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第二章
9、マティスとアリシア②
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マティスの涙に気づいたリリアは驚いた。自然と流れる涙を拭くこともなく、アリシアを見ている。その姿は慈愛に満ちている。
「マティス様?」
「いや、やっとシアに会えたと思ってな」
「お兄様」
「あいつらによってシアに会えなくなって8年、この日をどんなに待ちわびたか」
「ご心配をおかけしました、マティスお兄様」
「いいのだ、シアは何も悪くない。あいつは何も分かっていないのだ、もともと父上が言うには出来のよくない者だったらしい」
「お兄様」
「ああ、シア、悪気はないんだ許してくれ。俺たちはお前に会いたくて仕方なかったんだ」
「はい」
しばらく、マティスは侍女たちと再度プレゼントを開けて楽しそうにしているアリシアを見ていた。そこには純粋に従妹にあえて喜んでいる姿しかなかった。
アリシアも8年間会えずとも気にしてくれた存在がいたことに喜びを感じていた。
アリシアの暗く、寂しく、過酷な日々はドラグーンに嫁ぐことでその闇から光に向かっていった。それはどうやら置いてきたはずのユーザリアにもあった。
アリシアはそれを知れて心から喜んだ。
アリシアにとって領民は守るべき母親から授かった者たちだった。だが、嫁ぐことになり守れなくなる可能性があった、今の悪政をアリシアはユーザリアの王宮にいる時に知った。立て直しをしたいと、領民を助けたいという思いは実母からの唯一の贈り物のように感じていたからだ。
でも、年に一回、誕生日の日に会いに来ようとしてくれるマティスたち兄弟をアリシアは知っていた。その思いが、暖かかった。でも、それに触れることは一生ないと思っていた。
守るべき領民や領地も守れず、どんなに望んでもその暖かいものに触れることはできない。それは何より残酷にアリシアの心に重くのしかかっていた絶望だった。
「お兄様、私は毎年来て下さるお兄様たちのことを知っていました」
「え?」
マティスは驚いた。急に昔の話を始めたアリシアに。
それでもアリシアの真剣な表情を見てマティスはその言葉を聞き漏らさないように、聞く態勢に入った。アリシアがこれから話すことは今後のことだと直感的に思ったからだ。
「私の魔力を封じても、すべてが封じれるわけではありません。ほとんど使えませんでしたが唯一遠視だけはできました」
「そうか」
「私に会いに来て下さろうとしてくれるのはお兄様たちでした」
「うん」
「領民の皆さんは何時も気遣って下さいました。私は病弱だと言われていたようですので」
「そうか」
アリシアはここで一回話を切った。それはそのことを思い出しているからだ。それでもこれはアリシアが『置いて行きたくなかった想い』なのだ。
アリシアにとって記憶に少ない実母との生活や教えがすべてだったがそう思えるだけのことがあるからだ。
そのきっかけをアリシアは忘れたくなかった、置いて行きたくなかった。
アリシアは覚悟を瞳に宿してマティスに託すことにしたのだ。
今後、ウィルザルド領から父親も妹もいなくなる。だが、それでは終わらない。それを引き継ぐ者がいる。それは信頼できる相手だ。それでもアリシアは言葉にしたかった、自身の覚悟を伝えたかったのだ。
ウィルザルド領の復興と領民たちの幸せを望んでいると、マティスにそのすべてを託すと、信頼しているのだと。
「私は幸せ者です。こうして、ルド様と一緒になれて、信頼できるマティスお兄様に大切な領地や領民の皆さんのことを託せます」
「ああ」
「お兄様、どうか、ウィルザルド領のことよろしくお願いします」
「ああ、任せておけ。早めに復興して、アリシアが里帰りしたいと思えるようにしておく」
「はい!」
マティスはアリシアの覚悟を受け取った。
これから先、アリシアを追い込んだ現況たちはいなくなる。それでも心に残った傷は根深い、それを乗り越えて里帰りをしたいと、領民たちに会いたいと、自身に会いたいと思ってもらえるようにマティスは領地のことを受け取った。
