宇宙人は恋をする!

山碕田鶴

文字の大きさ
上 下
1 / 106
1章 未知とのソウグウ

1.ソウグウ(1/8)

しおりを挟む
 宇宙人は絶対にいる。
 そんなことを言ったら、変な目で見られそうだけれど。
 中学一年生にもなってお子様過ぎだと、友だちに笑われるかな。
 でも、宇宙人はいる。
 だって今、私のとなりで棒アイスを食べているもの。おいしそうに。満足そうに。

「ああ、これはおいしいでし。ごちそさまですた」
「う、が抜けてる。あと、すじゃなくて、し」
「う?  し?」
「ごちそ、う、さまで、し、た」
「ああ、しつれーしました」

 宇宙人は日本語を話せるらしい。
 かなりあやふやだとはいえ、世界で一番覚えるのが難しいらしい日本語を外国、しかも海も空も越えてはるばるやって来た宇宙人が話せるのはすごい。

「翻訳アプリとか、ないの?」
「いえ、語学は趣味でして。日々これ勉強なり、でし。英語ならもっとオーケーでしけど。アーユーオーケイ?」
「無理、無理。ノーサンキュー!」
「では、つたない日本語にてしつれーしまし」

 はぁ。
 やっぱり英語って世界共通語なんだ。これからしっかりと英語は勉強しよう。

「ところで、コレはなんと読みましか?」

 宇宙人は勉強机の上に置かれたプリントを指差していてきた。文字も読むのか。
 私はゆっくりと発音してあげた。

「カワカミ、アオイ。私の名前」
「アオイ様。ほお」

 宇宙人は細長い指先で、「川上葵」をていねいになぞった。
 今日の授業で返されたミニ漢字テストのどこに感心しているのかわからないけれど、紙に穴があきそうなほど見つめている。
 真っ黒い大きな目だ。
 全身が銀色でツルツルしている。背丈は私より少し小さくて、手足が長くて、とりあえず人間みたいに見える。
 しっぽは、ない。
 ああ、グレイっていうの?  円盤型UFOとセットで絵に描かれるみたいな、いかにもな宇宙人。
 正直、キモチワルイ。
 話が通じなかったら、秒で敵認定していると思う。

「では、こちらは?」

 もう一枚のミニ漢字テスト。
 記名部分を指さしている。

「……フジイ、ツカサ」
「?」
「まちがえて重ねて返されたの。二枚くっついているのに気づかないで持って帰って来ちゃった。それ、同じクラスの男の子の名前。今日お休みだったんだ」

 ちょっと気になっているイケメン男子、藤井司君。
 私の推しアイドル、滝川蓮たきがわれん君に似ていて、勉強ができて、なんだか王子様キャラで。
 この宇宙人も、どうせなら蓮君そっくりだったら良かったのに。
 そもそも、なんで私の部屋に宇宙人がいるのか。
 それは、私が願ってしまったからだ。
 ただし、私は宇宙人に会いたいなんて願ってはいない。

「スミマセン」

 そう、コレが勝手に呼ばれたとかんちがいして、私の前に現れちゃったの。

「……って、なんで心の声に反応しているのよ?  え⁉︎  心が読めちゃうの?  ウソ⁉︎  ちょっと!  のぞき見は犯罪なのっ、サイテー!!」
「わあ、スミマセン。テレパシーかと。ルール守りましから。心の中の声、もう聞きませんでしから!」

 大げさに土下座する宇宙人なんて初めて見た。まあ、宇宙人自体が初めてなんだけれど。
 私が願ったのは、藤井君のこと。
 顔がイイという理由で小学生の頃から有名人の彼は、中学に入学してまだ三ヶ月ちょっとなのに先輩たちにも知られている。まるで芸能人みたい。
 私も直接話したことはないけれどウワサで知っていたから、彼を気にして変に構えてしまっていた。
 今日の国語の時間に返されたテストが二枚重なっていたのに気づいたのは家に帰ってからだった。
 よりにもよって、あの藤井君の答案用紙だ。本人に会ったわけでもないのに緊張で手がふるえた。
 彼はもちろん満点で、字もキレイでていねいで。テスト用紙まで王子様だ。
 明日は来るかな。テストを返さないといけない。
 これって、彼と話すチャンスじゃない?
 あんまりラッキーでうれしくて、その勢いで私は窓を開けて夜空の星に願ってしまったの。

「明日、藤井君にちゃんとテストを返せますように。ちょっとだけでも話せますように!」

 願いが小さすぎて自分でも小モノだと思ったけれど、相手は別世界の王子様だから仕方がないと気を取り直したところで流れ星が見えた。
 私って運がいいかも。

「あなたとお話してみたいんですっ!」

 どうか、どうか、藤井君と……。

 もう全力でお願いをした。
 流れ星が三角形に見えたことも、ずいぶんと近くで光っていたこともどうでも良かった。
 変な銀色が目の前に現れるまでは。

「ワタシもお話してみたかったでし。ちゃんと通じてまづ?  ワタシの日本語、オーケー?」

 気づくと、うれしそうに異文化交流を期待する宇宙人が部屋にいた。
 しかも、私と目が合って急いでここに来たから体が燃えそうだと言う。冷たい物が欲しいと訴えて、ちゃっかり「アイスがいい」なんて要求する始末。
 怒らせたら何をされるかわからないし、めんどうだからとりあえずアイスを出してさっさと帰ってもらおうというのが、今現在の状況というわけ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...