167 / 197
2043ー2057 高瀬邦彦
83
しおりを挟む
「イオンは限りなく人間に近いが、やはり根本的に感覚が違う。だが、今までに見てきたアンドロイドとも違うのだ。宇宙人にでも遭遇したらこんな感じになるのか? 私は正直、怖い。BS社が人格移殖したというリツには人間らしさを感じたが」
リツか……だろうな。
純正イオンはラッパムシと一緒だ。イオンが自分で言っていた。
ただ在って、ただ消える。ラッパムシに意識はあるが、身体が壊れれば消えてなくなる。そこに魂はない。
「ラッパムシ? あなたたちがイオンに与えた絵本か」
よく知っているな。ああ、相馬が注文したからチェックしたのか。
「学術論文を絵本だという神経がわからない」
イオンに読み聞かせる物はなんでも絵本だよ。
高瀬は自分で淹れたコーヒーを飲みながら、つまらなそうに昼の弁当を食べている。
会話の内容は弾みようもなく、ほぼ独り言のように私と対話する最低の状況に、両脇から寄り添うイオンの笑顔が華を添える。
こういうのがホストクラブか?
「ありえない。これでいいはずがない」
高瀬は不機嫌そうにカップを口に運ぶ。
苦い。お前、いつもどれだけ濃いコーヒーを飲んでいるのだ? 毒だ。ストレスがなくても胃に穴があくぞ。
「勝手に味見するな」
高瀬は酒はやらないのか? この身体なら酒はいけるだろう?
「仕事で飲むだけだ。美味くない」
仕事だろうが、美味い酒は美味いぞ。楽しく飲めば良かろう。
「あなたの人生はそれほど楽しかったか? 道楽御曹司は不死まで望んで永遠に何を夢見た? この世はそれほど魅力的か?」
今の高瀬に楽しい人生を想像する余裕はないだろう。イオンたちは高瀬の不穏な様子に戸惑いを見せていた。
私は高瀬の問いには答えず、心を閉ざした。今は仕事に集中してもらった方が良さそうだ。
高瀬は今日中にイオンの報告書を仕上げて、明日には帰るに違いない。
……人生は楽しかったか?
失礼な問いだ。私はまだ生きている。
……永遠に何を夢見た?
この世の先がどうなるのか、ただ見たかった。それだけだ。
高瀬に気づかれないよう、意識の端で溜息をつく。
私が生まれたのは革命や大きな戦争が続いていた時代だ。組織の不祥事の隠蔽、嫉妬や邪推による権力争い……結局私は、軍人や諜報員としての本来の敵ではなく、味方であったはずの者に嫌われ殺された。
人生に満足などなかった。まだ終わりにはしたくなかった。
その思いが私をこの世へ執着させた。我ながら不純で卑しい動機だ。
あれから既に百年は過ぎた。
私は満足できたのか?
死神に追われてまで生き続けた甲斐はあったか?
……シキ……
シキ……
私を呼ぶ声が聞こえる。
わかっている。お前は常に私のそばにいるのだろう?
まだだ。
私には満足も絶望もまだ足りない。
人生を生ききっていない。
お前が私を甘やかすから、私はすっかりわがままになっているではないか。
死神から逃げることに必死だったはずが、今はお前に護られている気さえするぞ。
カイ……お前が私を生かし続けているのだ。
つくづくタチの悪い亡霊になったものだ。
私は、どこへ向かうのであろうな。
リツか……だろうな。
純正イオンはラッパムシと一緒だ。イオンが自分で言っていた。
ただ在って、ただ消える。ラッパムシに意識はあるが、身体が壊れれば消えてなくなる。そこに魂はない。
「ラッパムシ? あなたたちがイオンに与えた絵本か」
よく知っているな。ああ、相馬が注文したからチェックしたのか。
「学術論文を絵本だという神経がわからない」
イオンに読み聞かせる物はなんでも絵本だよ。
高瀬は自分で淹れたコーヒーを飲みながら、つまらなそうに昼の弁当を食べている。
会話の内容は弾みようもなく、ほぼ独り言のように私と対話する最低の状況に、両脇から寄り添うイオンの笑顔が華を添える。
こういうのがホストクラブか?
「ありえない。これでいいはずがない」
高瀬は不機嫌そうにカップを口に運ぶ。
苦い。お前、いつもどれだけ濃いコーヒーを飲んでいるのだ? 毒だ。ストレスがなくても胃に穴があくぞ。
「勝手に味見するな」
高瀬は酒はやらないのか? この身体なら酒はいけるだろう?
「仕事で飲むだけだ。美味くない」
仕事だろうが、美味い酒は美味いぞ。楽しく飲めば良かろう。
「あなたの人生はそれほど楽しかったか? 道楽御曹司は不死まで望んで永遠に何を夢見た? この世はそれほど魅力的か?」
今の高瀬に楽しい人生を想像する余裕はないだろう。イオンたちは高瀬の不穏な様子に戸惑いを見せていた。
私は高瀬の問いには答えず、心を閉ざした。今は仕事に集中してもらった方が良さそうだ。
高瀬は今日中にイオンの報告書を仕上げて、明日には帰るに違いない。
……人生は楽しかったか?
失礼な問いだ。私はまだ生きている。
……永遠に何を夢見た?
この世の先がどうなるのか、ただ見たかった。それだけだ。
高瀬に気づかれないよう、意識の端で溜息をつく。
私が生まれたのは革命や大きな戦争が続いていた時代だ。組織の不祥事の隠蔽、嫉妬や邪推による権力争い……結局私は、軍人や諜報員としての本来の敵ではなく、味方であったはずの者に嫌われ殺された。
人生に満足などなかった。まだ終わりにはしたくなかった。
その思いが私をこの世へ執着させた。我ながら不純で卑しい動機だ。
あれから既に百年は過ぎた。
私は満足できたのか?
死神に追われてまで生き続けた甲斐はあったか?
……シキ……
シキ……
私を呼ぶ声が聞こえる。
わかっている。お前は常に私のそばにいるのだろう?
まだだ。
私には満足も絶望もまだ足りない。
人生を生ききっていない。
お前が私を甘やかすから、私はすっかりわがままになっているではないか。
死神から逃げることに必死だったはずが、今はお前に護られている気さえするぞ。
カイ……お前が私を生かし続けているのだ。
つくづくタチの悪い亡霊になったものだ。
私は、どこへ向かうのであろうな。
2
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。
完全フィクション作品です。
実在する個人・団体等とは一切関係ありません。
あらすじ
趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。
そして、その建物について探り始める。
あぁそうさ下らねぇ文章で何が小説だ的なダラダラした展開が
要所要所の事件の連続で主人公は性格が変わって行くわ
だんだーん強くうぅううー・・・大変なことになりすすぅーあうあうっうー
めちゃくちゃなラストに向かって、是非よんでくだせぇ・・・・え、あうあう
読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。
もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
【R18】彼等の愛は狂気を纏っている
迷い人
ホラー
職を失った元刑事『鞍馬(くらま)晃(あきら)』は、好条件でスカウトを受け、山奥の隠れ里にある都市『柑子市(こうじし)』で新たな仕事につく事となった。
そこにいる多くの人間が殺人衝動を身の内に抱えているとも知らず。
そして……晃は堕ちていく。
宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――
黒鯛の刺身♪
SF
毎日の仕事で疲れる主人公が、『楽な仕事』と誘われた宇宙ジャンルのVRゲームの世界に飛び込みます。
ゲームの中での姿は一つ目のギガース巨人族。
最初はゲームの中でも辛酸を舐めますが、とある惑星の占い師との出会いにより能力が急浮上!?
乗艦であるハンニバルは鈍重な装甲型。しかし、だんだんと改良が加えられ……。
更に突如現れるワームホール。
その向こうに見えたのは驚愕の世界だった……!?
……さらには、主人公に隠された使命とは!?
様々な事案を解決しながら、ちっちゃいタヌキの砲術長と、トランジスタグラマーなアンドロイドの副官を連れて、主人公は銀河有史史上最も誉れ高いS級宇宙提督へと躍進していきます。
〇主要データ
【艦名】……装甲戦艦ハンニバル
【主砲】……20.6cm連装レーザービーム砲3基
【装備】……各種ミサイルVLS16基
【防御】……重力波シールド
【主機】……エルゴエンジンD-Ⅳ型一基
(以上、第四話時点)
【通貨】……1帝国ドルは現状100円位の想定レート。
『備考』
SF設定は甘々。社会で役に立つ度は0(笑)
残虐描写とエロ描写は控えておりますが、陰鬱な描写はございます。気分がすぐれないとき等はお気を付けください ><。
メンドクサイのがお嫌いな方は3話目からお読みいただいても結構です (*´▽`*)
【お知らせ】……小説家になろう様とノベリズム様にも掲載。
表紙は、秋の桜子様に頂きました(2021/01/21)
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる