182年の人生

山碕田鶴

文字の大きさ
上 下
148 / 200
2043ー2057 高瀬邦彦

72-(2)

しおりを挟む
「高瀬さん、私はあなたの身体を乗っ取るつもりはない。やるなら既にあなたの魂を追い出している。しばらく居候させて下さい。イオンに入るまでの間でいいのです。イオンは、私の『魂の器』なのです」
「魂の器……。不死を叶えるために相馬を犠牲にしたのか。大村教授は狂人であったか!」

 高瀬が肩を震わせている。その怒りが私に向いている。
 そうだ。私は罪人つみびとだ。
 申し開きのできない罪を重ね、なおも生き続けようとする私を誰も責めなかった。高瀬、お前は私を断罪してくれるのか。

「大村の名誉のために言っておきます。私は大村の肉体も奪って生きてきた。私はもっと古く昔から、他人の肉体を転々として生き続けた魂だ。大村修一に罪はない」
「何を開き直っている?  あなたがやったことに変わりはなかろう。呼び名が違うというなら、はっきり言ってやる。シキ、あなたは決してゆるされることのない罪人だ。亡霊に乗っ取られるなど誰も信じないだろうが、それでも私はあなたを赦さない」

 それでいい。赦す必要はないのだ。

「……あなたは、正しい人だ」

 私は許されない。生き続けようとする限り、謝ることは許されない。

「他人の肉体を奪えるその罪人は、今あなたの中にいるのですよ、高瀬さん。とにかく居候を認めて下さいませんか?」

 我ながら狡猾だな。自嘲の笑顔に高瀬は不敵な笑みを返してきた。

「仕方ありませんね。私に選択肢がない。ルームシェアするなら、それなりに身辺調査はしますよ?」
「お好きにどうぞ。そうでなければ、私は不審者としてこのまま裸で緊縛放置されるのでしょう?」

 不快と軽蔑の交じった視線が私を刺す。そうだ、高瀬は紳士だったな。
 高瀬が近づいて私に手を伸ばしてきた。鎖を外そうというのか?

「触れるな!」

 思わず高瀬の手を止めた。
 私の叫びを怯えと捉えたのか、高瀬は自分の優位を誇示し始めた。

「身辺調査を許可したのはあなたですよ?  何を怖れる。あなたは不審者ではないのでしょう?  だから鎖を外して差し上げますよ」

 嫌な笑い方だ。鎖を取ってその後どうするつもりだ?

「おい、私に触れるなよ?  どうしても裸にいて触りたいならば止めないが、魂が直接触れ合ったら、お前に私が混ざって二度と戻れなくなるぞ」

 高瀬がわずかに退く。
 ククッ、信じたのか?  安心しろ、混ざりはしない。だが、互いの情報が筒抜けになるのは確かだ。不用意に触れれば相手の人生全てが流れ込んでくる。お前にいきなり百六十五年は耐えられないだろう?
 大村の死の直後、相馬は望んで私の全てを受け入れた。私の魂が相馬の身体に移り、相馬を追い出すまでのわずかな間に、私たちの魂は直接触れ合いひとつになった。
 肉体とは異なる時間の流れは永遠のようでもあり、互いの存在を充分に知り尽くすまで長く深く交歓した。存在の輪郭、互いの境界と果てを知った時、永遠はそこで終わった。
 だからといって、相馬の考えがわかるようになったとは思わない。存在を知るのと考えがわかるのとは別だ。脳を解剖しても、たとえ魂が解剖できても、その中から他人の思いを掴み出すことなど到底できはしないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

トゴウ様

真霜ナオ
ホラー
MyTube(マイチューブ)配信者として伸び悩んでいたユージは、配信仲間と共に都市伝説を試すこととなる。 「トゴウ様」と呼ばれるそれは、とある条件をクリアすれば、どんな願いも叶えてくれるというのだ。 「動画をバズらせたい」という願いを叶えるため、配信仲間と共に廃校を訪れた。 霊的なものは信じないユージだが、そこで仲間の一人が不審死を遂げてしまう。 トゴウ様の呪いを恐れて儀式を中断しようとするも、ルールを破れば全員が呪い殺されてしまうと知る。 誰も予想していなかった、逃れられない恐怖の始まりだった。 「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました! 他サイト様にも投稿しています。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

見えない戦争

山碕田鶴
SF
長引く戦争と隣国からの亡命希望者のニュースに日々うんざりする公務員のAとB。 仕事の合間にぼやく一コマです。 ブラックジョーク系。

ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜

蜂峰 文助
ホラー
※注意! この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!! 『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎ https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398 上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。 ――以下、今作あらすじ―― 『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』 ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。 条件達成の為、動き始める怜達だったが…… ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。 彼らの目的は――美永姫美の処分。 そして……遂に、『王』が動き出す―― 次の敵は『十丿霊王』の一体だ。 恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる! 果たして……美永姫美の運命は? 『霊王討伐編』――開幕!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~

テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。 大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく―― これは、そんな日々を綴った物語。

レイカとタイジ あやかし相談所へようこそ!

響ぴあの
ホラー
「消滅転生!!」「封印!!」お札を使ってあやかしと対峙。 霊感魔法少女「有瀬レイカ」。 生まれつき霊感があり、見えない者が見える少女。魔法については、1分時間を止める力と、元に戻すことができる力を持つ。 同級生で片思いのあやかし使いの神社の息子で伝説の札を持つ「妖牙タイジ」に誘われ、あやかしカウンセラーをはじめることに。 かわいいモフモフ二匹、あやかし使いの中学教師や美少女のトイレの華絵さん、人体模型つくもがみのジンもメンバーに加わり、「あやかし相談所」を発足する。 縁結びのムスビさんの少し甘い初恋の話。 現代妖怪にはたくさんの種類がいて、オレオレサギサギ、カロー(過労)、ストレッサー、ホーキ(放棄)に出会い、赤と青の札を持って立ち向かう。 闇に包まれた謎の美形若手男性教師、夜神怪(やがみかい)は敵か味方か。 怪しい影を潜ませ何か目的を達成しようと近づいてくる。光と影が交差する場所を探しているようだ。その場所には特別な道ができるらしい。 中学生のレイカとタイジ、先生二人の正体と恋にも注目!

処理中です...