23 / 82
23
しおりを挟む
カロクは、シリルの反応に困惑していた。
原作の設定では、父ほどでは無いけれど、優しい母を亡くす原因となったカロクを疎んでいるはずだ。
さらにカロクは素行が悪かった。それはひとえに置かれた環境によるものだったのだが、それが兄弟の溝をより深いものとしていた、とゲームの設定にはあった。
だが今のシリルからは、嫌悪どころか好意すら感じる。
未来が変わったのだろうか?
頭を撫で続けるシリルに困惑していると、ふとシリルの視線がカロクの腕の中にある本へと落ちた。
「本を読みに来たのか?」
「は、い‥。」
シリルの問いに、カロクはぎこちなく頷く。
「ならば読んでいくといい。ついでに菓子でも用意させよう。」
そう言ってシリルは近くに控えていたメイドにお茶の準備をするよう命じる。双子も、それに追従していった。
そして自身は、先程まで座っていたであろうシルクの敷物に腰を下ろし、カロクにその隣に座るよう示した。カロクは促されるままおずおずと腰を下ろすと、シリルは満足そうに笑った。
2人でお茶を飲んで、本を読む。
予期せぬ邂逅だったが、その時間は思ったよりもずっと穏やかに過ぎていった。
シリルは特に何をする訳でもなかったが、目が合うとその目元も柔らかく細めた。
その度にカロクは、僅かに頬を好調させて開いた本の中へ顔を隠していた。
「これからは、もう少し兄弟の時間を増やそうと思う。」
いいか?とシリルはカロクに問う。
ゲームの設定を知っているだけに悩んだカロクだったが、未来は変えられるということを身をもって知っている。
ならば。
「その、シリル様さえ良ければ‥。」
「‥‥そうか!!」
おずおずとカロクが答えると、シリルは今までで1番の笑みを浮かべた。
しかし直ぐに何かに気づいたように、少し不機嫌そうにカロクを見つめた。
「だが、カロク。何故私を名前で呼ぶ?」
「ぇと‥‥失礼でしたでしょうか‥?」
「失礼ではないが、他人行儀すぎる。これからは兄と呼ぶように。いいな?」
シリルが念を押すようにそう告げる。
カロクは少し悩んだ後、勇気をだして口を開く。
「シリル、兄様‥‥?」
するとシリルは嬉しそうに笑った。
それからシリルは、暇を見つけてはカロクを構いにやってきた。散歩に行くカロクについてきたり、書庫で2人で本を読んだり。2人でお茶をする事も多くなった。お互いに口数が多い方ではないけれど、その沈黙も不思議と居心地は悪くなかった。
カロクの目から見ても、シリルはカロクに対して優しく接してくれているように感じる。原作の時のように、カロクが爛れた生活をしていないせいだろうか?
日中の魔族達との時間が減ると言う誤算はあったが、原作から少しでも離れられたように感じて、カロクは嬉しかった。
そうして穏やかな日々を過ごして行くうちに、魔法学の講師が決まった。若くして宮廷魔道士という役職に付いた、容姿の整った男性だ。前にシリルも、その男性から魔法学を教わっていたと言う。
名前は、キースと言った。
「よろしくお願いします、カロク様。」
そう言って、キースは愛想の良い笑みを浮かべた。
「‥よろしくお願いします。」
「礼儀正しいいい子ですね。」
そう言ってキースはカロクの頭を撫でた。
カロクは今まで孤独だったせいか、頭を撫でられるのが好きだった。ローレンスは執事という立場からあまり撫でてはくれないが、最近では兄のシリルがよく頭を撫でてくれるようになっていた。
そんな事もあってか、カロクは嬉しくなってふわりと笑みを浮かべた。魔法学を頑張れば、もっと褒めてくれるかもしれない。
そんな嬉しそうなカロクの様子に、キースはスっとその目元を細めた。気付かれぬよう、その口元に怪しげな笑みをひろげながら。
原作の設定では、父ほどでは無いけれど、優しい母を亡くす原因となったカロクを疎んでいるはずだ。
さらにカロクは素行が悪かった。それはひとえに置かれた環境によるものだったのだが、それが兄弟の溝をより深いものとしていた、とゲームの設定にはあった。
だが今のシリルからは、嫌悪どころか好意すら感じる。
未来が変わったのだろうか?
