167 / 199
2043ー2057 高瀬邦彦
81-(1)
しおりを挟む
高瀬の意識の空間は、何もなくただ明るい。天の向こうは見えない。明るい壁の向こうは見えない。
カイ……。
私はここから出られないのか? 高瀬が死ぬまで亡霊として高瀬に取り憑くことになるのか?
相馬はイオンに入れたではないか。ここから出ることさえできれば、私もイオンに移れるはずだったのだ!
ガッ
伏したままの私を蹴り転がして仰向けにした高瀬は、無表情に私を見下ろした。
ぼんやりと見返す私と目が合うと同時に、高瀬は手を伸ばして私の首を押さえつけてきた。
「かっ……はっ……はあっ……」
……実体がなくても、苦しいな。
「抵抗しないのか?」
私を睨む高瀬の顔が近づく。朦朧とする意識の中で、絶え絶えに漏れる吐息まで強引に塞がれながら、この苦しみが永遠に続こうとも肉体を持たない私に死は訪れないことを笑った。
「何が可笑しい?」
高瀬は、今度はかすれる笑い声をその口で塞いだ。
「やめ……ろ……離せ……」
手を伸ばせばその手を引き戻され、這って逃れようとすれば痕がつくほど押さえつけられ、執拗にエネルギーを奪われる苦痛に溢れる涙さえも剥ぎ取られて憔悴する私を高瀬は笑った。
こんな牢獄にいたら、気が狂いそうだ。
カイ……私がここから出る方法はないのか? このまま全て奪われて消えるしかないのか?
カイ……。
その名は魂に刻まれている。私はその名しか望まない。
ただ欲しい。死神だけが与える苦痛と恐怖の恍惚を私は欲している。
「何を考えている?」
私の顔を掴んで尋問する高瀬にも憔悴の色が浮かぶ。
そうだ。お前こそいい迷惑だな。
出て行くはずの私は未だここにいる。
「あなたは私を殺そうと思わないのか?」
私を見つめる瞳には怖れがはっきりと表れていた。
「あなたは、私の魂とやらを追い出して肉体を奪えるのだろう? 私に成り代わって生きられるのだろう?」
高瀬は答えを待たず私から離れると、倒れるように床に仰向けになって目を閉じた。
高瀬は私以上に絶望している。自分に取り憑く得体の知れない存在に本能的な恐怖を抱いている。
お前こそ、奪いつくせば私を消滅させられるかもしれないぞ。
なぜ、やらない?
わずかに動く力さえ残っていないというのに、考えることだけはできる自分が恨めしかった。
きっともうだいぶ以前から、私の輪郭はぼやけていたのだ。
この身体から抜け出す力は既にないのか……。
カイ……。
私はここから出られないのか? 高瀬が死ぬまで亡霊として高瀬に取り憑くことになるのか?
相馬はイオンに入れたではないか。ここから出ることさえできれば、私もイオンに移れるはずだったのだ!
ガッ
伏したままの私を蹴り転がして仰向けにした高瀬は、無表情に私を見下ろした。
ぼんやりと見返す私と目が合うと同時に、高瀬は手を伸ばして私の首を押さえつけてきた。
「かっ……はっ……はあっ……」
……実体がなくても、苦しいな。
「抵抗しないのか?」
私を睨む高瀬の顔が近づく。朦朧とする意識の中で、絶え絶えに漏れる吐息まで強引に塞がれながら、この苦しみが永遠に続こうとも肉体を持たない私に死は訪れないことを笑った。
「何が可笑しい?」
高瀬は、今度はかすれる笑い声をその口で塞いだ。
「やめ……ろ……離せ……」
手を伸ばせばその手を引き戻され、這って逃れようとすれば痕がつくほど押さえつけられ、執拗にエネルギーを奪われる苦痛に溢れる涙さえも剥ぎ取られて憔悴する私を高瀬は笑った。
こんな牢獄にいたら、気が狂いそうだ。
カイ……私がここから出る方法はないのか? このまま全て奪われて消えるしかないのか?
カイ……。
その名は魂に刻まれている。私はその名しか望まない。
ただ欲しい。死神だけが与える苦痛と恐怖の恍惚を私は欲している。
「何を考えている?」
私の顔を掴んで尋問する高瀬にも憔悴の色が浮かぶ。
そうだ。お前こそいい迷惑だな。
出て行くはずの私は未だここにいる。
「あなたは私を殺そうと思わないのか?」
私を見つめる瞳には怖れがはっきりと表れていた。
「あなたは、私の魂とやらを追い出して肉体を奪えるのだろう? 私に成り代わって生きられるのだろう?」
高瀬は答えを待たず私から離れると、倒れるように床に仰向けになって目を閉じた。
高瀬は私以上に絶望している。自分に取り憑く得体の知れない存在に本能的な恐怖を抱いている。
お前こそ、奪いつくせば私を消滅させられるかもしれないぞ。
なぜ、やらない?
わずかに動く力さえ残っていないというのに、考えることだけはできる自分が恨めしかった。
きっともうだいぶ以前から、私の輪郭はぼやけていたのだ。
この身体から抜け出す力は既にないのか……。
3
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
感染
saijya
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。
生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係
そして、事件の裏にある悲しき真実とは……
ゾンビものです。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
手毬哥
猫町氷柱
ホラー
新築アパートの404号室に住み始めた僕。なぜかその日から深夜におかしな訪問者がいることに気づく。そして徐々に巻き込まれる怪奇現象……彼は無事抜け出すことができるだろうか。怪異が起きる原因とは一体……
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる