」
「私、これを見て不安になっちゃって。そりゃ、確かに名前のところのすぐ下に解答欄だけずらーっと並べられてあるからうっかりしそうになるのもわかるわ。でもいくらなんでも普通、気づくものじゃない、これ?」
「うん、まあ」
「ほら、俊哉ってちょっと抜けてるっていうか、変なところがあるじゃない?前も散歩中の犬のリード外したりして」
「ああ、そういえばな」
「そこへ来てこんなミスでしょ?もしかしたら、なんか障害でもあるんじゃない?」
「さあなあ」
「ちょっと病院へ連れていこうと思うの」
「連れていったらいいじゃないか」
「あなた、一緒に行ってくれないの」
「いや、そういうわけにもいかないんだ、実は」
「どうして?」
「それがさ、この小説を午前十二時までに仕上げなくちゃいけなくて。ほら、北川っていうプロの小説家がいるだろ?」
「いるわね」
「その人がさ、小説に評価をくれるっていうイベントがさ、今開かれているんだよ、ネットで。それに間に合うように作品を書き上げたいんだよ、ぜひとも」
「そんな、小説なんかよりも俊哉の方が大切じゃないの?」
「そりゃ、俊哉が大切じゃないこともないよ。でもさ、俊哉のそれは今日に始まったことでもないじゃないか。そんな今日必ずというものでもないだろう」
「何言ってるの、そういって先延ばしにばっかりして、取り返しのつかないことになったりしたらどうするの。事故に遭ったりとかするかもしれないじゃない」
「そんなことになるものかな」
「なるかもしれないでしょ。それに病院に行けば頭によく効くお薬とかもらえるかもしれないし」
「頭に効く薬なんかあるものかね」
「とにかく、私は何がなんでも今日、俊哉を連れてくから」
「それはかまわんが、僕は行かないよ」
「別にいいわよ。そういうことなら」
そういって美知子は書斎を出た。
一郎はそれからまたパソコンの画面に向きなおった。
この時点で十時である。まだ書き始めたとしても、ぎりぎり間に合わないことはない。どうせなら、元から書いてある作品を投稿したほうがいいような気もする。しかし本人としてはあくまで書いたばかりのやつが投稿したいようだ。
「ねえ、あなた!」
美知子の呼び声が聞こえた。
「何だ?」
一郎がドアを開けて階下を覗く。
「俊哉が捕まらないの!一緒に捕まえて」
「そんな無理して連れていくこともないだろう、病院なんかに」
「ほら、やっぱり病院へ連れていくんだ!僕が気違いだから、精神病院へ入れるつもりだろ!」
「そんなことないわよ、ていうかどこで覚えたのそんなこと」
「自分で何とかしてくれ。ただの検査だっていえば黙ってついてくるだろ」
「それが駄目なのよ。だからあなたに助けを求めてるんじゃない」
「僕は小説が」
「もし手伝わないっていうんなら、あんたのパソコン、へし折ってやるから」
「おい、待ってくれよ。本当に時間がないんだ。あと二時間しかない」
「知らないわよ、そんなこと。今大事なのはあなたが俊哉を捕まえるのを手伝うか、それとも、パソコンをへし折られて折角の作品をみてもらうチャンスを失うか、そのどっちかしかないってことじゃないの?」
「その選択肢しかないのか……」
一郎はため息をついた。
「わかったよ。待っててくれ」
そういって一郎は階段を降りた。この時点で十時十分である。
まだ小説を書き始めたばかりだから、あと一時間は、どうしても欲しいところだろう。まあ俊哉一人を捕まえるくらいなら造作もないことだ。十分もあれば片付くに違いない。
それよりも俊哉の捕獲劇をぜひとも見物せねばなるまい。一体どのようになっているのか。
下に降りてみると、俊哉は両親の腕を机などの障害物を利用しながら巧みにかわしていた。
これは少し手間取りそうだな。そう思っていると、俊哉は窓を開けた。そしてそこから、裸足のまま出てしまった。
「嘘でしょ!」
「まったく、待て、俊哉」
一郎は玄関から出て、外へ追いかけ始めた。私も追う。
外に出ると、百メートルほど先に俊哉の姿が見えた。俊哉のそばにはタクシーが止まっている。俊哉はタクシーに乗り込んだ。
お金も持っていないのに乗ってどうするのか。そんな私の不安をよそにタクシーは発車してしまった。
「嘘、だろ」
「ねえ、あなた。車出して」
「わかってるよ、ああもう、追いつくかな」
一郎がダッシュで戻ってくる。家に入ると、車のカギを探し始めた。
「車のカギ、どこだっけ?」
「あなたのバッグの中じゃないの?」
「ああ、そうか」
「何言ってるの?ぼけてるの?」
「うっかりしてただけだよ」
一郎はかぎを取り出す。
「なあ、作品だけ先に」
「パソコン」
「俊哉が先だな」
一郎が飛び出す。そして車にエンジンをかける。私もどさくそに紛れて車に飛び乗った。
「どこへ行ったかな、あいつ」
「とりあえずさっきの道路沿いに走ってみましょうよ」
「ああ、そうだな」
この時点で、車の中の時計を見る限り、十時半近くになっている。俊哉をどうにか連れ戻して帰ってくるとしても、確実に十一時は過ぎてしまう。作品を仕上げるのはもはや困難だろう。そうなれば元から書いてある作品を投稿するしかない。あとは十二時に投稿できるかどうかだが……。
「俊哉、どこに行ったと思う?」
「この方向だと、私の両親の家があるな」
「お父さんたちの家か」
確か彼らの家までは片道四十五分くらいのはずである。もし本当にそこにいるのだとしたら、行って帰ってきても余裕で間に合う計算になる。
「よし、とばすぞ」
「飛ばさなくてもいいじゃない、別に急ぐことなんて」
「十二時までには戻らないと」
「まだ言ってる」
「僕は何が何でもあれを投稿しなくちゃならないんだ」
車のスピードがぐんと上がる。今の速度は時速八十キロメートルである。ちなみに五十キロメートル道路である。
「もう、事故んないでよね」
「わかってる」
一郎が車を飛ばしたおかげか、祖父母の宅へは十一時十分には着いた。
「すいません、俊哉はいますか?」
「いるが、どうかしたのかね?」
「ええ、俊哉を迎えに来ました。ご迷惑をおかけしてすみません」
「いや、いいんだ。そんなことは」
「タクシーに乗ってこられたでしょう、俊哉は。その代金も払わせてしまいましたか?」
「そのことも気にしなくていい」
「いえ、その分は払いますよ」
「それよりもだ」
向こうから祖父の声が響く。
「俊哉から一郎君と美知子に精神病院に閉じ込められるなんて言う話を聞いたんだが」
「いや、それは誤解ですよ。病院に連れていこうとしたのは確かですが」
「一郎はひどくおびえている。聞けば、無理やり捕まえようとしたそうじゃないか。それに俊哉はどこも悪くなさそうだ。どうして病院に連れていく必要があるのかね?」
「いや、それは、その障害があるかどうか検査を」
「障害!俊哉のどこがおかしいというのだ!」
「いや、どうか落ち着いてください、お父さん」
「父さん、違うのよ、俊哉ってほら、抜けてるところあるじゃない?それで私心配になったの、もしかしたらこれ、ダウン症とかみたいなそういう頭の障害なんじゃないかって。だから病院に一度見てもらおうと思って」
「そうなのか、美知子?」
「そうよ。何言ってるの。精神病院になんか放り込むわけないじゃない、俊哉を」
「いや、そうは言うがあんまり俊哉がおびえているから」
「もう、早く俊哉を出して」
「悪かったよ」
玄関が開く。そこには祖父と祖母、そして俊哉がいた。
「本当に精神病院に放り込んだりしない?」
「ああ」
「注射とかもしない?」
「今回はないわ」
「じゃあいいや」
俊哉はあっさりついてきた。タクシーまで使って逃げたにしてはやけに素直だった。
「すいません、ありがとうございました」
一郎はお礼を言うと、タクシー代を払い、家を出払った。
車に戻ると、たぶん祖父との話が長引いたためだろう、十一時二十分過ぎになっていた。
「うそだろ!」
一郎は車を飛ばした。ついさっきは飛ばして四十分で着いた。しかし今度はどうなるのか。渋滞さえしていなければあるいは……。
一郎が国道で走っていた時だった。後ろからパトカーがやってきた。
「そこの車両、停止してください」
「あ」
一郎は警察に見つかった。そしてスピード違反で長々と説教を受けたあげく、罰金を取られた。無論、小説の投稿は間に合わなかった。
後日談。一郎が何か叫んで一階に降りてきた。
「見てくれよこれ」
一郎が見せたのはとあるニュースであった。それによると、昨日一郎の言っていたサイトは詐欺のサイトで、そのサイトにアクセスすると、ウイルスに感染するあげく、入力した個人情報が詐欺グループに知られてしまうというものだった。
「よかったよ、間に合わなくて」
「よかったじゃない、本当。焦ったりなんかする必要なかったのよ。そんなことしたってろくなことにならないんだから」
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