頭を撫で続けるシリルに困惑していると、ふとシリルの視線がカロクの腕の中にある本へと落ちた。
「本を読みに来たのか?」
「は、い‥。」
シリルの問いに、カロクはぎこちなく頷く。
「ならば読んでいくといい。ついでに菓子でも用意させよう。」
そう言ってシリルは近くに控えていたメイドにお茶の準備をするよう命じる。双子も、それに追従していった。
そして自身は、先程まで座っていたであろうシルクの敷物に腰を下ろし、カロクにその隣に座るよう示した。カロクは促されるままおずおずと腰を下ろすと、シリルは満足そうに笑った。
2人でお茶を飲んで、本を読む。
予期せぬ邂逅だったが、その時間は思ったよりもずっと穏やかに過ぎていった。
シリルは特に何をする訳でもなかったが、目が合うとその目元も柔らかく細めた。
その度にカロクは、僅かに頬を好調させて開いた本の中へ顔を隠していた。
「これからは、もう少し兄弟の時間を増やそうと思う。」
いいか?とシリルはカロクに問う。
ゲームの設定を知っているだけに悩んだカロクだったが、未来は変えられるということを身をもって知っている。
ならば。
「その、シリル様さえ良ければ‥。」
「‥‥そうか!!」
おずおずとカロクが答えると、シリルは今までで1番の笑みを浮かべた。
しかし直ぐに何かに気づいたように、少し不機嫌そうにカロクを見つめた。
「だが、カロク。何故私を名前で呼ぶ?」
「ぇと‥‥失礼でしたでしょうか‥?」
「失礼ではないが、他人行儀すぎる。これからは兄と呼ぶように。いいな?」
シリルが念を押すようにそう告げる。
カロクは少し悩んだ後、勇気をだして口を開く。
「シリル、兄様‥‥?」
するとシリルは嬉しそうに笑った。
それからシリルは、暇を見つけてはカロクを構いにやってきた。散歩に行くカロクについてきたり、書庫で2人で本を読んだり。2人でお茶をする事も多くなった。お互いに口数が多い方ではないけれど、その沈黙も不思議と居心地は悪くなかった。
カロクの目から見ても、シリルはカロクに対して優しく接してくれているように感じる。原作の時のように、カロクが爛れた生活をしていないせいだろうか?
日中の魔族達との時間が減ると言う誤算はあったが、原作から少しでも離れられたように感じて、カロクは嬉しかった。
そうして穏やかな日々を過ごして行くうちに、魔法学の講師が決まった。若くして宮廷魔道士という役職に付いた、容姿の整った男性だ。前にシリルも、その男性から魔法学を教わっていたと言う。
名前は、キースと言った。
「よろしくお願いします、カロク様。」
そう言って、キースは愛想の良い笑みを浮かべた。
「‥よろしくお願いします。」
「礼儀正しいいい子ですね。」
そう言ってキースはカロクの頭を撫でた。
カロクは今まで孤独だったせいか、頭を撫でられるのが好きだった。ローレンスは執事という立場からあまり撫でてはくれないが、最近では兄のシリルがよく頭を撫でてくれるようになっていた。
そんな事もあってか、カロクは嬉しくなってふわりと笑みを浮かべた。魔法学を頑張れば、もっと褒めてくれるかもしれない。
そんな嬉しそうなカロクの様子に、キースはスっとその目元を細めた。気付かれぬよう、その口元に怪しげな笑みをひろげながら。
22
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる