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第23話
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次の日、大高さんと一緒に電車とバスを乗り継いで、野内君と約束した場所へ行く。
大高さんはすごく緊張していて、それが伝わってくるので私まで緊張する。
約束の場所には早く着いているのだけど、野内君が来るまでの時間は物凄く時間が遅く感じる。1分が10分くらいの感覚だ。誰かが近付いてくる度にドキッとする。
店員さんに案内されて野内君がやって来た。
「お待たせしてすみません。」
そう言って私達を見て、にっこり微笑んだ。
野内くんは私服に着替えてるので、また印象が違う。
「コックコートで来るかと思ってたから、意外。なんか別人に見える。」
と私が言うと、
「流石にそれは無いですよ。」と野内君ははにかんだ。
野内君は紅茶を注文してこちらを向き、少し照れた表情になる。
「忙しいのに呼び出してごめんなさい。山口に帰るって言ってたんだけど、どうしても野内君に話したい事があったの。
正確に言うと大高さんが話したい事なんだけど。」
「うん、分かりました。で、話というのは?」
「………。」
大高さんは緊張した面持ちで、なかなか話を切り出さない。
私と野内君が大高さんの顔を覗き込むと、下を向いて益々話辛そうになった。
「えっとー、大高さんが話辛そうなので、ちょっと出しゃばらせていただいて…。
今日、野内君をわざわざ呼び出したのは、大高さんの娘さんの話です。」
私は野内君の休憩時間を心配して、大高さんが話出すのを待っていられず、つい喋り出した。
野内君はまだピンときてない。
大高さんがまだ俯いたままなので、私が続けて話する。
「昨日一緒に野内君のお店に来た大高さんの娘さんは、実は野内君の子だそうなの。」
「…え?」
野内君はポカンとしている。
「もう一回言うね、あの女の子は、野内君と大高さんの間にできた子どもなの…です。」
と私はもう一度繰り返した。
「えーっと…?」
野内君はそれ以上何も言わず、困った顔をして首を傾げている。
「ご、ごめんなさい!う、嘘なの!今言った事は嘘だから忘れて!」
野内君の様子を見て、耐えかねた大高さんが泣きそうに震えてこう言い、席を立とうとした。
私は大高さんが逃げて行くのだと思い、大高さんの腕をグッと強く握り立ち上がるのを防ぐ。
「ここまで来て、“嘘”にするのはダメだよ。ちゃんと話しないと!」
私は力強く大高さんを諭す。
「野内君にも光莉ちゃんの存在を伝えて、知ってもらおう!先ずはそれ!」
「あ、そ、そう…。びっくりしてしまって何がなんだか…、す、すみません。他の感情ではなくて、ただ本当にびっくりして…。
ちゃんと話してください。オレも聞きたいです。」
野内君も拒絶ではなさそうな反応をした。大高さんは少し声を震わせて、小さな声で話出す。
「い、今更こんなこと言われても、ただ困るだけだと思うけど…、昨日一緒にいた女の子はあなたの子です。
野内君とそういう関係になったのは1回だけだから、到底信じてもらえないかもしれないけど、本当にそうなんです。恥ずかしながら…私がそういうことしたのは、私の人生の中であの1回だけなので…。」
その言葉に私はかなり動揺したけど、そういう反応すると絶対ダメだと思ったので、平然を装う。
黙って聞いた野内君は、
「あの…本当にただ混乱してるだけで、決して困るとかそう言う感情は無いんですが、少しだけ時間をもらえないでしょうか…?
必ず連絡しますので。」と言った。
「はい…そうですよね…。」
大高さんはがっくりと肩を落としている。
「私、余計なことついでに、言います。昨日とか、大高さんの話を聞いて考えてたんですけど、最近は個人でも親子関係を調べることができるので、そういうのしたらもっと実感が沸くというか、スッキリするかもしれないと思いました。
突然の事で、アレコレ考えるのは難しいかもしれませんが、それも合わせて検討してみてはいかがでしょうか?
それから私がこんなデリケートな話に同席してすみませんでした。」
「いえ、こちらこそ…。」
野内君は自分の店に戻らないといけないということで席を立ち、いろんな所にぶつかりながらヨタヨタと歩いて出て行った。
大高さんはなかなか気持ちが落ち着かず、どんよりとした空気を漂わせ、
「やっぱり言わなきゃよかった…。」
とボソッと呟いて泣いた。
「だ、大丈夫よ。困ったという感情ではないって言ってたし…ね、ちょっとだけ野内君の気持ちの整理がつくのを待とうよ。」
と励ますけど、私は心の中で『余計なことしちゃったなー』と後悔していた。
どんよりとした空気のまま、大高さんのアパートまで帰ってきた。
大高さんは術後での移動も体に響いたみたいで、帰ってすぐ布団に潜って眠ってしまった。
私は自分の携帯のことは諦めがついていたけど、また帰るタイミングを逃してしまった。
駅から歩いてくる途中にスーパーを見かけたので、そこへ買い物に行き、台所を借りて夕食を作る。
田原の家でも作っていたけど、勝手の違う台所だとまた違和感を感じて山口の自分の家が恋しくなる。
なんか…ギューってしてほしい…。
しばらく心の中で“アイツ”呼ばわりしてたけど、夫にすごく会いたくなった。
大高さんはすごく緊張していて、それが伝わってくるので私まで緊張する。
約束の場所には早く着いているのだけど、野内君が来るまでの時間は物凄く時間が遅く感じる。1分が10分くらいの感覚だ。誰かが近付いてくる度にドキッとする。
店員さんに案内されて野内君がやって来た。
「お待たせしてすみません。」
そう言って私達を見て、にっこり微笑んだ。
野内くんは私服に着替えてるので、また印象が違う。
「コックコートで来るかと思ってたから、意外。なんか別人に見える。」
と私が言うと、
「流石にそれは無いですよ。」と野内君ははにかんだ。
野内君は紅茶を注文してこちらを向き、少し照れた表情になる。
「忙しいのに呼び出してごめんなさい。山口に帰るって言ってたんだけど、どうしても野内君に話したい事があったの。
正確に言うと大高さんが話したい事なんだけど。」
「うん、分かりました。で、話というのは?」
「………。」
大高さんは緊張した面持ちで、なかなか話を切り出さない。
私と野内君が大高さんの顔を覗き込むと、下を向いて益々話辛そうになった。
「えっとー、大高さんが話辛そうなので、ちょっと出しゃばらせていただいて…。
今日、野内君をわざわざ呼び出したのは、大高さんの娘さんの話です。」
私は野内君の休憩時間を心配して、大高さんが話出すのを待っていられず、つい喋り出した。
野内君はまだピンときてない。
大高さんがまだ俯いたままなので、私が続けて話する。
「昨日一緒に野内君のお店に来た大高さんの娘さんは、実は野内君の子だそうなの。」
「…え?」
野内君はポカンとしている。
「もう一回言うね、あの女の子は、野内君と大高さんの間にできた子どもなの…です。」
と私はもう一度繰り返した。
「えーっと…?」
野内君はそれ以上何も言わず、困った顔をして首を傾げている。
「ご、ごめんなさい!う、嘘なの!今言った事は嘘だから忘れて!」
野内君の様子を見て、耐えかねた大高さんが泣きそうに震えてこう言い、席を立とうとした。
私は大高さんが逃げて行くのだと思い、大高さんの腕をグッと強く握り立ち上がるのを防ぐ。
「ここまで来て、“嘘”にするのはダメだよ。ちゃんと話しないと!」
私は力強く大高さんを諭す。
「野内君にも光莉ちゃんの存在を伝えて、知ってもらおう!先ずはそれ!」
「あ、そ、そう…。びっくりしてしまって何がなんだか…、す、すみません。他の感情ではなくて、ただ本当にびっくりして…。
ちゃんと話してください。オレも聞きたいです。」
野内君も拒絶ではなさそうな反応をした。大高さんは少し声を震わせて、小さな声で話出す。
「い、今更こんなこと言われても、ただ困るだけだと思うけど…、昨日一緒にいた女の子はあなたの子です。
野内君とそういう関係になったのは1回だけだから、到底信じてもらえないかもしれないけど、本当にそうなんです。恥ずかしながら…私がそういうことしたのは、私の人生の中であの1回だけなので…。」
その言葉に私はかなり動揺したけど、そういう反応すると絶対ダメだと思ったので、平然を装う。
黙って聞いた野内君は、
「あの…本当にただ混乱してるだけで、決して困るとかそう言う感情は無いんですが、少しだけ時間をもらえないでしょうか…?
必ず連絡しますので。」と言った。
「はい…そうですよね…。」
大高さんはがっくりと肩を落としている。
「私、余計なことついでに、言います。昨日とか、大高さんの話を聞いて考えてたんですけど、最近は個人でも親子関係を調べることができるので、そういうのしたらもっと実感が沸くというか、スッキリするかもしれないと思いました。
突然の事で、アレコレ考えるのは難しいかもしれませんが、それも合わせて検討してみてはいかがでしょうか?
それから私がこんなデリケートな話に同席してすみませんでした。」
「いえ、こちらこそ…。」
野内君は自分の店に戻らないといけないということで席を立ち、いろんな所にぶつかりながらヨタヨタと歩いて出て行った。
大高さんはなかなか気持ちが落ち着かず、どんよりとした空気を漂わせ、
「やっぱり言わなきゃよかった…。」
とボソッと呟いて泣いた。
「だ、大丈夫よ。困ったという感情ではないって言ってたし…ね、ちょっとだけ野内君の気持ちの整理がつくのを待とうよ。」
と励ますけど、私は心の中で『余計なことしちゃったなー』と後悔していた。
どんよりとした空気のまま、大高さんのアパートまで帰ってきた。
大高さんは術後での移動も体に響いたみたいで、帰ってすぐ布団に潜って眠ってしまった。
私は自分の携帯のことは諦めがついていたけど、また帰るタイミングを逃してしまった。
駅から歩いてくる途中にスーパーを見かけたので、そこへ買い物に行き、台所を借りて夕食を作る。
田原の家でも作っていたけど、勝手の違う台所だとまた違和感を感じて山口の自分の家が恋しくなる。
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