宇宙人は恋をする!

山碕田鶴

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6章 幼年期のオワリ

95.オワリ(41/43)

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 車が出発すると、私のとなりに座った藤井君はすぐに眠ってしまった。
 今朝は早かっただろうし、色々あって疲れたよね。
 それにしても、すごくキレイな顔だな。
 寝顔を見ちゃうのは反則な気がするけれど、ちょっとだけ。
 中学校で同じクラスになって、気になって遠くから見ていたけれど、こんなにおだやかな感じは初めてかもしれない。
 私もうとうとしていたら、パパと銀太郎の声が聞こえてきた。

 ……ハラカ……ポレポーレー……

 なんだか子守歌みたい。あ、来る時にも同じことを言っていたな……。

「……あぶないってば。ゆっくり、安全運転してよ?」

 銀太郎のポレポーレと日本語が混ざる。
 同時通訳みたいに聞こえてくる。

「銀太郎、やっぱり車は怖い?」
「地球製品は全部怖いよ。だいたい、ぶつかりそうになったらよけられないでしょう」

 ……ああ、パパたちテレパシーで会話しているんだ。

「……直接伝える方がボクはやっぱり楽だよ。二人とも眠っているみたいだし、フルオープンでいいよね?」
「僕も銀太郎の地球母語は不十分だから、テレパシーの方が助かるよ」

 私にも聞こえているけれど、半分夢の中にいてぼんやりと言葉を拾っている感じがする。
 楽しそうだな……。
 今度の忘年会は特別豪華だねって、銀太郎が笑っている。
 藤井君のお家で荒井さんも待っているって、パパが話している。

「……ねえ銀太郎。葵ちゃんは銀太郎にとって特別なアサガオなのだと僕は勝手に思っていたけれど、ちがったんだね。まあ、僕がとやかく言うことでもないか」

 あれ……私の話……だ。

「特別なアサガオだよ。アオイちゃんは宇宙一大事なアサガオ」
「あはは、宇宙一か。確かにみんな、地球人をペットだ観葉植物だって言っているけれどね。銀太郎のはちがうんじゃないかな。……僕、宇宙人が地球人に恋をするなんて初めて知ったよ」
「恋?」
「葵ちゃんの言葉にいちいち反応したりからかったり、藤井君のことでヤキモチをやいたりイライラしたり。それに、葵ちゃんが自分を見てくれているのをしょっちゅう確認して安心している。すごく必死に見えたんだよ。相手が観葉植物なら、そこまで感情的になったりしないでしょう?」
「ボクはアオイちゃんを大切にして、大切にして、アオイちゃんが喜ぶことならなんでもしてあげたいし、いくらでもかわいがってあげたいんだ。それなのに、なんだかすぐに逃げられちゃうんだよ。ボク、嫌われているのかな。そんなことはないはずだって思って、ボクだけを見てほしくて、独り占めしたくて……その気持ちを恋と呼ぶのなら、宇宙人のボクだって恋はするんだよ。おかしいかな? ボクはアオイちゃんが大好きだよ。ボクがアオイちゃんを思うことをパパ様は許さない?」
「それは葵ちゃんが決めることだよ。時空の感覚が全くちがう二人がそれを飛び越えたらどこへ向かうのか、そんなの僕にはわからない。ただ、二人にしかたどり着けない未来はスケールが大きくてカッコイイだろうなあってね。そう思っていただけ。パパとしては、心の準備をしておかないとね。あははは」
「ケイちゃんは相変わらず何があっても動じなさそうだね。ボクね、アオイちゃんに、これからはアオイちゃんのために人生をささげるって言ったことがあるんだ」
「え、と……プロポーズ?」
「ボクは地球防衛隊のパイロットだから、アオイちゃんを守る気持ちで地球を守るという意味だよ。地球を守ることはアオイちゃんを守ることにつながる。そう思ったら、パイロットであることがますますほこらしくなったよ。ケイちゃんならわかるでしょう? ボクはパイロットとして地球にいるんだ。アオイちゃんと一緒に生きることはできない。そもそも生きる世界がちがう。アオイちゃんにどれだけ恋しようとも、特別なアサガオとして遠くから見守り続けるのが二人のちょうどの距離なんだよ。だから、パパ様は心配ゴムヨウ準備もゴムヨウ」
「うん……」
「近いうちに今度こそお迎えが来る。そこでサヨナラなんだ。でも、これからも地球に咲く特別なアサガオをボクは守り続けるよ。ボクはアオイちゃんのためには生きられないけれど、アオイちゃんのためなら死ねる。その気持ちはずっと変わらない」
「うん……」

 ほとんど夢の中で、二人の声が静かな波のように寄せては返す。
 とても大事な言葉を聞いたような気がするけれど、目が覚めたら夢と一緒に忘れ去ってしまうのかな……。
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