182年の人生

山碕田鶴

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1974ー2039 大村修一

44-(3)

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 私が苦笑していると、隣で相馬そうまも笑った。

「美の価値観なんて人それぞれですよ。僕は僕だし、あなたはあなただ。それに教授は人生の大先輩なんだから、イオンより美しい宇宙人と既に知り合いかもしれない」
「相馬君は相変わらずバカね」

 早川はあからさまに嫌そうな顔で出て行った。年上の後輩研究員、相馬智律とものりとは相性が悪いらしい。
 相馬は非常に優秀な男だった。爽やかで理知的な相貌の割に子供っぽい印象が強いが、これまで様々な研究施設を渡り歩いたらしく、NH社に来てから群を抜いて成果を出し続けていた。柔軟で偏りのない思考と抜群のひらめきを持ち、国内有数の特許取得者であった。まだ四十手前だが、大村の後継者は彼以外に考えられなかった。

「あーあ、僕は嫌われていますね。まあ、仕方ないですね」

 淡々と現状を受け入れ流していく。研究棟にこもり自室スペースまで用意してイオンと同居し続ける私のことも、どうとも思っていない様子だ。

「ああ、教授がイオンと同棲してずっと独身だからといって、変な性癖だなあとか思ったりしてませんから」
 こいつは勘も良かった。そして、好奇心が人一倍強い。

「教授は宇宙人に会ったことありますか?  僕の友人は何人か会っているらしいんですが、機密情報だと言って話してくれないんですよね」

 屈託無く笑うが、目は私を観察している。彼が死神でないことは確かだ。雰囲気が違う。NH社内部の監視役でもないだろう。純粋な好奇心か。

「私は宇宙人に会ったことはないが、この世ならぬ者、人ならざる存在は見知っている。……とても怖ろしく、だが、あれ以上美しい存在を私は他に知らない」

 相馬は嬉しそうに聞いていた。彼がもし私と同様に魂を動かせる存在であるなら、いつかアンドロイドを魂の器として永遠に生きることを望むかもしれない。
 私は相馬に親近感を持った。彼もまた、私が彼の理解者であると認識しているらしい。私は生まれて初めて、真に友を得たような気がしていた。
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