182年の人生

山碕田鶴

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1940ー1974 秋山正二

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 戦後の高度成長期は、科学技術が飛躍的に発展した時期だった。車、鉄道、飛行機、船、あらゆる物が日々進化を遂げ、家電の普及で生活も激変した。
 小林製糸は消えたが、同時期に発展した製糸紡績企業のいくつかは多角的経営の大企業に成長していた。私が最も関心を持ったロボット産業も急成長したが、人型のいわゆるアンドロイドは倫理的問題が多く、軍事機密の名の下に世間から隠されていった。
 大学の研究などで時折それらしい最先端を発表しながら、軍事に寄った研究機関は完全に隔離され、報道規制の対象となっていた。
 平和の象徴であった西村のロボット「學天則がくてんそく」は、その後行方不明になったと聞く。西村が新たなロボットを作ったという話も聞かない。
 私は工場の転職を重ねながら、着実にアンドロイド研究に近づいていった。
 吉澤識だった私が持ち得たものは、貿易商の知識と経験、創業者一族としての会社経営や社交術、諜報員となるべくして受けた特殊な専門教育、道楽三昧の日々に見知った本物の道楽者たちから教わった処世術だ。後に小林製糸での経験が、工業方面の知見を広げてくれた。
 工学的素養は皆無だが、専門家に取り入り知識を得ることはできる。門外漢の私が研究開発に関わる人間と縁を作るには、飲み屋で偶然出会い、意気投合するのが一番の早道だった。
   利害関係のない相手は信頼されやすい。偶然の出会いに運命を感じる人間も多い。警戒する相手ほど、一度打ち解けると気を許しやすい。
 秋山の酒依存もここでは役に立った。

「いやあ、秋山君は若いのに博学だねえ。田舎者で学もないと言うが、どうしてどうして。君、そのアイデアの価値をわかっているかい?」
「恐れ入ります。私は、西村という生物学者だった新聞記者が作った人造人間の報道を見てから、ロボットにずっと憧れていたんです。飲み友達だと思っていた松川さんが、まさかロボットを作る会社の、それも社長さんだなんて驚きましたよ。こんなご縁もあるものなんですねえ」

 場末の飲み屋に週末ふらりと寄るが好きな庶民派の社長、松川。製造業全般の工場用機械を受注生産している。これからのロボット産業を発展させるに違いない男だ。
 私は酒場の顔馴染みとして松川に徐々に接近し、松川の事業の利益に直結するアイデアを小出しにしながらふとした思いつきのように語ってきた。釣堀りより楽な釣りだ。
 松川の会社はまだ小さな町工場に過ぎないが、必ず国に影響力を持つほどの大企業に成長する。
 松川の方は、金のなる木を見つけたと思っているに違いない。
 松川に請われて一従業員となった私は、企業の成長に繋がる裏方仕事を密かに担当するようになっていった。
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