182年の人生

山碕田鶴

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1974ー2039 大村修一

48-(2)

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 しばらくそうして無言のまま時が過ぎた。相馬も落ち着いたらしく、ベッドに散らかした書類を集めて机に戻すと、私に横になるよう促した。

「教授、すみませんでした。僕は帰ります」

 うなだれて去ろうとする相馬の手首を掴んで止めた。

「いい。いつもと同じで構わない」

 ひとりになるのが怖かった。
 大村の寿命と死神と。私は死を意識した。
 相馬には話して良いかもしれない。吉澤識の命だけでは決して出会えなかった男だ。
 私と同じ、知ることを渇望する男。
   イオンを託すことになれば、彼以外には考えられない。いつか私の魂がイオンに入った時にも、協力者は必要だ。

「相馬君。君には私の全てを教えておこうと思うのだが。私の長い人生に興味はあるかね?」

 相馬は意外だったようで、すぐには言葉が出なかった。

「……あの、もちろんです。僕は教授をお慕いしています。教授のことは何でも知りたい」
「そうか。それは光栄だな。ああ、でもその前に答えだ。あれは魂の器だ」
「魂の、器……?」
「イオンは魂の器なのだよ。BS社がアンドロイドに人格移殖を試みているが、それとは違う。あちらは特定の個人の複製に過ぎない。あるいは影武者か。データ化した誰かの思考パターンを搭載しているだけで、本人はアンドロイドの中にはいない。私のは、違うのだ。自分の魂がイオンの身体に入って、自分自身が永遠に生きるのだ」
「はっ……たましい?  えいえん?」

 相馬は完全に動きが止まっていた。
 目が少しずつ大きく開いて、遅れて口も徐々に大きくなっていく。
 それから子供のように目が輝き出した途端、ベッドに仰向けに倒れこんだ。

 あははははは!

 声にはなっていなかったが、相馬は全身で笑っていた。手も足もバタバタと好き放題動かして、私に当たるのも構わず暴れていた。

「スッゲー!  ぶっ飛んでる!  そっちは考えなかったなあ、いやあもう限界の向こうだ!」

 ばっと私にしがみつくと何度も頭を擦りつけて何か独り言のようにつぶやいていた。

 タマシイノウツワ。タマシイノウツワ。

 どうやら相馬は私の答えが気に入ったらしい。私が本気で言っていることも理解している。

「で?  永遠に生きるとどうなるんですか?」

 いきなり顔を上げて訊いた。
 彼は既に先の先を見ていた。

「すまない、その先はわからない。私は、まだ百五十年くらいしか生きていない」
「……教授、何年生まれですか?」
「一八七八年。かつての元号で言うと、明治十一年だ」
「百六十一歳だ」

 相馬は、今度は笑わなかった。
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