これは遺言で残った遺志ではなく、今生きるアリシア自身からもらった覚悟であり、意志だ。
マティスはそれにこたえていく覚悟を心に刻んだ。
「マティス様?」
「いや、やっとシアに会えたと思ってな」
「お兄様」
「あいつらによってシアに会えなくなって8年、この日をどんなに待ちわびたか」
「ご心配をおかけしました、マティスお兄様」
「いいのだ、シアは何も悪くない。あいつは何も分かっていないのだ、もともと父上が言うには出来のよくない者だったらしい」
「お兄様」
「ああ、シア、悪気はないんだ許してくれ。俺たちはお前に会いたくて仕方なかったんだ」
「はい」
しばらく、マティスは侍女たちと再度プレゼントを開けて楽しそうにしているアリシアを見ていた。そこには純粋に従妹にあえて喜んでいる姿しかなかった。
アリシアも8年間会えずとも気にしてくれた存在がいたことに喜びを感じていた。
アリシアの暗く、寂しく、過酷な日々はドラグーンに嫁ぐことでその闇から光に向かっていった。それはどうやら置いてきたはずのユーザリアにもあった。
アリシアはそれを知れて心から喜んだ。
アリシアにとって領民は守るべき母親から授かった者たちだった。だが、嫁ぐことになり守れなくなる可能性があった、今の悪政をアリシアはユーザリアの王宮にいる時に知った。立て直しをしたいと、領民を助けたいという思いは実母からの唯一の贈り物のように感じていたからだ。
でも、年に一回、誕生日の日に会いに来ようとしてくれるマティスたち兄弟をアリシアは知っていた。その思いが、暖かかった。でも、それに触れることは一生ないと思っていた。
守るべき領民や領地も守れず、どんなに望んでもその暖かいものに触れることはできない。それは何より残酷にアリシアの心に重くのしかかっていた絶望だった。
「お兄様、私は毎年来て下さるお兄様たちのことを知っていました」
「え?」
マティスは驚いた。急に昔の話を始めたアリシアに。
それでもアリシアの真剣な表情を見てマティスはその言葉を聞き漏らさないように、聞く態勢に入った。アリシアがこれから話すことは今後のことだと直感的に思ったからだ。
「私の魔力を封じても、すべてが封じれるわけではありません。ほとんど使えませんでしたが唯一遠視だけはできました」
「そうか」
「私に会いに来て下さろうとしてくれるのはお兄様たちでした」
「うん」
「領民の皆さんは何時も気遣って下さいました。私は病弱だと言われていたようですので」
「そうか」
アリシアはここで一回話を切った。それはそのことを思い出しているからだ。それでもこれはアリシアが『置いて行きたくなかった想い』なのだ。
アリシアにとって記憶に少ない実母との生活や教えがすべてだったがそう思えるだけのことがあるからだ。
そのきっかけをアリシアは忘れたくなかった、置いて行きたくなかった。
アリシアは覚悟を瞳に宿してマティスに託すことにしたのだ。
今後、ウィルザルド領から父親も妹もいなくなる。だが、それでは終わらない。それを引き継ぐ者がいる。それは信頼できる相手だ。それでもアリシアは言葉にしたかった、自身の覚悟を伝えたかったのだ。
ウィルザルド領の復興と領民たちの幸せを望んでいると、マティスにそのすべてを託すと、信頼しているのだと。
「私は幸せ者です。こうして、ルド様と一緒になれて、信頼できるマティスお兄様に大切な領地や領民の皆さんのことを託せます」
「ああ」
「お兄様、どうか、ウィルザルド領のことよろしくお願いします」
「ああ、任せておけ。早めに復興して、アリシアが里帰りしたいと思えるようにしておく」
「はい!」
マティスはアリシアの覚悟を受け取った。
これから先、アリシアを追い込んだ現況たちはいなくなる。それでも心に残った傷は根深い、それを乗り越えて里帰りをしたいと、領民たちに会いたいと、自身に会いたいと思ってもらえるようにマティスは領地のことを受け取った。
これは遺言で残った遺志ではなく、今生きるアリシア自身からもらった覚悟であり、意志だ。
マティスはそれにこたえていく覚悟を心に刻んだ。
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