182年の人生

山碕田鶴

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1974ー2039 大村修一

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 私が苦笑していると、隣で相馬そうまも笑った。

「美の価値観なんて人それぞれですよ。僕は僕だし、あなたはあなただ。それに教授は人生の大先輩なんだから、イオンよりも美しい宇宙人と既に知り合いかもしれない」
「相馬君は相変わらずバカね」

 早川はあからさまに嫌そうな顔で出て行った。年上の後輩研究員、相馬智律とものりとは相性が悪いらしい。
 相馬は非常に優秀な男だった。爽やかで理知的な相貌の割に子供っぽい印象が強いが、これまで様々な研究施設を渡り歩いたらしく、NH社に来てから群を抜いて成果を出し続けている。柔軟で偏りのない思考と抜群のひらめきを持ち、国内有数の特許取得者でもあった。まだ四十手前だが、大村の後継者は彼以外に考えられなかった。

「あーあ、僕は嫌われていますね。まあ、仕方ないですね」

 淡々と現状を受け入れ流していく。研究棟にこもり自室スペースまで作ってイオンと同居し続ける私のことも、どうとも思っていない様子だ。

「ああ、教授がイオンと同棲してずっと独身だからといって、変な性癖だなあとか思ったりしていませんから。ただ、いつも夜になったらイオンたちと何しているのかなーって、そこには関心がありますけどね」

 こいつは勘が良かった。そして、好奇心が人一倍強い。

「教授は宇宙人に会ったことありますか? 僕の友人は何人か会っているらしいんですが、機密情報だと言って話してくれないんですよね」

 無邪気に笑うが、目は私をしっかり観察している。
 彼が死神でないことは確かだ。雰囲気が違う。NH社内部の監視役でもないだろう。
 NH社内には相互監視の目が働いていて、上司が部下の行動に留意するのと同様、所長の私も常に上層部へ報告される立場にある。情報漏洩など自社に不利益になりそうなことを確認しているだけだというが、実態は不明だ。
 相馬は数年前に入社した当初から私を観察し続けている。視線に気づかないふりをしているが、たまに見返すと嬉しそうな笑顔になる。変なものに懐かれたが、不利益はこうむっていないので放ってある。

「私は宇宙人に会ったことはないが、この世ならぬ者、人ならざる存在は見知っている。……とても怖ろしく、だが、あれ以上美しい存在を私は他に知らない」

 相馬は嬉しそうに聞いていた。突拍子もない私の過去をも抵抗なく受け入れてくれそうな雰囲気に、自分のこれまでを話してやりたい誘惑に駆られる。お前もこの世の全てを知りたいか? 彼がもし私と同様に魂を動かせる存在であったなら、いつかアンドロイドを魂の器として永遠に生きることを望むかもしれない。
 私は相馬に親近感を持った。
 相馬もまた、私が彼の理解者であると認識しているらしい。私は生まれて初めて、真の友を得たような気がした。



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