竜王の花嫁

桜月雪兎

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第二章

34、休日のひと時

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 リンたちの養子の申請はディスタたち文官組に任せて今日は珍しく完全オフ日になった。
 ルドワードはこの日を楽しみにしていた。
 アリシアとまる1日過ごすことができる唯一の日なのだ。
 実はこういう日がルドワードにはそんなに多くない。
 まぁ、一国の王なので休みが休みじゃない日が多い。
 ゆっくりできたと思っても次の瞬間には書類などの仕事が入ることが多い。
 完全オフ日は書類が出来ても翌日に回されることになっている。
 まぁ、これは最近できたものなんだ。
 理由はアリシアと一緒に居れる日がないとルドワードがボイコットを起こしたのだ。
 アリシアもルドワードが一緒に居てくれると嬉しいのでそれを責めることは出来なかったし、最近仕事尽くめで夫婦そろって寂しそうにしていたのを見ていたスカルディアもそれを擁護してしまったのだ。
 だから、臣下揃ってルドワードの完全オフ日を制定したのだ。
 今までが働き詰めで、それがおかしかったと言うことに臣下たちが気付いたのだ。
 それはさておき、完全オフ日の二人はと言うと。

 夫婦そろって朝寝坊…ではなく、いつも通りに起きて朝食を取り、二人仲良くサンルームで読書をしている。
 このサンルームは数代前の竜王妃の為に造られたのだがそれ以降は使われなかった。
 花を愛でるという感じもなかった上に百年戦争があった。それ以前に政略結婚であった為か先代までの竜王と竜王妃は夫婦らしくなかった。跡継ぎができればそれでいい、それ以降は自由と言う感じが強く、竜王妃にも別の愛人がいた。
 ルドワードとスカルディアの母親はスカルディアを生んだ際肥立ちが悪く、そのまま亡くなった。そこそこ仲の良かった先代竜王は戦争にその悲しみを隠すようになった。
 そんな先代竜王妃は花を愛でるより部屋にこもることが多かったし、中庭などで過ごす方がいいとの事だった。
 それでこのサンルームの存在自体が忘れ去られていたが、たまたま散歩をしていたアリシアが見つけた。見つけた当初は荒れ放題だったが、アリシアがこのサンルームを気に入り、手入れをするようになったことで復活した。
 今では色とりどりの花が咲き誇り、サンルームなので寒さに弱い花や樹木も誇らしげに咲いている。
 そして、この中央にはゆったりと座れる長椅子とテーブルを置いている。
 二人はここで一緒に過ごすのがお気に入りだ。
 アリシアの膝にシリウスから貰ったひざ掛けをかけ、その上に冷えないように卵を包んでいる。アリシアの横にはルドワードが座り、卵ごとアリシアを抱えている。アリシアはルドワードにもたれ掛かり、二人で見るように本を広げている。
 アリシアはそれを卵にも聞こえるように音読している。
 アリシアが読む本は子供に読み聞かせるような優しい優しい童話ばかりだ。
「……こうして子猫は無事お父さんとお母さんと一緒に幸せに過ごしました」
「ふふ」
「ルド様?」
「最近はそれが多いな。お気に入りか?」
「そうですね。家族が皆一緒で幸せに過ごせるのは幸せですよね」
「ああ、そうだな。これからはそうだよ」
「はい」
 一瞬、寂しそうにしたアリシアに何でも無いと言うようにその頬にルドワードはキスを贈った。それをくすぐったそうに微笑みながらアリシアは受け取った。二人は顔を合わせれば微笑みあっている。
 午前中はそうして過ごし、昼食をとるとその後はゆっくり散策を楽しんでいる。それは気分次第で場所を変えるがさすがにお忍びで街に出ようとしたらスカルディアをはじめとした全員に全力で留められた。
 確かに卵を抱えて出るのは良くない。
 だから、城内散策をし、それが終わると部屋に戻り、お菓子をつまみながら午後のお茶を楽しんだ。
「ふふ」
「シア?」
「いえ、幸せだなぁっと思いまして」
「そうだな」
「兄貴たちは楽観的な気がする」
「そうか?」
「そうでしょうか?」
「ああ、リンたちの手続きが終わってもまだやる事はあるんだぞ?」
「スカルは心配性だな。最高の条件がそろったんだ。それに最終的に決めるのはアルシードとリンの気持ちだ。現グレイ家当主から当主の器ではないと判断された者たちの戯言などどうとでもなる」
「そうだが」
「それにルド様の推薦を蹴れるほどの人ではないでしょ。大丈夫ですよ」
「シア姉、ちょっと黒い?」
「そんなことありませんよ。私は私の大切な方々に幸せになってほしいだけです」
「そうだな」
 相変わらずの似たもの夫婦をみてスカルディアはため息をついた。
 確かに黒くない、どちらかと言うと邪魔をする者に対して少々冷たいだけだ。だが、そういうのは誰しもそうなので仕方ない。
 誰しもを許せる聖人君子などこの世にはいないのだ。
 そんなこんな穏やかな日を過ごした。
 夜は卵を間に挟み、向かい合わせに横になる。お互いの手は卵の上に置き撫でた。
 最初に眠りにつくのはいつもアリシアの方だ。
 卵と見えない力で繋がっているので自身だけの体ではなく、知らず知らずのうちに体力を使っている。
 そんなアリシアと卵をルドワードは優しい瞳で見つめている。
「ああ、愛しい我が子よ。早くその姿を私とシアに見せておくれ」
 ルドワードはそう願いながら眠りについた。

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