上 下
128 / 198
第十三章 流星群が降り注ぐ夜に

私が勘違いしそうで

しおりを挟む
 空中庭園の中に入る。

 ここは、とても静かだ。

 学園の外と校内では、すれ違う生徒たちはいたけど空中庭園に近付く度に徐々にすれ違う人達は減っていく。

 もう少しで空中庭園に着く頃には誰一人としてすれ違わなかった。

 ーーそれもそのはず、

 空中庭園は、王族しか入れない。王族の誰かが許可をするなら入れる場所ではある。

 私は、殿下に許可された。だから入れる。もちろん許可されたからとはいえ、自由に行き来出来るわけではない。

 許可されたその日だけ入れる。

 私は迷わず奥に進み、ガゼボまで来る。

 殿下はまだ来てないようだったので、少し探索してみようと思った。

 きっと、妃候補の令嬢たちに捕まってるだろうから。

 人気者って大変だなぁ。

 近くの花壇に近付いて、しゃがみこむ。

 色鮮やかな花はとても美しく、眺めているだけでも心が癒される。

 そういえば、デメトリアス家だと白薔薇ぐらいしかなかったからなんだか新鮮。

 お義母さまが薔薇好きだから薔薇を育ててるのはわかるんだけど……、

 なんで薔薇にこだわってたんだろう。花の中で一番薔薇好きってわけではなさそうだったのよね。

 散歩しててもあんまり薔薇を見ていなかった。むしろ、どこか切なくて懐かしむような……。

「ソフィア嬢」

 考えごとをしていると、声をかけられる。思っていたよりも早くてビクッと肩を震わせて声の主を見た。

「ごめん。驚かせちゃったね」

 はにかむ様に笑う殿下は、若干息切れと汗をかいていた。

「いいえ。お待ちしてました」

 私は立ち、殿下に近付いた。

 ーーその時だった。

 ガラス越しからは、細く光る何かが見え始めた。

 光る何かを見ようと私と殿下は夜空を見上げる。

 星たちが後ろに長い光の尾を引いて地上に降りてくるようだった。

 とても光り輝いていて、周りが薄暗いのも合わさってとても綺麗だった。

 本当に天女が泣いているような……そんな気さえする。

 流星群に夢中で魅入っていると、隣から「ふふっ」と、笑う声が聞こえた。

 私は声の主である殿下を見た。

「キミを誘って良かったよ。楽しそうな顔、はじめてみた」
「そう、でしたっけ?」

 星の光で見える殿下の顔は、とても蠱惑的だった。

 色っぽさがある美しい容姿は、誰もを惑わす魅力がある。

 元々推しでもあるから、余計に胸がドキドキと高鳴って興奮してしまう。今一人だったら確実に悶えてた。

 殿下の顔を見てられなくて顔を逸らし、照れ隠すように右側の横髪を耳にかける。

「ソフィア嬢は、俺を見る度に何かしら怯えていたからね。そんなに怖かった?」
「い、いえ! 怖くないです。殿下はいつも優しいですので」

 そう、殿下はいつも私に優しい。だから勘違いはしたくない。誰にだって優しいのだから。

 私は殿下を見る。アイドル級な顔立ちに目眩がしてよろけそうなのを必死に抑え、冷静さを装った。

「ですから、もう私には優しくしないでください」

 はじめてあった頃は、その優しさが恐怖だった。常に裏があると思っていたから、私には他者の裏の裏を読むというのが苦手だから余計に恐怖の対象でもあった。

 でも今は、恐怖というよりも安らげる。殿下の優しさに慣れ始めているんだ。

 一番恐れている推しとしての恋から、恋愛としての恋になっていきそうだった。

「それは……俺が反対したからか? 俺の呪いを解くのを」
「違います! ……私が……勘違いしそうで」

 呪いを解くことに関しては、説得を試みようとは思っていた。

 でも、きっと何を言っても殿下の心は変わらないだろうなと。

 だったら、私の今の心境を伝えたうえで殿下の気持ちを直接聞いてみよう。

 そうした方が、言いやすいだろうと私は考えた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】 小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。 その運命から逃れるべく、九つの時に家出して平穏に生きていたが。 ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。 その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。 優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。 運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。 ※話数は多いですが、1話1話は短め。ちょこちょこ更新中です! ●3月9日19時 37の続きのエピソードを一つ飛ばしてしまっていたので、38話目を追加し、38話として投稿していた『ラーラ・ハンナバルト①』を『39』として投稿し直しましたm(_ _)m なろうさんにも同作品を投稿中です。

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

処理中です...