182年の人生

1974ー2039 大村修一

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　Neo-HCD社。現在の私、大村修一が教授として所属するアンドロイド開発の企業だ。
   Human  Centered  Design。人間中心設計、いわば人間の快適性、安全性などを重視したものづくりの意味を冠した会社は、マツカワ電機が半官半民事業に参入して設立された。松川会長は、本当に後世に名を残したのだ。
　二十一世紀初頭、既にAI搭載アンドロイドは完成していた。NH社は、サービス業種の労働力としてより人間的な機械を開発すべく研究を続けている。
   真の目的である軍事政治的利用については、当然ながら表に出ることはない。研究のごく一部を数年後に民生転用しているのが実態だ。
　研究開発の最先端を担う裏部門は地方の過疎地に広大な研究施設と職員の居住区を有し、立ち入りは厳重管理されている。外部との接触を断つのにこれほど適した場所はない。
　配属された職員は社会的にも隔離され、存在自体が隠されたような状態だった。
　遠藤の刑が執行されてからは四十五年が過ぎていた。私は七十五歳になっていた。
　秋山の時のように死神がひたひたと迫り来ることを想像して、私は長らく怯え続けた。 
   遠藤の死後二十数年が経った頃には職員寮から研究棟内の一室に居を移し、以降棟内から出ることをほとんどしなくなっていた。
   研究棟は正式な居住空間ではないため職員寮の契約は続いているが、元々ほぼ何も置いていない。私的な痕跡を残さない習慣は相変わらずだった。
　死神を意識の外に追い出すために、私はアンドロイド「イオン」の開発に没頭した。だが、死と死神から逃れるための魂の器は、かえって死神を強烈に想起させた。
   姿を現さないままに私を追い詰めようというのか。疑心暗鬼の私の心は、勝手に死神に囚われていた。
   ボディ開発は別部署の研究棟があるので、私の研究棟には職員が数名しかいない。それでも安心することができなかった。
   遠藤が死んだ年、すなわち死神が生まれたのと同じ年に生まれた者との接触を避け、他の研究棟を含めて異常なほどに周囲を気にした。
　私は神経質で偏屈な研究者と捉えられていたようだ。ただ、特許事案を多く抱えていたことで、情報管理に厳格であると解釈されたらしい。現に研究員の早川は、特に気にするふうもなく接してくれている。

「教授、ご存知ですか？  最近BS社は過去の偉人だけでなく、昔のアイドルを再生してサイン会を開いたそうですよ。だったらこちらは、イオンを新人アイドルとして売り出せますね」

　研究棟で彼女はイオンたちを眺めながら笑った。